表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代科学魔法と落第生の部活指導員  作者: たなお
1章 マジッカーフロンティア県代表戦編
20/63

20話 シンの休日

 ――早朝の二宮家にて。

 

 土日平日問わず、昼まで寝ているはずのシンが、この日だけは朝早く起床した。

 リビングでトーストとコーヒーというシンプルな朝食を取っている瑠偉に近づくと、ごまをするかのように両手をあわせる。


「あーねーきー♪」


 妙にニコニコするシンを不審に思った瑠偉は、顔をしかめる。


「私は忙しい。後にしろ」

「いいじゃねえかよー。俺と姉貴の仲だろ? 頼み事があるんだけどさー」


「シンがヘラヘラして頼み事をしてくる時点で、聞く価値が無いと判断できる」

「ひどっ! さすがの俺も傷付くぜ! 聞くだけでいいからさ、頼むよ!」


「言ってみろ。事と内容次第では、協力してやる」

「愛してるぜ、姉貴! ほら、俺もニート辞めて働いてるわけじゃん?」


「私が職を与えたからな」

「これから俺は汗水垂らして労働して、社会的地位を得るために金を稼ぐことになるわけじゃん?」


「ニートがバイト始めた程度で、社会的地位とぬかすな。今のシンは底辺より、ほんのわずか上程度だ」

「姉貴の言葉はトゲありすぎ。泣くぜ? そんで本題に入るけど――」


 シンは額、両手、額をフローリングの床にこすりつけた。


「ギブミーマネー!」


 見事な土下座である。


「待ってろ。包丁を持ってくる」


 瞳のハイライトを消した瑠偉が、静かに立ち上がる。


「冗談でもやめろよ! 目がマジなんだよ!」

「一応、金を欲しがる理由だけは聞こう」


 土下座の体勢から、瑠偉を見上げるシンは、うざったらしい表情をすると悠々と語り始める。


「部活指導員のバイト初めても、給料日が来るまで俺の財布は薄いままなんだぜ。俺も19で後数ヶ月もすれば20歳だ。そんで、せっかくだから競馬かパチン――」


 ヒュンッ!


 シンの顔横をバターナイフが通過する。

 勢い余って壁に衝突せいで、バターナイフがぷらーんと突き刺さっていた。

 突然の出来事にシンは、目をパチパチとさせて、あんぐりと口を開く。


「な、な、な……」

「ふざけるのも大概にしろ。次は当てるぞ」


 どこから取り出したのか、瑠偉が2本目のバターナイフを構える。

 窓から射込む朝日を弾き、まるで刃物のようにキラリと光るバターナイフ。

 これ以上は、命に関わると悟ったシンは、身体を起こして、ピンと背筋を伸ばす。


「行きたい店があるんですけど、交通費がないんです。給料日は、まだ先だから」

「そういうことか。だが、行ってどうする? 別に給料が出てから行っても、遅くはないだろう」


 ごもっともな言い分だった。

 二宮シンという男は、自分語りを嫌う傾向にある。例え、血の繋がった姉でも、内面を少しでも晒すことには抵抗はあった。


 しかし、今は金を借りようとしているのだ。瑠偉が納得する理由程度は、提示する必要がある。

 シンは、頭を掻くと渋々と口を開いた。


「給料日になったら、買いたい物あるんだけどさ、それが中々高いのな。だから、店に行って品定めをしてーんだよ。バス代だけでいいからさ、頼むよ姉貴」

「はぁ……」


 弟に、しおらしく懇願され、瑠偉は調子が狂った。

 自分の甘さに頭をかかえつつも、瑠偉は、革製の財布から紙幣を取り出すと、シンに手渡した。


「ほら、くれてやる」

「おいおい、一万円じゃねえか! こんなにくれるのか!」


「ニート脱却祝いだ」


 喜びのあまり、シンは立ち上がると、一万円札を両手にクルクルと回り始めた。 


「感謝するぜ、姉貴! 余ったぶんでエロDVDでも借りてくるか!」

「やっぱり交通費以外は返せ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ