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落第生部活指導員と現代魔法スポーツ  作者: たなお
1章 マジッカーフロンティア県代表戦編
18/65

18話 シンの涙

「この――馬鹿があああああああああああッ!」 


 修羅(しゅら)形相(ぎょうそう)

 怒りを顕わにしたシンに、愛那と祐乃は、ビクッと震え上がる。


「何をしでかしたかわかってんのか! このクソガキがッ! 何度も何度も何度も同じこと言わせんなッ! 取り返しがつかなくなる前に、メンテしとけの言葉の意味がわからなかったのかッ!」


 手首から走る激痛も忘れるほど、シンの怒りは凄まじい。

 愛那は、涙を浮かべて、自分の非を認めるしかなかった。


「ご、ごめんなさい……。こんなことになるなんて知らなくて……」

「はぁっ!? この程度のことも知らなかったのかッ! 知識不足も(はなは)だしいッ! 何が努力してるだッ! その程度も学べてない努力に価値はないッ!」


 シンの言葉は、これまでの愛那を完全否定するモノだ。


 しかし――言い返せない。


 彼の正論が、心に突き刺さり、舌がもつれ、反論する言葉すら浮かばない。


「人命に関わることだ! 知る知らないの問題じゃねえんだよッ! 俺の警告さえ聞いてれば、こんなことは起きなかった! もしも、俺が間に合ってなかったら、お前も祐乃も死んでたぞ! 人の話を聞かない独りよがりのクズがッ!」


 ――独りよがり。


 この言葉に自分の全てが現されていた。

 自分の愚かさに、必死に堪えていたモノが崩壊していく。


「うあぁぁ……うぁぁぁ……ぁあぁぁ……」


(しまった。やっちまった……)


 5つも年下の女の子に激昂すれば、泣かれるのは当然だ。

 目の前で泣かれてしまい、冷静な思考を取り戻したシンは、顔を抑えた。

 

 爆発音が原因で野次馬が集まり始めている。

 公衆の面前で怒鳴りつけたこともあり、今のシンと愛那は、注目の的だ。


 部活指導員が、歳もいかない女の子を泣かせた。これだけで、野次馬達は妙な勘違いをおこす。

 騒ぎの発端は愛那にあるのだが、泣かせたのはシンだ。


 罪悪感が生まれ、心を締めつけられる。

 シンは頭をポリポリと掻くと、愛那に背中を向けた。


「わるかったよ。俺も熱くなりすぎた。もうこの部活には顔を出さねーし、金輪際(こんりんざい)洛咲中学(らさきちゅうがく)に近づかない」

「まって……」


 服の袖をギュッと掴まれ、シンは足を止める。

 振り返り、袖を掴んできた愛那の腕を見ると、それは酷い有様(ありさま)だった。


 マジックギアを装着していた箇所の皮膚が剥がれて流血している。

 ポタポタと滴る血液が、その傷の生々しさと痛々しさを物語っていた。


「教えて……」

「なにをだよ? 手当ての仕方か? それなら――」


「そんなのどうでもいい……。あたしが弱い理由を教えてよ……」

「自分で考えるんだな」


 愛那の問いかけを、素っ気なく返す。

 あまりにも痛々しい傷口を見ていられなかったのだ。

 ギュッと、袖を掴む力が強くなる。


「教えてよ……わからないから聞いてるの……」

「……お前は病んでるんだよ。俺が言えるのは、それだけだ」


 冷淡な対応であるが、ボタボタと大粒の涙を流す愛那にかける言葉を、シンは持ち合わせていなかった。


「――シン! さっきの爆発はなんだ!?」


 爆発音を聞きつけた瑠偉(るい)が、野次馬をどかしながら、顔色を変えて駆け寄ってきた。

 よほど焦っていたのか、すっかり息が上がっている。


「姉貴……」

「これは、いったい……?」


 瑠偉は、愛那の隣でしゃがむ。

 愛那の酷い有様の腕を見た瞬間、顔を強くしかめた。


「これは酷いな。保健室で手に負えるモノではない。いますぐ病院に連れて行く」

「それがいいだろうな。頼むぜ、姉貴」


「シンも来い。車を出す。菅原ほどではないが、おまえも重傷だ」

「断る。病院とかロクでもない場所は嫌いなんでね。それに俺は、そこの女と最高に仲が悪い。一緒の車に乗るのは、お断りだぜ」


「仲をどうこう言ってる場合ではないッ! はやく――」

「んじゃ、俺は疲れたから、先に帰宅するぜ。姉貴も遅くなるなよ」


「おい、シンッ!」


 瑠偉が止めるのも聞かず、シンは手を振って、中庭を去って行った。


「まったく、あいつは……」


 意地っ張りな弟の後ろ姿に、瑠偉は呆れるしかなかった。



 ~ ~ ~



「独りよがりで、()()()()()なバカが爆発を起こすだと‼なんだってんだ。クソッ‼俺のトラウマを抉って、楽しいかよ‼」


 夕日で照らされた帰路で、八つ当たり気味に電柱を殴る。


「マジでやめてぇよ……部活指導員なんてよ……」


 シンの目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 それほど今回の事件は心にキていた。


 けれど、それでもシンは給料が欲しかった。

 どうしても――買いたい物があったから。

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