17話 俺の怒りが爆発した日
「くだらない戦いをしたせいで、眠くなっちまったぜ。さーて、部室に戻って、一眠りしてくるかなー」
シンは欠伸をして背筋を伸ばす。
放心する愛那に、ずっと傍らで2人の戦いを観戦していた祐乃が駆け寄った。
「とっても強かったねー。次は頑張ろう、愛那ちゃん」
――安い同情なんていらないッ!
カッとなった愛那は、祐乃の手を払い退けた。
「触らないで!」
「愛那ちゃん……」
「何かの間違いよ! あそこまで手も足も出ないなんて!」
仮にも部活指導員だ。多少、手強いことは想定していた。
だが、あそこまで、一方的な敗北は納得できない。
「もう一度勝負してッ!」
背を向けるシンに、マジックギアを構えた。
シンがふと足を止める。
「やめとけ。マジックギアがガタついてる。取り返しがつかなくなる前に、メンテしとくんだな」
「うるさいッ!」
もう自棄だった。
マジックギア装着者同士の戦いであれば、プロテクト機能が威力を軽減するが――シンはマジックギアを外している。
これでは、怪我を負わせてしまう。
それを理解しておきながら、愛那は怒りに任せて、シンに魔法を放とうとしてしまった。
しかし――
「な、なに? 熱い!?」
魔法は放たれず、愛那の腕を膨大な熱が襲う。
キュイィィィィィン……
マジックギアのモーターから、不穏な金属音がなる。
排熱に支障で出ているらしい。
本来は、ここで安全装置が働いて、強制的に機能が停止する作りになっているが――愛那のマジックギアは度重なる行使によって、安全装置すら壊れていた。
皮膚が焼けていく感覚。
焦げた臭いが、マジックギアからではなく、自分の腕から発生していることに気付いた時――底知れない恐怖が、愛那を襲った。
「あ、愛那ちゃん!」
突然の事態に、わたわたする祐乃。
マズいことが起きているのは、誰の目から見てもわかる。しかし、どう対応すればいいのか、わからなかった。
「どけ、祐乃ッ!」
――その時、颯爽とシンが駆けつける。
普段、気だるげで物臭なシンだが、このときだけは、酷く焦り、何かに怯え――まるで別人の顔だ。
高熱のマジックギアを躊躇なく握ると、サイズ調整用のネジを触る。
「熱でネジもおかしくなってやがる! 無理矢理にでも外すぞッ!」
ジュッと皮膚が焼ける音。
苦痛でシンの表情が歪むが、それでも両手は離さない。
「ちくしょう! 間に合え!」
「――痛いッ!」
強引に引っ張り、マジックギアに張り付いてしまった皮膚が剥がれる。
マジックギアが外れて、これで一段落――なわけもない。
排熱が上手くいかないせいで、マジックギアは赤く膨張していた。
シンは、周囲を見渡す。
ここは中庭。人通りも少なくない。
やむを得ないと判断したシンは腰を入れると、愛那のマジックギアを全力で空に放り投げた。
どおぉぉぉぉぉん!
紅い閃光と焦げた金属片が降り注ぐ。
突然の出来事に愛那が茫然自失していると、両掌に火傷を負ったシンが、息を荒げて――
「この――馬鹿があああああああああああッ!」
――怒鳴りつけた。
あの自堕落なシンから想像もつかない怒声。
シン自身、これほど怒りの感情が膨れ上がったことに驚いた。