16話 シンVS愛那4
「もう飽きたな。多少、乱暴だが、さっさと終わらせる。《爆炎よ、具象化せよ。爆熱剣エクスプロージョン》」
シンのマジックギアを中心に、轟々しい炎が発生する。
炎が消えた時、シンの手には、紅い刀身が握られていた。
「爆魔法の剣は、こんなもんか」
シンは気だるげに、すらりと伸びる美しい剣を構える。
「《シール――」「間に合わねえよ」
未完成の薄いシールドが、貫通される。
紅い刃は、愛那のマジックギアに振り降ろされた。
ガキンッ
金属音が愛那の耳をつんざく。
スコアボードが更新される。
【菅原愛那 HP55】
【二宮シン HP5】
「い、一撃で25も削られた……ッ!」
マジックギアは急所だ。
攻撃がヒットした場合、他の部位よりも多くのHPが削れる。
それでもソードモードの攻撃で、25は規格外とも言えるダメージだ。
危機感が愛那を襲う。
――この人、強い!
けど、この人のHPは5しかない‼勝てる、絶対に勝てる‼
愛那はそう自分に言い聞かせた。
「もう一度よ!《出でよ、暗黒剣・オメガ》」
再び、魔法陣から黒剣を取り出す。
「いくわ――」「隙まみれだな」
また削られる。
「チョコマカと動かないでよ!」「ヘタクソが」
シンは瞼を閉じながら、気だるそうにのらりくらりと剣をかわす。
そして、愛那の息が上がったタイミングを見計らい、反撃。
また削られる。
「く……ッ」
たった5。雀の涙に等しいHPというのに――愛那には、その5が、酷く遠かった。
そして――
【菅原愛那 HP5】
【二宮シン HP5】
遂に追い詰められてしまった。
「お前の言う努力が、意味を成さないモノだと理解したか?」
「努力は必ず、結果に繋がるのよッ!」
「はぁ…まったく。だっりーな」
「ふざけたこと言わないで!」
シンは勝負を続ける意味はないという意思表示か、自身の剣を霧散させる。
もちろん、愛那は勝負をやめるつもりはない。
全身全霊の力を《オメガ》に込めて、大きく振り上げられ
――全身を駆け巡る幸福感。
こんな近距離の攻撃をかわせるはずがないッ!
「やった、勝っ――」
「――学ばない女だな」
背中を襲う衝撃。
次の瞬間、愛那の身体は浮いて、頭から地面に衝突する。
ビーッ
勝敗をを知らせる音がマジックギアから鳴り響く。
スコアボードに、視線を動かした。
【菅原愛那 HP0】
【二宮シン HP5】
愕然。愛那は、膝に力が入らず、地面に屈伏したまま、立ち上がれない。
退部という文字が、脳裏をよぎる。
「負けたの……、あたし……」
勝利を確信した瞬間、正体不明の攻撃を喰らって、あっけなくHPが尽きた。
無様に呆然としている愛那をシンは――見おろす。
いや、見下していた。
「また俺の魔力チャージを見逃したな。せっかく一度注意してやったのに、同じミスを繰り返すな」
そう言うとシンは、マジックギアを外す。
「勝負に勝ったとは言え、強制退部なんてさせたら、姉貴になんて言われるか、わかったもんじゃねえ。辞めろとは言わないが、今後もマジッカ―部を続けるか、考え直すんだな」
「そ、そんな……」
「くだらない戦いをしたせいで、眠くなっちまったぜ。さーて、部室に戻って、一眠りしてくるかなー」
シンは背を伸ばすと眠そうに大きなあくびをするのだった。