15話 シンVS愛那3
「警告だ。惨めな姿を晒したくなかったら、ここで降参しろ」
「ふざけないでッ! あなたのHPは一桁なのよッ!」
「お前は絶対に勝てない。勝ち筋は潰れてんだよ」
「《唸れ、暗黒・ダーカー!》」
起き上がって、右手をシンに向ける。
「学ばない女だな」
魔法の発射と同時に、愛那の腕が持ち上げられる。
射線がズレた魔法は、シンの顔横を過ぎ去った。
「バカの1つ覚えのように、同じ魔法しか使わないな。これは魔法競技だぜ。多彩な魔法を派手に撃ち合ってこそ、映えるスポーツだ」
「勝敗が全てよ! 派手さは関係ないわ! あたしは効率的に魔法を使ってるだけよ!」
「効率を言い訳に、自分の技術不足を誤魔化すなよ。お前、《ダーカー》しか使えないんだろ」
「使えるわよ! マジックギアに、強力な魔法をインストールしてるから!」
「じゃあ、見せてみろよ」
愛那の腕を離したシンは、あざ笑いながら腕を組む。
「お前が言う、強力な魔法とやらを撃ってみろ」
愛那はスコアボードを一瞥する。
シンのHPは、何度確認しても5と表示されている。
かすり傷程度で、敗北が確定する状況というのに、シンは一切動じない。
それなのに撃ってみろと、挑発する肝の据わり方は、強者の貫禄だ。
自分が圧倒的に有利というのに、怖じ気付きそうになる――なんなの? この男はいったい、何?
さっきまでの間抜けな二宮シンは、どこにいった?
「ほら、さっさと来い。どうせ、口だけだろ」
シンは、手をクイクイッと曲げて煽る。
「口だけじゃない――ッ!」
先程感じた強者の貫禄は、全て勘違いだ!
愛那は、マジックギアの魔力を過剰に練り込む。
オーバーキルも良い所だが――自分の実力を、この男に証明してみせる!
「――詠唱開始」
愚者が畏怖する黒き龍を思い描く。
空を覆い尽くす巨躯――
瞳に映れば命乞いをする研ぎ澄まされた爪――
魂ごと砕く牙――!
「《愚鈍なる牙・ギルドラゴン》」
3つの魔法陣が形成。
重なると黒い霧を発して回転を始める。
一気に拡大した魔法陣から、魔力で禍々しく、造形された黒龍が顔を覗かせる。
黒龍が放たれれば、シンは闇に呑み込まれ、敗北するだろう。
しかし、シンは微動だにしない。
まるで、結果を見通しているかのように――
「な、なんで――ッ」
魔法陣がひび割れる。
ガラスのように砕け始め、黒龍ごと霧散する。
「経験不足に技術不足。よくもまあ、こんな欠点まみれで勝負を挑んできたな」
シンは嘆息すると、愕然とする愛那に歩みよる。
「もう飽きたな。多少、乱暴だが、さっさと終わらせる」