13話 シンVS愛那
日が暮れ始め、夕日に照らされた中庭にて。
【菅原愛那 HP100】
【二宮シン HP100】
と表示された電子スコアボードを挟むようにシンと愛那は、対峙する。
「あたしが勝ったら、もう二度とマジッカ―部――いいえ、洛咲中学の敷居をまたがないで!」
すっかり頭に血が昇った愛那に、シンは「やれやれ」と首を振る。
「俺は、金が必要なんだよ。給料日になったら、お望み通り辞めてやるって。まあ、お前の気持ちは、伝わったぜ。今すぐ、消えて欲しいんだろ?」
「そういうことよ!」
「でもこれは勝負だぜ。俺が勝利した場合、なにを要求されるか理解したうえで、勝負を挑むんだな?」
「そ、それは……」
――退部。
愛那の脳内によぎる一つの単語。
嫌だ。最悪だ。絶対にその要求は、受け入れない。
しかし、シンの要求はもっともである。
愛那が部活指導員を辞めろと、要求しているのだから。
(もし……負けたら……)
背筋がぞっとする未来を想像してしまった。
愛那には、目標がある。
マジッカ―部に在籍しておくと、有利になれる目標だ。
この決闘とも言える戦いは、そんな愛那の目標を棒に振りかねない。
(なにを怯えてるのよ、あたし!)
今の愛那には、この勝負に勝利出来る確信めいた自信がある。
(こんな不真面目な男に負けるはずがない……!)
そう信じていた。
「好きにすればいいでしょ」
「覚悟は出来てるようだな」
「嫌みな口調ね。絶対に勝つわ」
「ふん、独りよがりが……」
お互いにマジックギアを装着すると、5mほどの距離を空ける。
「「《チャージオン》!」」
お互いのマジックギアに、魔力が生成され、バチバチと発光する。
いつでも魔法が放てる状態と化す。
先制攻撃は、シンだ。
「《爆ぜろ・クイックバースト》」
爆魔法といえ、比較的使い勝手の良い魔法を選択して、詠唱する。右手から電光が走り、対象に衝突して、バンッと爆発する――はずだった。
しーん
シンのマジックギアは、ウンともスンとも言わない。
「魔法出ねーぞ。壊れてんのか?」
シンは原因が分からず、首を傾げると、マジックギアの小型液晶から、内部設定を確認する。
「このマジックギア、大型魔法しか使えないじゃねえか!? 汎用魔法すら、使えないのかよ! 一撃必殺技しか覚えてないポ〇モンじゃねえんだぞ!」
思わずシンは、ノリツッコミをしてしまう。
祐乃は、対人戦の経験がなく、派手な爆魔法を放つことに喜びを感じている。ゆえに使い勝手が良い代わりに、派手さに欠ける魔法は微塵も興味がなかった。
しかし、立ち回りが求められる対人戦で、汎用魔法は必要不可欠。
「《唸れ、暗黒・ダーカー!》」
「おわーっ!」
当然、そんな隙を愛那が見逃すはずもなく、闇の汎用魔法がシンを襲う。
スコアボードに表示される数字に変化が起きる。
【菅原愛那 HP100】
【二宮シン HP85】
見事な先制攻撃が決まった。
愛那の表情に、小さな喜びが浮き出る。
「汚えぞ! 祐乃のマジックギアのことを知ってたから、自信満々に勝負を受けやがったんだな!」
シンの訴えは、当然無視。
汎用魔法を駆使して、勝つつもりだったのだろう。だから、使用出来る魔法の確認すら怠った。
物臭な性格が祟ったのだ。自業自得である。
「《出でよ、暗黒剣オメガ》」
愛那は、出現した円法陣に手を入れると、豪快に引き抜いた。
マジックギアの《ソード》モード。
生成された愛那の剣は、人を斬るには適さないほど酷く歪み、シンを威圧するように黒い雷閃が弾けていた。
「いくわよ!」
シンは、ロクに魔法を使えない。
《ソード》で接近戦に持ち込めば、詠唱も妨害できる。
魔力のチャージに時間を有する大型魔法なんて、使えるはずもなかった。
「おいッ! 待て待て!」
必死に使える魔法がないかと確認しているシンを刃が襲う。
「ぬああああああああ!」
鬱憤混じりに、愛那は剣を振り続ける。
「おわーっ!」
ズバッ
「ぎょわーっ!」
ズバッ
「にゅわーっ!」
ズバンッ
一方的な攻撃に、シンのHPがみるみると減少していく。
その結果――
【菅原愛那 HP100】
【二宮シン HP5】
スコアボードに現実を告げる残酷な数字が表示される。
――やはり、言葉だけの男だった。
「これで、あたしの勝ちよ!」
勝利を掴む一閃が、シンの頭部に振り落とされる。
勝った! これで――
「なーんてな」