12話 シンの煽り
「――菅原愛那。おまえは今日中に、マジッカ―部を辞めてくれ」
言葉の意図がわからず、愛那は呆然と目を見開いた。
「鳩が豆鉄砲喰らったような顔すんなっての。言葉の通りだぜ」
我に返った愛那は、両拳をわなわなと震わせる。
「どういう意味よ!」
「おまえは、マジッカ―部に不要な存在なんだよ。邪魔だぜ」
「邪魔ですって……! 散々、グータラしてた、あなたに言われたくないわ!」
「グータラしながらでもな、おまえのお遊戯は、見れるんだぜ」
そう言って、シンは立ち上がると窓際に移動する。
その窓に映るのは、愛那が日々、部活動で使用する中庭だ。
「あそこに生えたチンケな木に魔法を撃ってるけどさ。毎日、なにやってんの?」
「練習に決まってるじゃない!」
嘘偽りない、愛那の言葉。
しかし――シンは、噴き出した。
喉奥が見えるくらい大きく口を開けて、下品に笑う。
「ハハハハハハッ! 傑作だな! 本気で言ってんの、おまえ!? マジッカ―は、対人戦だぜ! 木に魔法を撃つだけの練習で、強くなるわけねーだろ。それを努力と言って、日々頑張ってるつもりか? どんだけ愉快な脳味噌してんだかね!」
シンの下品な笑いは、止まらない。
「挙句の果てには、マジッカ―部もこのザマだろ? 一週間、お前を見てわかったわ! 崩壊したんだろ、この部活? くっだらねー! ハハハハハハッ!」
ぱぁん。渇いた音が響く。
シンは、赤く腫れた頬を摩った。
「うるさいッ! あなたに、なにがわかるってのよ!」
仮にも部活指導員であり、年上でもあるシンに対しての暴力行為。
近年、この手の事案は、すぐに問題として取り上げられる。どれだけ、シンに非があろうとも、愛那は暴力で訴えた。
この事実だけで、教育委員会が、停学処分を下すこともある。
中学二年という、一年後に受験が控えたデリケートな時期。
シンが上に報告した場合、愛那は破滅するかもしれない。
それでも――この男の発言だけは、看過できなかった。
「どうして、誰よりも頑張ってるあたしが、怠け者に言いたい放題、言われなきゃいけないのよ!」
「誰よりも――か。誰と比べてんだかな」
シンは、片隅に目を逸らすと、再び愛那を冷たい視線を送る。
「頑張ってるから、強くなるわけじゃねえぞ。それにハッキリ言ってやる。お前、弱いだろ」
人を踏みにじる態度が、愛那の怒りのボルテージに、拍車をかけた。
「頑張ってるわよ、誰よりも!」
愛那は眉間に皺を寄せ、指を突きつけた。
「勝負よ! 二宮シン! あたしの努力を見せてあげるわッ!」
勿論、シンが勝負を受ける義理はない。
だが、この時のシンは、二つ返事で「いいぜ」と返答する。
「弱いから勝負を拒否されたと勘違いされたら、癪だからな」
本心は隠すが、愛那を蔑む態度は改めない。
「祐乃。マジックギアを貸してくれ」
「え、え?」
部室の片隅にいた祐乃は、突然話しかけられて、驚いたようだった。
「俺、マジックギアを持ってないんだ。頼む、貸してくれ」
「で、でも……、このマジックギアは、爆魔法専用だよ……?」
「爆魔法は、扱い難しくて使ったことねーな。まあ、大丈夫だろ」
祐乃は躊躇いながらも、歩み寄ってきたシンに、マジックギアを渡す。
「サンキュー」
シンは、借りたマジックギアのねじを緩めると、自身の腕に合ったサイズに調整する。
「よーし、これで、魔法が使えるようになったぜ」
「喧嘩は、よくないよ……」
心配そうに祐乃は、二人を見つめるのだった。