11話 元ニートは問題点を見抜いていた
部室に着いた愛那は、とにかくイラついた。
二宮シンのやる気のなさは、常軌を逸している。
姉の目があるので、遅刻こそないが、部室に来たかと思えば、寝るかスマホを弄るか。
ふらふらと学校を抜けだそうとしては、瑠偉に捕まり、こっぴどく説教をされる。毎日のように痛めつけられて、部室に連れ戻されては、間抜けな姿でのびていた。
余所でやるなら、愛那もとやかく言うこともない。
しかし、毎日のように、騒がれては目障りだった。
あの男とは、会話すらしたくない。
無関心を貫こう――と割り切っていたはずだった。
しかし、自身の中学生という若さゆえ、限界に達するのは、早かった。
「いい加減にして! イビキがやかましいのよ!」
パイプ椅子で腕を組んで寝ていたシンは、不機嫌そうに眠い目を擦った。
「んあ……? 人が気持ち良く寝てんのに、なんだよ?」
「なにが気持ち良くよ! 他の部活指導員は、部活生を導いているわ! 窓から、グラウンドを見てみなさいよ! 運動部のみんなが、活気に満ちて、楽しく部活をしてるわ! それなのに、あなたはグータラしてるだけ! あたしだって、頑張って、部活に励んでるのよ! やる気がないなら出てって!」
溜まっていた鬱憤が、言葉となって、ボロボロと吐き出される。
険悪な空気を察知した、祐乃が口に手を当てて、わたわたと慌て始めた。
「あ、愛那ちゃん……。やめた方が……」
「いいから、祐乃は黙ってて! 言わないと気が済まないのよ!」
「ご、ごめんなさい……」
八つ当たり気味に叱責され、祐乃はうっすらと涙を浮かべて縮こまると、部室の片隅にトボトボ移動する。
部員の一連のやり取りを傍観していたシンは、くだらなそうにため息を吐いた。
「しょうがねえ。そろそろグータラしてんのも、飽きてきたしな。気分転換に、部活指導員として、頑張ってやるか」
「どういう風の吹き回しよ」
シンの急変する態度に、愛那の顔が引きつった。
「部の発展と成長に注力するのが、部活指導員だよな。そのためには、まずお前達の協力が必要不可欠だ。菅原愛那とか言ったな。ちょっと、俺の頼み事を聞いてくんね?」
愛那は、興味なさげにシンから目を逸らす。
今更、態度を改めても、この男の指導から価値を見いだせないからだ。
頼みごとも、どうせくだらないことだろう。
適当に聞き流して、練習に入ろう。
そう思っていた矢先、シンから放たれた言葉は、信じられないもので――
「――菅原愛那。おまえは今日中に、マジッカ―部を辞めてくれ」