10話 祐乃の優しさ
一週間が経過した、ある日のこと。
部活動に励む生徒達は、部活指導員の話題で持ちきりだった。
『テニス部の部活指導員がめっちゃイケメンでさー! しかも、すっごく上手で――』
『マジィ? 超羨ましいんだけど。ソフトボール部の部活指導員なんて、熱血すぎてさー。超疲れるー』
教室内の女生徒の会話に、聞き耳を立てていた愛那は、顔をしかめた。
「他の部活が羨ましいわ」
愛那は学校机に頬杖をつくと、窓からグラウンドを見下ろす。
陸上部担当の若い男性部活指導員が、部活生をじっくりと観察して、記録を取っていた。
とても真面目な部活指導員らしい。
一人ごとの、身体能力を把握して、その人物に適したトレーニングメニューを考えているのだ。
愛那は、素人目でも直感できた。陸上部は、確実に向上する。
まさしく、あのような部活指導員が、求められていた人材なのだ。
「愛那ちゃーん、部活いこー!」
ドサッという音と共に、背後から手で目を隠され、視界が黒く染まった。
女児一人分くらいの重量が、背中にのしかかる。
「祐乃、なにしてるの?」
「なんで、ボクってわかったの!? 凄い、愛那ちゃん!」
「誰でもわかるわよ。それと、どいて」
「だめー。おんぶ」
「突然、あまえるわね……。おんぶするにしても、立ちにくいわ」
「頑張って!」
祐乃に何を言っても無駄と諦めた愛那は、背中の重量と戦い、椅子から立ちあがる。祐乃は同年代にしては軽い。
愛那は手を祐乃の腰に回す。
これで落ちないと判断した祐乃は、わるい手癖で愛那の耳を塞いだ。
「なにがしたいのよ?」
「にひひー。いたずらだよー」
悪意の無い満面の笑みに、怒りは湧いてこない。
呆れつつも、鞄を片手に、愛那は教室をあとにした。
『マジッカ―部の部活指導員は、気の毒じゃなーい? きっと今頃さ――』
『マジマジ。絶対長続きしないってー』