第8話「オリヴィア学園の授業風景」
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オリヴィア学園の授業カリキュラムは独特だ。
まず、受けなくてはいけない必須科目がある。数学、国語、歴史、地理。これらは一般教養と呼ばれる科目で、公立の高等学校でも勉強しているものだ。
普通の学校と違っているのは、ここからだ。
それ以外の授業は、自分で専攻科目を決めることができる。
例えば。
午前中は数学の授業を受けていると思ったら、午後からは電気工学科の授業でカラーテレビを直している生徒がいたり。
カナの知り合いには。
必須科目そっちのけで、古代魔法学に没頭している猛者もいるそうだ。いにしえの魔法で世界征服を企んでいるらしいが、残念なことに、うまくいっていないようだ。
それ以外にも。
在学中に、医学の勉強に没頭するもの。親の反対を押し切って、音楽家になるためにヴァイオリンを学ぶもの。料理人になるために世界各国のシェフを招いて勉強しているもの。
経済学、物理学、薬理学、映画作成の技術、ラジオ作家、デザイナー。様々な分野を極めようとする生徒たちが、自分の道を切り開いている。
ちなみに、私は。
『おいしいパンを試食する講座』と、『とてもおいしい紅茶を楽しむ講座』を受講している。
理由は、聞いてはいけない。
首都から郊外へと向かう路線の、3つめの駅。
オルランド共和国が誇る貴族学校。それが、私たちが通っている、聖オリヴィア学園だ。
「それでは、今日から魔法学の授業を受けてもらいます。皆さん、頑張って単位を取得しましょう」
講師として呼ばれた先生は、若くて綺麗な女性だった。首都の大学で助教授をしているらしい。
「皆さんも知っているとおり。この魔法学は、魔法が使える生徒は必ず受講しなくてはいけません。単位が取れないと、卒業も見送られてしまいますよ」
先生の視線が、私の後ろを通り過ぎて。講義室の一番後ろでたむろっている生徒たちを捕らえる。
ネクタイをだらしなく緩めた男子生徒が3人。
真面目に授業を受ける姿勢などない。行儀悪く床に座り込み、先生が話している時も好き勝手に私語を続けている。たまに聞こえてくる大きな笑い声が不愉快だった。
よく見ると、ネクタイの色が違う。
緑色だ。ということは上級生である。
そこで、あー、と納得した。
彼らは遊びすぎて授業をサボった、再受講組なのだと。大人しく授業に出ているところを見ると、親の『マネーパワー』が通用しなかったか。
たいていの授業は、学園と講師に多額の寄付金を送るだけで、その授業の単位を買えてしまう。ここは、そういう学園でもある。
だが、そうでないとすると、この先生は金では動かなかったということか。
ふーむ、面倒事にならなければいいけど。
「このオルランド共和国は、古くから魔法と歴史を重ねてきたため、魔法の力を持った人が多くいるとされています。この授業で、正しい魔法の使い方を学びましょう」
そう言うと、先生は手に持ったチョークを生徒たちに見せる。
そして、ふわり、と。
白いチョークを空中に浮かばせて、生徒たちの頭上をくるくると旋回させた。
「お~」
「本当に浮いているぞ」
「すげー」
生徒たちから感心する声が上がる。
かつては魔法大国とまで呼ばれたオルランド共和国だが、今では便利なものが増えたため、人前で魔法を使う機会が減っているらしい。
確かに、少し前に発売された電子レンジというものには、とても驚かされた。どういった理屈で温めているのか、まったくわからない。水分を電磁波で揺らす? なんのこっちゃ?
魔法学の先生は生徒たちの反応を楽しむと、黒板へとチョークを飛ばして、そのまま授業を始める。教科書すら開いていない生徒たちは、慌てて教科書とノートを開く。私も例に漏れず、少し慌てながらノートに板書していく。
「物体を浮かす魔法かな。この国に来て、僕は初めて魔法を見たよ」
「私は結構、見慣れているかも。首都の中等学校は、魔法を使える生徒もたくさんいたから」
「それにしても、器用なこともできるんだね。これなら手の届かない場所にも書けるし」
「確かに。のんびりしてそうな先生だったけど、この学園から講師を依頼されているんだから。私たちが知らないだけで、有名な人かもね」
黒板に目を向けたまま、隣に座っている人間と自然に会話をする。
しかし、そこまで会話して。
私は、あからさまに嫌な顔を浮かべた。
「……てか、話しかけないでくれる? 私たちが友達だって勘違いされるでしょ!?」
「今さら、それを言うかい? 授業が始まるまで、僕のことをストーカーとか言っておいて」
・次話更新は、9/21(火)の20時です。よかったら見てやってください!感想も待ってます!