エピローグ 〜それは首都の闇から〜
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部屋が静かすぎたので、中古で買ったラジオをつける。
ダイヤルで電波を合わせて、スピーカーから流れてくるニュース番組に耳を傾ける。
『……、……ガガ。……次のニュースです。十年前に老衰で息を引き取ったエプスタイン家の領主。エドガー・フォン・エプスタイン氏を偲ぶ十回忌が行われました。エプスタイン家は、我が国の最も由緒ある大貴族のひとつで、最後に嫁いでいった若き奥方様は、かつてのオルランド王家の血筋を引き継いでいるという噂もあって。氏の遺言状には、一人娘に全ての遺産を譲るとありましたが―』
胸糞悪いニュースに、ミーシャの母親の顔が曇る。
だが、無視することもできず、ワイングラスを傾けながら仏頂面で聞く。
『――エドガー氏の一人娘は今も行方不明であり、警察当局も全力を挙げて捜索を続けているとのことです。ですが、失踪から十年が経過して、法的には死亡扱いを受けることになります。これにより、議論の進んでいなかったエドガー氏の遺産相続は、親類縁者へと分配されるとの見通しとなっており。現在、弁護士団と共に申請を行っているとのことで―』
ガタンッ。
あまりに力を入れすぎたせいで、ラジオが少し浮きあがった。
乱暴に電源を切ると、苛立ちのままワイングラスを一気に煽る。
ふざけるな。
ふざけるな、ふざけるな。
お前らが遺産欲しさに、何をしたのか。誰も知らないと思っているのか。
一人の女の子の人生を踏みにじってまで。
そこまでして、欲しいものだったのか。
……私たちの娘を。
……なんだと思っている。
「っ!」
ジリリリッ、と電話のベルが鳴る。
受話器を取り、耳に当てると。よく知った男の声が聞こえてきた。
「俺だ。ゼノだ。今、ミーシャはいるか?」
「いませんよ。何かありましたか?」
学生時代からの付き合いがあるゼノ警官からの電話に、ミーシャの母親は肩をすくめる。
「嫌な噂を聞いたもんで。一応、耳にいれておこうと思ってな。例の大富豪、エプスタイン家の弁護団だが。……ルチアーノ・ファミリーと手を組んだそうだ」
「ふーん、それで?」
「ルチアーノ・ファミリーへの依頼はこうだ。行方不明になっているエプスタイン家の一人娘を探し出して、保護。もしくは始末するようにだとよ」
予想通りすぎて、驚くこともできなかった。
「はぁ、なるほど。あいつらは、何があっても遺産を手放したくないってわけね」
「そういうこった。念のために、ドン・コルレオーネ氏にも話を通しておいてくれ。一線を退いたとはいえ、あの人が裏社会の顔役だ。金の雛鳥が狙われている、ってね」
「わかったわ。ドンには、こっちから連絡する。あと、メンバーにも召集をかけておいて。クリスティーナ・ビスマルク、カゲトラ・ウォーナックル、シギ・デッドマン=グレイブヤード。オルランド魔法学園のリティア・フォン・フローレンス学園長も。クリストファー殿下の護衛、ペペとナポリにも声をかえておいて。外交ルートの、グラン大佐とエニグマ・エルトゥーユ事務次官には、こちらから連絡します」
「へへっ、コルレオーネ・ファミリーの精鋭が勢ぞろいだな。頼りにしているぜ、ボス」
ガチャリ、と受話器を戻す。
割れた窓ガラスから、外の景観を一望する。
いつもと変わらないような日常に、だけども少しずつ進んでいる。
それも、悪いほうに。
「私の娘に、手を出させないわよ。覚悟しなさい、ルチアーノ」
――それは、また別の物語で――




