表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/77

第30話「君は、いつから気づいていたんだい?」


 ぐらりと、礼拝堂の天井が揺れる。

 屋根を支えている木組みが、老朽化によって限界に近づいていた。

 わずかな風も、その腐った木が折れてしまいそうであった。


 そして、偶然にも。

 ミーシャが魔法を放った、次の瞬間。


 ……礼拝堂が、屋根から崩れ落ちていった。


 おいおいおいおいおいおいおいおいっ!

 私は崩れてくる屋根を見上げながら、心の中で罵詈雑言の悪態をつく。


 ふざけんな、屋根が崩れ落ちるなんて聞いてないぞ! 

 くそっ! これだから、この魔法は嫌いなんだ。使用者の自分にすら、何が起こるかわからないなんて、不良品にもほどがある!


「なろー、なめやがって!」


 私は崩壊を始める礼拝堂の屋根裏から目を離して、目の前の女に視線を向ける。


 彼女はうなだれたまま、座り込んでいる。

 ちっ、このままだと。こいつも私も瓦礫の下敷きになっちまう。


「ほらっ、立ちなさい!」


 私は力いっぱい、クレア・フォン・マゼッドの襟首をつかむ。


 だが、彼女が動く様子などない。

 自ら生きる権利を放棄したように、両手はだらんと脱力している。くそ、これだから貴族のお嬢様は。根性がなくていけない。


「あんたと心中なんて、ほんと勘弁して! さぁ、動くのっ!」


「……私なんて、置いていけば」


「んなこと、できるわけないでしょ! あんたは最低の人間だけどね、死んでもいい人なんて一人もいないんだから!」


 ガラガラッ!

 腐敗した木や、レンガの塊が、次々と降ってくる。


 あー、ヤバい!

 マジでヤバい! あんなレンガの塊なんて、頭に直撃したら即死じゃない。いや、瓦礫に押しつぶされて、ゆっくりペチャンコになっていくほうがもっと嫌だ。


「ぐぬぬっ、くそっ! 馬鹿クリス! 王子様だったら、ちゃんとピンチに駆け付けなさいよねっ!」


 私はやけくそになりながら、動く気のない女を引っ張って叫ぶ。


 その時だった。

 バンッ、と礼拝堂の扉が開いた。


 そして、一人の男が崩壊を始めている礼拝堂に颯爽と駆け込むと、軽々と私のことを抱きかかえる。反射的に彼の首元に腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。


 そんな私に、彼はわずかに笑うと、もう一人のうなだれている女生徒を連れて、外へと飛び出していった。


 彼の胸に抱きかかえられるのは、これで二回目だった。

 爽やかな香りが、どうしようもないくらいの安心感を与えてくれる。それが、少しだけ嬉しかった。



 ……私の魔法は、人に罰を与える魔法だ。

 原理はわからない。

 ただ、相手が罪人であればあるほど、酷い目に合うということだけ。万引きをした子供なら、転んで鼻血が出るくらい。人を騙して貧乏人から金を巻き上げていた詐欺師なら、二度と喋れなくなる事故にあう。弱いものに暴力を振るっていた学校の不良は、腕の健が切れて二度と動かなくなった。そして、人を殺めた人間であれば、ほぼ確実に死に直面する。


 まるで、しっぺ返しね。

 私のママは、興味深そうに言っていた。そう言われてみれば、そうかもしれない。人は死後、生前の行いを清算するらしい。敬虔で真面目ならば天国に、罪深い人間は地獄に。そんな感じに。


 私の魔法は、そういった審判を下すものに近い。


 個人的に嫌いなのは、私の魔法を受けたものは、必ずといっていいほど事故にあう。

 先日、対峙したキャリー・ブラウンが良い例だ。彼女の場合、ガラスのシャンデリアが落ちて、偶然にもガラスの破片が顔面を傷つけた。

 

 今回もそうだ。

 どこの人間が、腐った屋根の木に気がついて、タイミングよく屋根を崩壊させられるというのだろうか。どこからどう見ても自然発生した事故で、相手に罪の清算を行ってしまう。まったく。何様だよ。って自分に言いたくなる。


 だから、私は自分の魔法が嫌いだ。

 自分を守るためか、あるいは自分の大切なものを守るときか。

いつから、こんな魔法が使えるようになったかは、よく覚えていない。生まれたときから宿っていた力かもしれないし、ある日、突然に目覚めた力かもしれない。ひとまず、私が言えることは。私自身、この魔法を嫌っているということだった。


 この魔法は、私と、あの家系を結びつけてしまう。


 要らないものとして捨てられて、首都の貧困街で死ぬのを待っていた。あの頃を、どうしても思い出してしまう。いつか、あの館の人間が、私を見つけようと探しに来るかもしれない。そう思うと、恐怖よりも、嫌悪感が込み上げてくる。


 私は、過去を捨てた人間だ。


 私の名前は、ミリツィア・コルレオーネ。


 ママの名前は、ユーリィ・ミカゲ・スナイベル。パパは、シロー・スナイベル。みすぼらしい私のことを娘だと言ってくれた、大好きな両親。

 そして、後見人のマルコ・コルレオーネ。貧困街で死にかけていた私を拾って、彼の経営する孤児院に匿ってくれた。彼がいなかったら、ママとパパに出会うこともなかっただろう。


 あの両親の愛に応えるためにも、私は普通に暮らしたい。

 そのために、私は―

 

「やぁ、怪我はないかい?」


「……えぇ。おかげさまで」


 私は不貞腐れるように、目の前の美男子を見上げる。

 ガラガラと崩れ落ちていく礼拝堂の音が、嫌に遠くから聞こえた。


「あの女は? 無事?」


「問題ないよ。今は気を失っているけど、そのうち目を覚ますと思う」


「そう」


 ぽりぽりと頭をかく。

 何かあった時のために、クリスを礼拝堂の外で待っていてもらっていたのだが、まさか本当に手を借りることになるとは。


「これで何回目かしら。あんたに助けられるのは」


「僕は気にしていないよ。それに、僕のほうが君に助けていたわけだし」


「あら? 何のことかしら?」


 私は白々しく惚ける。

 そんな私に向かって、クリスは肩をすくめながら表情を緩める。……むぅ、この様子だと。いろいろと気づかれてしまった感じか。


 確かに。自分が通っている学園が、週刊誌などで騒がれるのは嫌だった。


「何か、聞きたいことがありそうね」


「そうだね。ミーシャには色々と話したいことがある。僕のことや、君のこと。それに―」


 しばらくの間、クリスは何も話さなかった。

 そして、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開く。


「ミーシャは、君は、いつから気づいていたんだい? 僕が、ガリオン公国の第二王子。クリストファー・ヴァン・ヴォルフガング・ガリオンだってことに」


「なんだ、そんなこと?」


 私は肩透かしを食らって気分で、クリスとの出会いを振り返る。

 そして、くすりと悪戯っぽく。

 彼のことを見上げながら笑った。


「最初から、かな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。臆病者のホワイトフェザーと繋がっているとは知らず、ユーリィとシロー・スナイベルの名前を見た時に全て関係していることに気づきました。 私が何かを言うことは出来ませんが、出来ればこ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ