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第18話「君の家へ」


「この街にある、我が家よ…クリスの家みたいに広くはないけど、アンタが泊まれるスペースくらいあるわよ」


「ミーシャの家に?」


 えぇ、と私は頷く。


 トムのほうを見ると、オレは屋台を片付けないといけないし、店長のところで泊めてもらうことになっている。と告げた。


「えっと、いいのかい? 僕が訪問しても」


「別にいいんじゃない? ママはいると思うけど、パパは夜遅くまで仕事だし。朝になったら、電話であなたの迎えを呼びましょう」


 何を遠慮しているのだろう、と私は首を傾げる。


「いや、ホテルに泊まるのもいいかなって」


「何を言っているの? 安いホテルは安全じゃないわよ。そんなところに、クリスを一人にできないでしょ?」


「えーと、ミーシャも一緒に。ちょっと豪華な部屋を取って」


 はっ、とクリスが口に手を当てる。喋りすぎた、とその顔が言っていた。


 だが、もう遅い。

 彼の言葉を聞いて、私は―


「え? ええっ!?」


 めっちゃ、盛り上がってしまいました。

 クリスと同じ部屋って、そんなことしていいの? ってか、よくよく考えてみれば、クリスみたいな人間が、そこらの安宿に泊まるわけがない。きっと護衛の黒服たちが、高級ホテルのスイートルームを押さえてありますよ、とか言っているに違いない。


 ……あー、いいなー。高級ホテルのスイートルーム。

 大きなベッドに、大きなバスルーム。綺麗な夜景に、おいしいご飯。ノンアルコールのシャンパンを片手に、二人だけの空間になるんだろう。……やばい、どうしよう。私、彼の魅力に耐えられるかな。たぶん、ダメだろう。お風呂上がりのバスローブ姿の彼に愛を囁かれたら、きっと拒絶できない。そのまま優しくベッドに押し倒されて、そのままー


「ないないないないないないないっ!」


 私は自分の妄想を全力で振り払う。


「クリス、よく聞きなさい! 私たちが二人で泊まると、とても良くないような気がするの! わかる!?」


「う、うん。僕も同感だ!!」


 あまりの剣幕に、クリスも少しだけ引いている。


「だから、ね! ウチに泊まりましょう! ママがいるし、夜になればパパも帰ってくるし! 風呂上がりのクリスが迫ってきても、あの二人なら私を守ってくれるわ! ママは凄いのよ。野生の熊だってライフルで倒しちゃうんだから!」


「君は僕のことを、なんだと思っているんだい?」


「と、とにかく。もうちょっと落ち着いたら、ここを出ましょう。ウチまでは、そこまで離れていないから」


 はぁはぁ、とヒートアップした頭を冷やすため、視界から彼の姿を逸らす。

 あー、倉庫の中が暗くて助かった。きっと、顔が真っ赤になっていることだろう、うぅー、恥ずかしい。


 ぱたぱた、と片手で仰ぐと、クリスも恥ずかしそうに視線を逸らす。


 そんな二人を見て、大男のトムは思う。

 本当に仲の良い二人だなぁ、と。



――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 



 首都の中央駅から少し離れた、貴族街と平民街のちょうと境目あたりにある、おしゃれな外観のマンション。

 

 ちょっと裕福な一般家庭が住むにはちょうど良いくらいの間取りで、エレベーターはついていないが、大きな螺旋階段が備え付けられている。


 そこの三階、301号室が。私、ミーシャ・コルレオーネの実家だった。


「ただいまー、ママ、いる?」


 マンションの間取りは2LDK。玄関を開けると細長い廊下を挟んでリビングがある。奥にある部屋は二つ。ひとつは私の部屋で、もうひとつがパパとママの寝室となっている。


 玄関に入って、まず目に入るのは。棚の上に置かれた家族写真。


 私が入学した時に撮ったもので、学園の制服に身を包んだ私を、パパとママが寄り添っている。パパが笑っているところはあまり見たことがないけど、ママはいつも幸せそうな表情をしている。私はというと、どこか仏頂面だ。


 だけど、この写真を見るたびに。この二人の家族になれてよかったなぁ、としみじみと思うのだ。


「あら~、ミーシャちゃん。今日は帰ってくる日だったの? 連絡してくれたらよかったのに」


 パタパタと、スリッパの音を鳴らしてくる。


 ママだ。私と同じ黒髪で、とても小柄。私よりも背が小さい。私はよく目つきがキツイを言われるが、ママはくるりとした丸目で、年齢に不相応な童顔だ。一緒に並んでも姉妹にしか見えないという。もちろん、私が姉だ。


「ただいま、ママ。いろいろあって、実家に寄ることになっちゃった」


「あらあら、そうなの。今日は泊っていくの?」


「うん。明日、朝早くに学園にいくつもり」


「わかったわ。じゃあ、朝ごはんも考えないとね。……あら、そちらの方は?」


 きょとん、と子供のように首を傾げながら、私の後ろに立っているクリスを見る。


 変に勘繰られたくはないけど、ママに嘘をつくのも気が引ける。貧困街に行ってた、なんて言ったら、どんな顔をするやら。


「こいつはクリス。学園の友達よ。事情があって、彼も泊めてもらいたいんだけど」


 私が紹介すると、クリスはいつものように礼儀正しく挨拶をする。


 すると、ママの目が急にきらきらと輝きだした。

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