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第17話「……ホテルが必要になったら、いつでも言ってください。最高級のスイートルームを確保しているんで♪」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「駅は監視されている。警察署も同様だ。どんなことをしても首都から出さないつもりなのだろう」


「噓でしょ?」


 大男のトムの言葉に、私はげんなりとする。

 貧困街での騒動から、それなりに時間が経って、もう夕方くらいになっていた。

 少し身を隠していれば諦めると思っていたのに、どういうわけか奴らの執拗に追いかけてくる。


「なんで、彼らはそこまで僕たちを追いかけてくるんだ?」


「知らないわよ」


 でもね、と私は続ける。


「たぶん連中にとって。嗅ぎまわれたくないことが、あの店にあるってことでしょう。まったく、警察が入った後だっていうのに」


「そういえば、どうしてゼノ警官は、あの場所にいたのだろうか? 仕事で来ていたようには見えなかったけど」


「さぁね。本人が言うように単にサボっていたか。もしくは―」


 私はこっちが本命だというように告げる。


「誰かに頼まれて捜査していたか。あの不良警官も言っていたでしょう? この国で賄賂を貰っていない警官を見つけるほうが難しいって」


「つまり、彼が別の誰かに雇われて。何か犯罪の証拠が残っていないか調べていたと?」


「あいつはいろんなところに首を突っ込んでいるからね。そんな時に私たちが来ちゃったものだから、マフィア連中としたら誰も逃がすわけにはいかなくなった」


「僕たちも、何も知らないんだけどね」


 はぁ、とクリスがため息をつく。

 そんな彼に、私は首を横に振る。


「そんなことないわよ。あの不良警官が言っていたでしょ。学園の生徒が貧困街に顔を出している。学園の経営者である学長が、マフィアと繋がっている。これだけでも見えてくるものはある」


「そういえば、君が尋ねていた『カアシの葉っぱ』。貧困街に来ていた生徒が探していたといっていたけど、これはいったい何なんだい?」


 クリスの問いに、私は答えられない。


 そうだ。それが全ての元凶だ。

 私たちが追われている理由も。ドーナ先輩が屋上から転落した理由も。もっと言えば、ここ最近の不穏な出来事。ナイフを持った女が襲ってきたことや、ロッカーに鶏の死体が入れられていたこと。紅茶愛好会のお茶会、彼女たちの不可解な会話。全ては『カアシの葉っぱ』で繋がっている。


 この国は、腐っている。

 根っこから、腐敗している。


「クリス。あなたは知らないほうが――」


「知らないほうがい、なんて言わないでくれよ。もう、ここまで首を突っ込んだんだ。僕だって、真実を知りたい」


 倉庫のシャッターからこぼれる光が、クリスの横顔を照らす。

 その真剣な顔に、私は視線を逸らすことしかできない。


 ……それでも。彼に伝えれることがあるとすれば。


「ごめん、クリス。私の口からは言えない。でも、学園に戻れたら、あなたの護衛の人に聞いて。きっと知っていると思うから」


「君からは、教えてくれないんだ」


 彼のすがるような目に、私は話したい衝動をこらえて横を向く。


「えぇ。それは、とても畏れ多いことだから」


「畏れ多い?」


「うん。きっと、私たちの関係を壊してしまう」


 そこまで言って、あー、そうか。と私は納得する。


 私は今の関係を壊したくなかったのか。

 だがら、クリスには真実を伝えず。だからといって、強く拒絶するわけでもなく。ただ彼の傍にいたい、という自分の欲求に答えてしまっていた。馬鹿みたいなことを言って、彼が笑って。私が笑うと、彼も本当に嬉しそうで。たまに喧嘩みたいになるけど、互いに寄り添っていくような時間が、本当に愛おしくて。そんな心地よい時間を、関係を、手放したくない。……本当に私は卑怯者で、臆病者だ。


 ここまで話したら、クリスも何かを勘づいたのか。

 わずかに諦めたような顔で、私に尋ねる。


「君は、どこまで知っているんだい?」


「何を?」


 私は、とぼける。

 この関係が、少しでも長続きさせたくて。


「僕のことさ。聡明な君のことだ。僕が、ただの資産家の親戚を持つ一般人、ではないことに気が付いているんだろう?」


「さぁ。庶民の私には、何のことだが全然わからないわ」


 私は、とぼけ続ける。

 少しでも彼と一緒にいるために、彼の嘘に最後まで付き合う。


「さぁ、この話はここまでよ。トムも、今の話は口外しないでね」


siわかった


 トムも少しだけ私と打ち解けたのか、離すときに目を合わせてくれるようになった。


「中央駅が監視されているんじゃ、学園に戻れないわね。明日から、また授業があるのに」


「タクシーを拾うかい。この首都からでも、それほど離れていないと思うけど」


「悪くないアイデアだけど、うまく拾えるかしら。連中の監視が緩くなるまで時間を遅らせたほうがいいかも。……いや、ダメか」


 それだと学園内に入れない。

 夜のセキュリティーが厳しいし、寮の門限もある。なるべくなら避けたい。


「あなたの護衛の人に、車を寄越すことはできる?」


「電話があるところなら。ホテルで借りるかい?」


「それだったら、もはや一泊したほうがいいような気がするけどね」


 ははっ、と私が笑うと、クリスは何かを思い出したように顔を背ける。その表情は、どこか恥ずかしそうであった。


 クリスは思い出していた。

 首都に来るまでの電車の中で、護衛の黒服たちに言われた言葉を。『……殿下、しっかりとエスコートしてあげてください』、『……ホテルが必要になったら、いつでも言ってください。最高級のスイートルームを確保しているんで』。


 当初は、何を余計なことを。と憤慨していたクリスだったが、今となってはこれが天啓に思えて仕方ない。


 高級ホテルのスイートルームならプライバシーは確実に守られるし、送迎のリムジンも容易に手配してくれるだろう。綺麗な夜景に、豪華なディナー。ノンアルコールのシャンパンを手に、二人だけの時間が流れる。そうなったら、自分はミーシャの魅力に耐えられるだろうか。いや、たぶん耐えられないだろう。


 クリスがそんな妄想をしているなどと、露とも知らず。

 私は自分の中の選択肢を告げる。


「はぁ、仕方ないわね。こうなったら、……ウチの家に来る?」


「へ?」


 クリスの端正な顔が、一瞬にしてマヌケ面になった。

ふわっと更新を再開。

年末年始だし、最後まで書き終えられたらいいな♪

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― 新着の感想 ―
[一言] 完全監視されている街中。ホテルへかと思ったら実家訪問に。 あの二人はどこに。
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