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第14話「王子様は不良警官に思わぬ真実を聞かされる②」

 げらげらと腹を抱えるゼノ警官に、クリスは初めて素の感情を露わにした。


「知っているなら、からかわないでください。僕だって困惑しているんです。将来の相手なんて言われても、ピンとこないし。ガリオン王室からは、隣国とのパイプを持つために結婚相手は他国の令嬢が好ましいって」


「ガハハッ、そいつは災難だ! ……でも、まぁ。結果的に良かったじゃねぇか」


「何がですか?」


 クリスが不満げに問うと、ゼノ警官は大人の笑みで返す。


「相手が見つかったじゃないか、ってことだよ。お前さん、いい目を持っているな。あいつは将来、良い女になるぜ」


 そう言って、ゼノ警官は。

 二階にいるであろう、ミーシャへと視線を向ける。


「彼女とは、その。ただの友人で」


「馬鹿か、そんなわけないだろう。ミーシャが心を許した人間なんて、あいつの今の両親以外に初めて見たぞ」


 脈ありだよ、とゼノ警官は口端を上げる。

 でも、それとは対照的に。クリスは少し浮かない顔をする。


「確かに、僕は彼女に好意を持っています。もし許されるなら、彼女を我が国へ迎えたい。そんなことを夢に見てしまうほど」


 しかし、それは叶わない夢であることも、心のどこかでは知っている。


 王室の人間の結婚相手には、それに近い地位が求められる。由緒正しき公爵家や伯爵家とか。身分制度など、とうの昔に撤廃されて久しいが、それでも周囲の人間は。相手に相応しい地位や格式を求めるのではないか。聡明で美しい貴族のお嬢様。そんな人間を求めたからこそ、祖国もこの貴族学校に入れたのだろう。


 ミーシャは聡明だ。

 そして、学園の誰よりも美しい。


 だが、彼女は庶民出身の人間だ。周囲の反対を押し切って、ミーシャを宮殿に迎え入れても。果てしない苦労が永遠と続くのだろう。身分違いの恋なんて、現実にはあり得ないのだから。


「ミーシャは良い子です。ですが、立場の違いが、二人の関係を難しくさせてしまうでしょう」


「ん? まぁ、そういうこともあるな」


 ゼノ警官は、怪訝な顔をする。


「僕だって、彼女と一緒にいたい。だけど、周囲の反対を押し切って結ばれても、良いことなんてないと思うんです」


「あー、そうかな?」


 ゼノ警官は、不思議そうに首を傾げる。


「だから、身分違いの恋なんて。やっぱり、おとぎ話だけの存在で。身の丈にあった相手を探すべきなのかと」


「ちょっと待て。お前、さっきから何の話をしているんだ?」


 ゼノ警官は、とうとう。

 その疑問を口にした。


「お前とミーシャの間に、身分の差なんてないだろう?」


 一瞬。

 目の前の男が、何を言っているのかわからなかった。


「は? すみません、意味がよく―」


「いや、だから。王子様であるお前と、ミーシャとの間に、身分の差なんてないんだから。別に気にする必要は、……あ」


 そこまで言って、突然。

 ゼノ警官の顔が真っ青になっていった。


 その顔からは、口を滑らせてしまった、というセリフが貼り付けられていた。


「やべっ、ちょっ、待てよ。……もしかして、まだお前に話してないの?」


「な、何がです?」


 どくん、どくん、と、クリスの鼓動も早まっている。


「えーと、つまり。あいつが―」


「……、……」


 わずかな沈黙が、二人の男を包んでいく。

 そして、それを破るように。ゼノ警官は慌てながら言った。


「わ、忘れろ」


「はい?」


「忘れてくれ。いや、忘れてください! マジでお願いします! 俺の口から洩れたとバレたら、公安の奴らにしょっ引かれちまう。何日も何日も臭い飯を食う羽目になって、仕事もクビになるかも。そうしたら―」


「そうしたら?」


 ごくり、とゼノ警官は額に汗を浮かべながら口を開く。


「女房に、殺される」


「いや、そんなことは―」


「お前は、俺の女房を知らないから言えるんだ! ちょっと下町の女に手を出しただけで、両手縛られたあげく海に放り投げられたんだぞ。知ってるか!? 海の底って真っ暗なんだぞ! あんな恐怖、二度とごめんだ!」


 はぁはぁ、と余裕を失ったように冷や汗をぬぐう。


「だから、頼む。さっきのことは忘れてくれ」


「無理です。……が、絶対に口外しません」


 我が祖国と名前に誓って。クリスが真摯な顔で、彼に告げる。

 すると、安心したのか。ゼノ警官は深く息をはいた。


「ふぅー、助かったぜ。じゃあ、ミーシャをつれてさっさとこの街を離れて―」


「ですが、ひとつだけ。あなたに聞きたいことがあります」


 ゼノ警官の言葉を遮って、クリスは告げる。

 その顔は、どこまでも真摯で優しかった。


「あなたはさっき、ミーシャを守っていると言った。その指示を出しているのは、誰ですか? 教えてください」


「はい?」


 再び、彼の顔から血の気が引いていった……


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