第5話「信頼と誘惑と、王子様の苦悩①」
ホームで待つこと、およそ10分。
首都行きの電車が着て、私とクリスは車両に乗り込む。なるべく人が少ないほうがよかったので、先頭車両を選んだ。おかげで、自分たち以外に他の客は、二人しかいない。
「私、ディーゼル車って苦手なのよね。早くなったり遅くなったりするから」
「僕は、もう慣れたよ」
他の客がいないのに、なぜか隣同士に座る二人。
コンパ―メントのボックス席に仲良く座りながら、他愛ない雑談に華を咲かせる。
十年前の戦争で、国内のほとんどが戦地にさらされた。
その中でも、もっとも影響が大きかったのが線路などの交通機関である。物資を運ぶため列車や線路などは、敵国から真っ先に攻撃される。当時の対戦国であった旧ガリオン帝国も、オルランド共和国の線路網を破壊して、戦争を優位に進めようとしていた。
その影響は、今も受け継がれている。
首都内はともかく、国内全体のインフラ整備には手が届かず、電線がないと動かない電車の普及はまだまだ先であった。
そこで活躍しているのが、ひと昔前のディーゼル車両だ。自前のエンジンで動くディーゼル車は、線路がしっかりしていれば電線がなくても活動が可能。戦後直後は蒸気機関車すら引っ張り出されていたことを考えれば、まぁマシになったほうだろう。
「のどかな田園地帯が広がっているね」
「戦争で全て燃えちゃったからね。廃墟の村も、いくつか残っているくらいだし」
「……そうか」
流れる車窓を見ながら、クリスがわずかに悲しそうな顔をする。
「クリス。わかってはいると思うけど、アンタの生まれた国と戦争をしていたことがあっても、アンタが悪いわけじゃないからね。そこんとこ勘違いしないように」
「さすがに、僕もそこまでは思い上がってないよ」
でもね、と彼は続ける。
「……無関係を装うこともできないよ。僕はガリオン公国の人間だから」
「あ、そ。まぁ、ほどほどにね」
ふわぁ、と私はあくびを漏らす。
列車に乗っていると、どうも眠くなってしまう。首都までは駅が3つ。一時間も掛からない乗車時間だが、どうにもこの睡魔には抗いがたい。
「ミーシャ。眠いなら寝てたら。着いたら起こすよ」
「あー、そうね。じゃ、よろしく」
そう言って、私は頭を横に傾ける。
コトン、と彼の肩に寄りかかり、目を閉じる。
ちょっとだけクリスは驚いた様子だったけど、何も言わなかった。
ガタン、ゴトン。
ガタン、ゴトン。
列車が揺れる音に合わせて、私の意識もどんどん落ちていく。クリスの爽やかな匂いが、心をどこまでも穏やかにしてくれる。そんな気さえした……




