第3話「私が怒る理由なんて、それで十分だ。②」
あのドーナ先輩が、うっかり屋上から落ちるなんて、あるわけだろう!?
いろんな情報がパズルのピースとなって、頭に浮かんでくる。『紅茶愛好会』、『温室のハーブ』、『幸せの紅茶』。そして、園芸部であるドーナ先輩が手伝わされていたこと。足りない情報もあるが、手元にあるピースだけでも全体像は朧げに見えてくる。
そして、その光景に。
吐き気を催すほどの嫌悪感が込み上げてくる。
「……ふざけやがって。真面目に生きている人間を何だと思っている」
「ミーシャ?」
クリスの怪訝そうな顔に、私は慌てて頭を横に振る。
いかん、いかん。この男の前で悟らせては。また首を突っ込んでくるに違いない。紅茶愛好会と関わるな、と釘を刺しているが。きっと意味がないだろう。
平穏、平和を信条として、面倒事には首を突っ込まないようにしてきた私だけど。ここまでコケにされて、黙っていることなんてできない。
友人が傷つけられた。
真面目で優しい友人を。私が怒る理由なんて、それで十分だ。
絶対に許さない。
私は込み上げてくる荒れた感情を押しとどめ、自分が何をするべきなのかを考える。
情報だ。
情報が足りない。
誰が、何をしているのか。どうしてドーナ先輩が巻き込まれてしまったのか。それを知る必要がある。
……行動を起こすなら、次の週末か?
だったら―
「ねぇ、クリス。今度の週末は何をしてる?」
「別に用事はないけど?」
無警戒の彼に、私はとびっきりの嘘の笑みを向けた。
「じゃあ、一緒に図書館で勉強しない? 課題で教えてほしいところがあるんだけど」
「いいね。僕も調べものがあるし。丁度いいよ。何時に集まる?」
「朝の9時で。遅刻しちゃダメよ」
「うん、約束だ」
クリスはキラキラの笑みを浮かべて、優しく頷いた。
ふん、馬鹿め。
この程度の嘘に引っ掛かるなんて、甘っちょろい王子様だぜ。恋人でもないのに、わざわざ一緒に図書館に行くわけがないだろうが。
がはは、これで余計なものはついてこない。残念だったね、クリス君。君はひとりで待ちぼうけを食らうがいいわ!
「じゃあね。また週末に」
「うん、週末に」
笑顔の彼に、私も笑みで返す。
私の企みに気づく様子もなく。
やがて、週末。
首都に向かうため、外出の準備していた私は。もちろん図書館棟などには向かわず、駅の改札口に立つ。
そして―
「おはよう、ミーシャ。朝の9時。予定通りだね」
同じように外出の準備をしていたクリスが、爽やかな笑みを浮かべて駅のホームに立っていた。その姿を見て、私は苦虫を噛んだように顔を歪めるのだった。




