表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/77

第39話「そして、新たな事件の幕があがる…」

「殿下? どうしたんですか、顔が真っ青ですよ?」


「ペペ。ちょっと、待ってくれ」


 クリスは黒服のことを呼びつけて、ヒソヒソと何かを耳打ちをする。

 そして、それを聞いた黒服は。

 驚きに満ちた表情でのけぞっていた。


「え、ちょっ! でん―」


 そして、私の視線に気づいたのか。

 慌てて口を閉じると、今度はクリスの耳の傍でささやく。


「……ちょっと、殿下! なんで、まだ自分の正体を伝えてないんですか!」


「……話すタイミングがなかったんだよ」


「……だとしても。あんた、電話で未来の王妃を救えるとか言ってたじゃないッスか! つまり、殿下は。彼女を王室に迎え入れるつもりなんでしょ!」


「……それは、ミーシャの気持ちしだいだよ」


「……あ~、どうするんッスか! 何も知らない一般の人間に、お忍びの件がばれたら。俺も兄者も、明日から無職ッスよ! クビになった王室警護官なんて、どこも雇ってくれませんって!」


 あたふたと慌てている男たちの会話に、私は居心地の悪さを感じていた。


 てか。全部、聞こえているっての。

 内緒話をするなら、もっと小声で話しなさいよね。私はブスッと不機嫌な顔を作りながら、男たちの会話が終わるのを待つ。


「えーと、ミーシャ。話しかけてもいいかい」


「ええ、ご自由に」


 唇を曲げたまま、ジドッと目を細める。


「あー、そう。彼の名前はペペロンチーノ。皆はペペと呼んでいる。もう一人のボディガードは、彼の兄で。名前はナポリタン。ナポリと呼んでる」


 ふーん、ペペロンチーノさんにナポリタンさんですか。随分と美味しそうな名前ですね。……てか、絶対に偽名だろ。


「さっき、彼が言っていたことなんだけど。僕の叔父さんは、それはとても熱心な王室信仰者でね。昔っから、自分の大切なものには王室に関係している名前をつけていたんだ。飼っている犬とかね。僕も子供のころから溺愛されていて、その頃から叔父さんからは、殿下、殿下、って呼ばれるのは日常になっていたんだよ。そ、そうだよな!?」


 クリスが慌てながら早口に言う。

 それに相槌を打つように、黒服の男が何度も頷く。


「そ、そうなんですよ! いやー、参りましたなぁ。叔父様にも、坊ちゃんを殿下と呼ぶように命令するんですから!」


 ははは、と白々しい笑い声が響く。

 クリスも何とか誤魔化そうと、必死に愛想笑いを浮かべている。


 ……まぁ、別にいいけど。

 そう言ってもらえたほうが、私にとっても都合が良いし。


「はいはい、わかったわよ。それで、クリス殿下様。全部、終わったのなら、私を寮までエスコートしてくれるかしら? もう、へとへとなのよ」


「も、もちろんだよ。ペペ、車まで案内してあげて」


「了解しました。でん、……坊ちゃん!」


 私はクリスの手を借りて、何とか立ち上がる。


 もう、夕陽がほとんど沈んでいた。

 面倒事は、この胡散臭い黒服たちが請け負ってくれるだろう。腰が抜けていた私だが、クリスに肩を借りてジープの助手席に乗せてもらう。


 運転席には、もう一人の黒服。

 こっちはサングラスをつけていて表情は見えない。さっきの黒服の兄弟と言っていたけど、こちらは不愛想な感じ。ちらり、と助手席に座った私を見ると、サングラスの奥の青い瞳が細められる。


「ふぅん。お嬢ちゃんががクリストファー殿下の想い人か? なんか、思っていたより普通だな」


「普通で結構よ。誰もが特別になりたいわけじゃないんだから」


 私は不機嫌になりながら答えると、サングラスの黒服は薄く笑った。


「そいつは失礼したな。……まぁ、お嬢ちゃんほどの人間が、普通のフリをできていることに驚きだけどな」


「どういうこと?」


「自分が一番よくわかっているだろう? 俺たち兄弟は、あんたみたいな人間に仕えてきたからな。雰囲気で何となくわかるんだよ」


 サングラスの黒服が何かわかっているように話すので、私は鋭く切り返す。


「あ、そ。何のことだかサッパリわからないんだけどね。というか、まだクリスは。自分の正体を明かしてないみたいだけど?」


「え? マジで?」


 サングラスの黒服が、初めて表情を変えた。

 参ったな、と呟きながら、ハンドル片手に頭をかく。クビになるかもね、と私が追い打ちをかけると、顔を険しくさせながら唸り声をあげる。……まだ、新しいバイクのローン返済が終わってないんだよ、と。


後部座席に座ったクリスも、もう一人の黒服も。どこか居心地が悪そうに黙っている。けけっ、いい気分だ。


「さぁ。さっさとウチに連れて帰りなさい。小鳥寮は遠いんだから」


 あぁ、疲れた。

 早く帰って、シャワーを浴びて、ふかふかのベッドで寝たい。

 沈む夕日を眺めていると、ゆっくりと車が動き出す。ガタン、ゴトンという車の走行音が眠気を誘ってくる。


 ……うとうとと瞼が重くなっていると、ドサッと遠くで何かが落ちた音がした。

 何の音かと片目を開けてみるも、ありふれた学園の風景しか見えなかった。


「何か、変な音しなかった?」


「え? 僕には聞こえなかったけど」


 クリスは不思議そうに首を傾げる。

 気のせいだろうか。何か、ものすごく嫌な感じのする音だったけど。


 私の下宿先の小鳥寮は、学園の敷地の端にある。そこまで車で送ってもらい、私は眠い目をこすりながら助手席から降りる。


 最後に、クリスへと振り返って。


「じゃあね。おやすみなさい、クリス」


「うん、おやすみ。ミーシャ」


 私は軽く手を振って、寮の玄関を潜る。

 ラウンジには誰もいなかった。そのままシャワールームに向かって、さっぱりしてから自分の部屋に行き、そのままベッドに寝転んだ。瞼を閉じると、すぐに眠気が襲ってきた。



 次の日の朝。

 屋上の温室から、転落した女生徒が発見された。

 ……彼女の手には、園芸部が使っているジョウロが握られていた。


次回より、後編となります。

よかったら見てやってください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 投稿し直しで、弟だけでなく、兄もやらかしている。そしてミィの正体がバレている?(まあ王族なら調べるか)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ