第37話「罪を償わせる魔法②」
この魔法を最後に使ったのは、この学園に入学する前だったかな。
マフィアに誘拐されそうになっていた私は、その犯人に向けて、この魔法を放った。その直後、男は飲酒運転をしていた大型トラックに跳ね飛ばされた。はねられたマフィアは、即死だった。
私の魔法は、そうだな。
罪を償わせる魔法、とでも言えばいいのかな。
その人がこれまで犯してきた罪の重さによって、様々な形で罰を与える。それは自然現象であったり、人為的な事故であったり。『魔女裁判』なんて呼んでいるけど、それだって私が勝手につけた名前だったりもする。
「ふぅ、やれやれ。学園にはどう説明するかなー」
私はため息をつきながら、泣きわめいている女を呆然と見る。
ありのまま正直に話しても、あまり意味はないだろう。
学園側の都合のいいように事実を捻じ曲げられて、問題行動を起こした人物に責任を押し付ける。
この場合、問題行動を起こしたのは私だ。
あのハゲ学長が庶民の肩を持つなんてことないだろうし、学園にとっても庶民の生徒が問題を起こした、と公表したほうが何かと都合がいい。
順当に考えて、私は退学かな。
もしかしたら、賠償金まで請求されるかもしれないけど、そこは裏から手を回してもらおう。学園にツテがあるのは、なにも貴族様だけではない。
「あーあ、もうちょっと学校生活を楽しみたかったなぁ」
諦めの溜息が、夕陽に消える。
思い出させるのは、クリスとの日々。
彼との日常は、これまでにない新鮮さがあった。その好意も、純粋に嬉しかった。
でも、もう終わりだ。
明日には身支度をして、寮を追い出される覚悟をしておかないと。
……やっぱり、クリスを巻き込まなくて正解だったな。
私は、わずかに頬を緩ませる。
それだけは、唯一、選ぶことのできた正しい答えだろう。あの男の立場を考えると、どんなトラブルにだって巻き込めない。下手をすると、彼の国で下らないゴシップ記事を騒がせることになる。
「あ、そうだ。あの女から、ナイフを取り上げておかないと」
寂寥の物思いに更けていたが、不意に思い出してキャリーの方を振り向く。
その目の前に。
片手で顔を覆い、指の隙間から血を流しながら立っている女がいた。指の間から見える瞳は、常軌を逸していて。
血まみれの左手には、あのナイフが握りしめられていた。
「――ッ、――ッッ!」
女が、声にならない悲鳴を上げる。
あ、これは刺されたな。
角度からいって、心臓か肺か。どちらにせよ、致命傷は避けられない。あぁ、まいったな。こんなところで終わるつもりじゃなかったのに。
私は自分の人生が終わることを確信して、その顛末を受け入れる。
……が、その寸前。
「ミーシャ! 逃げて!」
突然、物凄い力で後ろに引っ張られた。
それと同時に、私の視界に黒いスーツを着た男たちが飛び込んできた。
黒服の二人は、狂気に駆られているキャリーへと駆け寄って、その身動きを取り押さえる。その動作は手慣れたもので、ナイフを振るおうとしている彼女の両手を縛りつけていく。
あっという間の出来事だった。
「え? あれ?」
何が起こったのか、わからず。ただ混乱している私に。
彼の、優しい声が降り注ぐ。
「よかった、無事で。学園中を探し回ったよ」
私のことを抱きながら倒れているクリスが、本当に嬉しそうな笑みを浮かべていた。




