第2話「平凡な少女は、運命の出会いを果たす」
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世界歴1955年。6月1日。
銃と戦車、そして魔法。
大陸を巻き込んだ二度目の世界大戦が終結してから、10年ほどの歳月が経過していた。オルランド共和国も、もはや戦後と呼べないほどに復興、発展を遂げており。鉄道は田舎まで伸びて、首都近郊では電気に困ることもなくなった。
しかし、急激な発展の裏では、社会の影も濃くなっていた。
華やかな都会暮らしの裏には、様々な犯罪が横行している。マフィアと呼ばれる犯罪集団が、縄張り争いを繰り返す。時代は、暗黒社会の時代へと移っていた。
そんな首都から、郊外へと向かう鉄道に乗って、3つめの駅。
首都の喧騒が遠くに見える、のどかな田園地帯。
小さな村があるだけなのに、無駄に立派な造りの駅のホームがあった。
自動車もまだまだ一般家庭には普及しきれていないのに、きっちりとコンクリートで舗装された専用道路。高級車と気品のある執事や使用人たちが、駅のホーム前で列を作っている。
私の通っている貴族学校。
オリヴィア学園は、そんなところにあった。
「あっ、傘を忘れた」
駅のホームで、私は雨雲が広がっている空を見上げる。
長い黒髪を、両肩のあたりで縛っただけ。
平凡で地味な髪型だ。
身長は平均より少し低めで、どちらかというと目立たない印象だろうか。
服装といえば、学園の制服である、ひらひらとしたドレスのような白のワンピース。
さすがはお嬢様や御曹司が通う貴族学校。
制服ひとつとっても、庶民の家庭で育ってきた私にとっては衝撃でしかない。他に制服として指定されているのは、ローファーと校章の入ったソックスだけなので、上着は自由だ。
今日の気分は、紺色のロングカーディガン。学園内でも目立たない、割と地味めなやつ。うん、地味に見えるって大切だな。
「うーむ。やっぱり寮まで走っていくしかないかなぁ」
雨は弱まる気配はない。
少しずつ暖かくなる季節とはいえ、雨風に濡れて帰るのは避けたい。なにより、これでも一応は女の子なので、あまり濡れたくもない。制服の予備もないから、明日までに乾かさなくちゃいけないし。
ふと、駅の小さなロータリーを見ると、乗ったこともないような高級車が並んでいた。
きっと、自分と同じように傘を忘れた御曹司、もしくはお嬢様のために使用人たちが気を利かせているのだろう。
「はぁ、お金持ちは違うねぇ」
感心しているそばから、一人、また一人と。自分と同じ年頃の生徒が高級車に乗り込んでいく。
できれば、自分も一緒に乗せてほしいものだが、残念ながら貴族様とのお友達は一人もいない。自分みたいな庶民育ちとは、そもそも住む世界が違いすぎる。
「仕方ない。走るとするか」
ここの学生寮は、少し変わっている。
大きな建物にたくさんの生徒を押し込めるのではなく、歴史ある優雅な古民家を、5人から10人程度の生徒たちが下宿している。
そのため、寮ごとのルールが存在する。
自分の住んでいる小鳥寮は、夕食が寮生たちによる当番制だ。今日は自分が当番だ。なるべく早く帰りたいが、小鳥寮は駅から遠く離れた人気のない寮。走るにしては、かなり面倒に感じるくらいには遠い。
それでも、肩から下げている鞄を抱きしめて。雨の中に飛び出すタイミングを計る。他人に甘えるつもりはない。
「雨がなんだ! 庶民様をなめるんじゃない!」
なんて覚悟を決めて、両足に力を込める。
その時だった。
最初の集団から少し遅れるように、一人の男子生徒がホームから姿を見せた。
「おや、降ってきましたか」
その男は、私の隣に立つと。自分と同じように曇天の空を見つめていた。
次話更新は、9/14(火)の20時です。よかったら見てやってください!