第14話「まぁ、いいわ。気が向いたら、名前で呼んであげるわよ」
サクッ、サクッ。
クリスがシャベルで掘った穴に、球根を植えていく。その姿を、私は監視役のように腕を組んで見ていた。
私が学園の制服で、クリスが運動着。
ならば、汚れてもいい服装の人間が、汚れ仕事をするのが当然。という頭の悪い理屈を振りかざして、彼に球根植えの仕事を押し付けている。
「園芸部の手伝いに来たのに、なんで君は制服なんだい?」
「正式な部員じゃないからよ。私は、あくまでお手伝い。ドーナ先輩のことは嫌いじゃないけど、園芸部とどっぷりと関わるつもりもないのよ」
クリスのごもっともな質問に、私はあっけらかんと返す。
せっせと文句も言わずに働く背中を見ていると、何もしていないのが悪い気がしてきたので。結局、隣に座って手伝うことにした。袋から球根を取り出して、クリスが掘った穴に植えていく。
なんとなく会話が続かない。
そう思っていたのは、この男も同じようで。そわそわとしながら作業を止めると、不意にこちらを向いた。
「そ、そういえば! 次回の魔法学の授業から、講師の先生が変わると聞いたんだが!」
急に話をそらしたな。
まぁ、別に他に話題があるわけでもないので、私もそれに応じる。
「そうね。あの先生が急に辞めちゃったから。次からは、別の先生がやるみたいよ」
「体調でも崩したのだろうか? それとも、なにか急用でも?」
「馬鹿。そんなわけないでしょ」
最後の球根を取り出して、クリスの金色の瞳を見る。
「……辞めさせられたのよ。あの不良たちに注意していたでしょ。授業を真面目に受けなさいって」
「それだけで!?」
「それだけのことを、してしまったのよ。この学園の運営は、貴族たちの『寄付金』が大きく関わっている。それが関係しているのは間違いない」
クリスは言葉を失っている。
「戦後の不況だもの。ただでさえ高額な外部講師を招いたり、経営に多額の金がかかる貴族学校なんだから。お金を落としてくれる貴族たちを優遇するのは当然なんでしょ」
少なくとも、学園側の考えとしては。
「……だが、それにしたって異常な反応ではないか? 学園の意にそぐわない人間を、即座に切り捨てるなんて。それでは、まるで-」
花壇の仕事を終えて、クリスは立ち上がる。
その瞳は、悪を許さない正義感に燃えていた。
「時々、感じるんだ。この学園は何かがおかしい。貴族であることに執着して、大事なものが歪んでしまっている。なぜか、そんなことを考えてしまう」
ふむ、この男。
なかなか勘が鋭い。
「そうかもね。でもね、この件には、あまり首を突っ込まないほうがいいわよ。この学園は歴史が深い。歴史が深いってことは、それだけ問題も根深いってことだから」
「……わかっているよ、ミーシャ。僕は何の力もない学生だ。そんなことわかっている」
そうは答えているものの、遠くを見つめる瞳は。
どこまでも、真っすぐだった。
見ている、こちらが。
……警戒してしまうくらいに。
「ったく。何に悩んでいるかは知らないけど、これじゃあ学園の王子様も形無しね」
「あー、その『王子様』って呼ぶのは辞めてくれないか? 僕は別に王族でもなければ、この国の貴族でもない。君と同じ、一般家庭に生まれた平凡な人間なんだ。できれば名前で呼んでほしい」
ふーん、平凡ねぇ。
それにしては、朝食のテーブルマナーナイフは完璧だったじゃない? しかも、王室相手でも問題ないくらいのレベルで。
まったく、この男。
学園に来る前は何をしていたのだろうか。
「まぁ、いいわ。気が向いたら、ちゃんと名前で呼んであげるわよ。クリス」
「うん。……え、今。名前を―」
「ほらっ。さっさと球根を植えて終わらすわよ。ほらっ、ほらっ」
「うわっ! そんなにいっぺんに投げないでくれ」
ぽいぽい球根を投げる私に、クリスは困りながらも笑って返す。そして、私もなんだか楽しくなってしまって、自然と笑顔を浮かべていた。
この歪んだ学園の片隅で…
・次話更新は、9/28(火)の20時です。よかったら見てやってください!感想も待ってます!




