第13話「新しい日常」
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「ほんま助かるわぁ。ウチだけじゃ、手が足りんしなぁ」
園芸部の部長。
ドーナ・ローズマリー先輩が、人懐っこい顔で手を振っている。
西部にあるカアシ地方出身の貴族で、少し変わったイントネーションで喋る。そのせいで田舎臭さが抜け落ちないない。せっかくの美人なのに、もったいない。
「花壇の整備するんのに、この学園広すぎるよぉ。ちょっと雑草とってるだけなのに、日が暮れてしまうわぁ」
あはは、と大きな口を開けて笑う。
礼儀正しい淑女の育成を求められている学園において、ここまであっけらかんとしてる女子も少ない。
「ちゅうわけで、今日もよろしくなぁ。花壇に球根を植えていくだけでえぇからぁ。ほな、頼むでぇ」
「嫌です」
私は即答した。
きっと私の目は、死んだ魚のようになっていることだろう。
「どうして、ミーシャちゃん? この間は、あんなに手伝ってくれたのに。部活の手伝い、嫌いになったん?」
本気で心配そうな顔をする、ドーナ先輩。
それでも、と私は思う。
正気か、この人。
「ドーナ先輩。別に私は、園芸部の手伝いが嫌になったわけではありません。部員が先輩だけになっても、ひとりで花壇の整備をしていたのは知っているので」
「だったら、どうして? ウチにもわかるように話して」
しょぼんと肩を落とす。
あー、くそ。本当に言わないとわからないのか、この先輩は!
私は軽く頭を押さえながら、表情を歪める。
「……それは、ですね。ドーナ先輩」
ばっ、と右隣に立つ人間に指をさして。
私は、大声で叫ぶ。
「なんで! この男がいるんですか!?」
黄金のブロンドの髪に、曇りのない静観の顔つき。
学園の王子様。
クリスが苦笑いを浮かべていた。学内をジョギングでもしていたのか、動きやすいトレーニングウェアを着ていた。
「あー、それなぁ。なんかグラウンドの隅で暇そうに座ってたから、手伝いに誘ったんよぉ。別に、いいじゃない。人手は多いほうがはかどるし」
「私は、嫌なんですよ! こいつと一緒にいるところを見られるのが!」
ほんと、信じられない。
どうして休日まで、こいつに付きまとわれなくちゃならんのか。私は敵意をむき出しにして、さわやかに笑っている男を見る。
「……で、なんであんたがいるわけ?」
「先輩の言う通りだよ。気晴らしに散歩していたら、園芸部の活動に誘われてね。モヤモヤしたままよりは気晴らしになると思って」
そう言うが、このクソ王子の顔は。こちらが見ていてイライラするほど、上機嫌だった。
「は? 悩み事があるようには見えないけど」
「あはは、そうかな。僕も、その人とどう向き合ったらいいのか。ちょっと悩んでいるんだけどね」
「へー、そうかい」
どうせ、たいしたことではあるまい。
だが、この男が人間関係で頭を悩ましているという事実は、なかなかに気分がいい。どこの誰かは知らないが、よくやった。
「へぇ、クリス君みたいな男前でも、悩みなんてあるもんなんやなぁ。もしかして、恋の悩みとか?」
「……ち、違いますよ」
平然を装って答える。
それがわかるくらいには、わかりやすく動揺していた。
ふーん、そうか、恋の病か。このままこじらせて、ハゲてしまえ。ふふ、ふふふ。……あれ、なんで胸が痛いの?
何だか落ち着かなくなって、視線を外しながら自分の両手の指をからめる。隣を見ると、クリスも視線を泳がせては、ちらちらとこちらを見てくる。
微妙な沈黙のなか、にやりとドーナ先輩が笑った。
「だったら、ここの花壇は若いお二人にお任せするわ! ウチは、あっちのほうをやるんで」
「ちょっ、先輩! なんで、こいつと一緒に―」
「ええから、ええから! あとは、お若い二人でごゆるりと」
ぐふふっ、と口に手を当てたまま、ドーナ先輩はスキップをしたまま去っていく。くそ、あの先輩。何かとんでもない勘違いをしてるな。
手元の残されたのは、小さなスコップと球根の入った袋。
幸い、こちらの花壇は小さい。袋を覗くと、球根の数もそれほどではない。これなら、小一時間で終わらせるだろう。
「……さて、どうしようか。ミーシャ」
「こうなったら、仕方ないでしょ。さっさと終わらせるわよ」
ふん、と不機嫌な顔を作ってみるが、クリスは嫌そうな顔をせず、なぜか嬉しそうに微笑む。
「何よ、嬉しそうに」
「いいや、何でもないよ」
何だかイラっとしたので、その足を蹴り飛ばすことにした。クリスが悲鳴が上げて、私は指を指して笑う。
そんな私たちのことを、嫉妬と妬ましさの入り混じった視線が見ていた。
「何よ、あの女」
「あんなドブ女が、どうして王子様と!?」
「今に見てなさい! きっと、酷い目に合うから!」
学園中の注目を、着実に集めていることに。
私たちは気づいていなかった…
・今日は、もう1話更新します!
・よかったら見てやってください!




