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第12話「小鳥寮の静かな一日」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 学園に通学できるギリギリの敷地に立っている女子寮の小鳥寮は、のんびりとした週末の朝を迎えていた。


 寮ごとに様々なルールが存在するオリヴィア学園だが、規律が厳しい寮もあれば、自由気ままに生活をする寮もある。

 

 小鳥寮は、比較的に自由な女子寮だった。

 唯一のルールは、男を寮内に入れない。それだけ。詳しくは知らないけど、私が入学する前に女同士の醜い争いがあったとか。


 2人部屋が4つ。

 合計、8人の生徒が、この不便な寮で生活を送っている。

 レンガ造りの小さな家。冷蔵庫も古ぼけているし、申請したカラーテレビはまだ届かない。キッチンも小さな電気コンロがひとつあるだけで、平日の朝など渋滞する。トイレは、もっと渋滞する。電気工学を専攻している子が修理したラジオが、唯一の娯楽設備といってもいい。


「それでも、他の寮みたいな堅苦しい生活よりかはマシよね」


 電気コンロのスイッチを入れて、冷蔵庫から保存しておいた食パンを取り出す。


 年季の入った電気コンロは、この季節であっても暖かくなるまで10分はかかる。それまでにホットサンドメーカーを引っ張り出して、冷たいパンをのせる。本当はハムやチーズを一緒に挟みたいが、手持ちがないので、仕方なくマーマレードジャムを塗りたくる。


 ようやくコンロが温まったので、ジャムを塗ったパンを挟んでホットサンドを焼き始める。


 同時に紅茶の準備ができたらいいのだけど、コンロはひとつしかないのでお湯を沸かせない。だが、ないものねだりは生産的ではない。食べながら、ゆっくりと紅茶を淹れることにしよう。


「あれ~、ミィちゃん。おはよ~」


「カナ、おはよう。寝ぐせがすごいぞ」


「えぇ~、ほんと~?」


 あくびをしながら、寝間着のままのカナリアがテーブルに突っ伏す。


「お腹すいた~。朝ごはん、作ってよ~」


「やだね。自分で作りなさい」


「え~ん、いじわる~」


 ジュジュー、と片面が焼けてきたので、ホットサンドメーカーをひっくり返す。


 他の寮生たちが起きてくる様子はない。きっと、遅くまでおしゃべりをして夜更かしをしていたのだろう。ルームメイトのカナも、自分が寝るまでに部屋に帰ってこなかった。


「ミィちゃんも、一緒に来ればよかったのに。皆、話をしたがってたよ」


「あー。私はいいかな」


 頃合いを見て、ホットサンドメーカーを開く。

 いい感じの焼き加減に、はみ出したジャムの香りが何ともいえない。冷蔵庫でぼそぼそになっていた食パンが、ここまでおいしく変わるなんて。ホットサンドメーカー。こいつは偉い。


「この寮がみんな良い人なのは知ってるけど、私と仲良くしてもメリットなんてないだろうしね」


「うーん。皆、気にしないのに」


 ぶー、と頬を膨らませるカナは、じっと焼きたてのジャムパンを見つめる。


「……半分、食べる?」


「食べる!」


 即答だった。

 しょうがなく、皿を二つ用意して、半分にわけてやることにする。紅茶も二人分を用意してやるか。


「ごちそうさま! おかわり!」


「ねぇよ」


「じゃ、こっちの残ってるほうを―」


「私の分まで食べたら、ぶっ飛ばすから」


 ぎろっ、と威圧感を込めて友人を見る。

 すると、私のものまで手を出そうとしていた手が、震えながら引っ込んでいった。


「み、ミィちゃん、目が怖いんだけど」


「カナの場合、本気で言わないと聞かないでしょ」


 特に、食べ物に関しては。

 都合よく、ポットの水が沸く。さすが、旧式の電気コンロ。暖かくなるまで時間がかかるくせに、安全装置もぶっ壊れているから、ありえないくらいの熱量を発生させてくれる。そのうち、こいつが原因で火事になるかも。


「食べ終わったんなら、食器を流しに置いておいて。私は、これから出るから」


「え? あぁ、園芸部のお手伝いかぁ」


「そういうこと。はい、紅茶」


「ありがとー」


 カナの分のティーカップを渡して、自分も立ったまま飲む。


「ねぇ、ミィちゃん。この紅茶って、購買部で売ってるやつ?」


「そうなんじゃない? よく見かける銘柄だし」


 私はティーカップ片手に答える。


「へー。だったら『紅茶愛好会』ってすごいんだね。首都から紅茶を取り寄せたり、温室で自分たち用のハーブを育てたり。……ミィちゃんも知ってる? 紅茶愛好会の淹れるブレンドティーは『幸せの紅茶』って呼ばれているらしくてね。それを飲んだ学生は、ふわふわと幸せな気分になれるんだって」


 素敵だよねぇ、とカナがため息をつく。


「あー、あの上流階級を気取ってる、お嬢さま集団ね。私はパス。呼ばれたって行きたくないね」


 なにが悲しくて、あんな連中と紅茶を飲まないとならんのか


 予定の時間が迫っているので、私は手早く朝食を終わりにする。食器を洗って、ホットサンドメーカーを元の場所に戻すと、ちゃんと制服を着るために一度部屋に戻る。


「じゃあ、行ってくるね」


「うん、いってらっしゃい。王子様に出会ったら、よろしく言っておいてね」


「……勘弁してよね」


 冗談じゃない。

 ただでさえ、変な噂が立ちそうになっているのに、休みの日まで会ってたまるか。


 ……まぁ、最近はなんだかんだで一緒にいるし。

 でも、こっちから会いに行くほどじゃないというか。学園に行ったからといって、あいつと会えるわけじゃないとうか。まぁ、休日の学園にいるはずもないだろう。うん、そうだ。そうに決まってる。


 ……だよね?



・次話更新は、9/27(月)の20時です。よかったら見てやってください! 感想も待ってます!


・来週から、少し物語の流れが変わります。(ラブコメ終了のお知らせ。学園の闇と『幸せの紅茶』が、二人に襲いかかります)

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― 新着の感想 ―
[一言] 二人それぞれの寮風景。ドクさんナイス。 そして色々フラグが。
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