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いつか、飾らない自分を


 五月に声をかけようと顔を上げた時、オレはありえねぇ光景に身体を硬直させた。


「手ェあげて動かんといてくれへん、坊や?」


 そこには、こちらへ向かって微笑んでいる男性が。しかも、その手には黒光りする銃が握られている。


「……五月」

「……従おう」


 梓、帰ってくんなよ!


 オレは、この後どうすれば良いのかより、梓が帰ってくるんじゃねえかってことの方がずっとずっと心配だった。




***



「あれ、梓?」


 東小裏手のコンビニへ入ると、目の前には見知った顔が。


「マリ! この辺だっけ?」


 あっぶな! メイク落とさないでよかった……。


 そこには、マヨネーズ片手に嬉しそうな顔をしているマリがいた。私に向かって、手を振っている。


「ううん。南中の近く。いつも買ってるメーカーがなくてここまで来たの。……瑞季ちゃんと要くん、久しぶり〜」

「こんにちは!」

「こんにちは!」


 マリのこういうところ、見習いたいよね。

 前、うちへ勉強しに来た時チラッと紹介しただけで名前を覚えててくれるんだもの。


 なのに、私ときたら。

 クラスメイトの名前もロクに覚えられないんだから。

 ……私の悪い癖ね。毎日が忙しいことを理由に、興味ないって言ってさ。


「元気だねえ。梓はどうしたの?」

「お塩が家になくてね。ついでに、子どもたちのお菓子も買うの」

「そうなんだ〜。ねぇ、これから遊ばない?」


 調味料コーナーへ行くと、すぐに食卓塩を見つけた。

 この赤いキャップのやつが一番安いわね。ガラス製だからゴミ捨て面倒だけど、今は値段! 後で大袋買い直そっと。


「ごめん、今から用事があって……」

「なんだ、残念〜。じゃあ、また遊ぼう」

「うん。いつもありがとう」

「こちらこそ! 梓が居ないと、楽しさ半減なんだからね!」


 マリ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。

 毎回断ってるから、心苦しいけど仕方ない。……今から一緒にご飯どう? なんて言ったら、私が家事してるのバレちゃう。

 ああ。それに、青葉くんたちが来てるんだった。そっちもバレたら良くないよね?


「私も、マリと遊べないとなんだかつまんない気持ちになるよ」

「えへへ。こういうの、相思相愛っていうんでしょ?」

「それって、男女関係で使うものよ……」

「え、そうなの〜?」


 ふふ、マリってばやっぱり面白い。


 そのままお菓子コーナーに移動した私たちは、グミを手に取りレジへと向かった。

 要が探してたグミ、あって良かった。瑞季が欲しかったやつはなかったみたいだけど。代わりに、いつも食べてるチョコで我慢するって。今度見つけたら、買ってきてあげよう。


「じゃあ、また学校でね」

「うん! 気をつけて帰ってね〜」

「おねえちゃん、バイバイ!」

「バイバイ、ねぇちゃん」

「礼儀正しい〜! またね、鈴木チルドレン〜!」


 やっぱりマリって面白い!


 マヨネーズが入っている袋を下げたマリは、私たちとは正反対の方角へ行ってしまった。


「……」


 いつか、マリに本当のこと言えるかな。


 親が仕事で家にいる時間が少ないこと。

 双子の迎えをやってること。

 家事全般やってること。

 ……童顔隠したくてバリバリのメイクしてること。


 いつか。

 いつか、言えるといいな。


「じゃあ、おうち帰ろっか!」

「うん!」

「にいちゃんとグミ食べる」

「ダメ! 夕ご飯食べられなくなるでしょ!」

「ねえちゃんのケチー」

「なんとでも言いなさい」


 全く! いつも同じやりとりするんだから!!


 私は、わがままを言う双子を引き連れて、帰路につく。

 ……青葉くんに帰るよって連絡しなくていいかな。まあ、くつろいでてほしいから連絡しなくていっか。


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