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「自分がしたい格好」


 私は5限の化学をサボった。

 あの後、年表は書き直して昼休みに終わらせたんだけどなんだか教室に帰る気が起きなくて。それに、こんな顔で戻れるわけないじゃないの。こんな、メイクのよれた顔。笑い者だわ。……お母さん、ごめんなさい。


「……外、気持ちい」


 幸い、トートバッグの中にメイク落としシートが入ってたからトイレで使ったけど、メイクポーチは教室だし。目も腫れちゃったし、最悪。


 メイクを落とした私は、そのまま顔を下にしながら屋上へと向かった。お弁当も食べてなかったし、ちょうど良いと思って。

 この学校って、屋上解放してるから良いのよね。


「……」


 でも、今は何も食べる気になれなかった。今まで、備え付けのベンチに座ってボーッと空を眺めてただけ。

 日差しが強いけど、風が気持ち良い。


「6限は戻らなきゃ」


 だって、宿題終わったし。せっかくやったのに休みたくない。

 スマホの画面を見ると、後30分で6限になる時間だった。それまでに、目の腫れがなくなれば良いんだけど。

 私は、できるだけ風に顔を当てて目の腫れをなくそうとした。……それでも、頭の中にはさっき言われた言葉がグルグルと回っている。


 私、結構強引だから傷つけちゃったのかな。自覚はある。

 それに……。


「……」


 素顔、誰とでもヤれる、みんなに優しい。……経験ないからわかんないけど、青葉くんはそういう人なの?それって、その、私のこともそういう対象で見てたのかな。そっち目的で告白してくる人が多いから、勘違いしそう。


 いや、今回は私が青葉くんを強引に連れ回しただけだし多分そういう気はなかった。

 でも、もし、あの話が本当だったら……。なんだろ、この気持ち。モヤモヤする。


「知らなかった時の私に戻りたい」


 そういうのは、自分の目で見て確かめたいんだよね。噂とか誰かの伝え話を鵜呑みにするなって、瑞季たちに散々私が言ってることなのに。自分がいざそういう立場になると飲み込まれるって情けない。


 お弁当、今日はもういらないや。

 マリにあげればよかった、もったいない。



***



「はい、ポーチ。災難だったね」

「ありがとう!助かった!」


 私は、みんなとのグループラインに連絡してトイレまでメイクポーチを持ってきてもらった。誰が来るかなって思ってたけど、来たのは由利ちゃん。一番最初にメッセージに気づいたらしい。


 理由?昼休み、水道が故障して水浴びしたって言ったわ。由利ちゃんは信じてくれたみたいで、わざわざ保健室からバスタオルももらってきてくれた。……ちょっと申し訳ないけど、服濡らしておいて正解だったな。


「にしてもスッピンの梓ちゃん初めて見た。そっちの方が良いのに」

「そう?私はメイクしてる自分の方が好き」

「まあ、メイクは見せるものじゃなくて自分のためにするものって言うもんね」

「良い言葉!そうなの、自分がしたい格好で居たいだけ」


 ……自分がしたい格好、ね。


 あ、ダメダメ。ネガティブになっちゃ!

 私は、またさっきみたいな気持ちになる前に素早くメイクをする。毎朝忙しいから、時短メイクには自信がある!


「私も、土日だけでもメイクしたいなあ。平日は、校則が怖くてできないけど」

「由利ちゃんらしい。目元だけでも、やれば結構変わるよ」

「でも、自分に似合う色とかってどうやって見つけるの?」

「パーソナルカラーで私は見つけてる」

「パーソナルカラー?」


 由利ちゃんが来てくれてよかったかも。彼女、なんだか存在が癒しなのよね。

 メイクが終わるまで、私たちは自分に合う色についての話で盛り上がった。


 放課後を楽しみに、6限頑張るぞ!


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