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安定の鈴木家


「梓ちゃんは、女子のお友達が居ないのかい?」


 夕飯後。鈴木さんが洗い物をしている中、机を拭いていると透さんがコソッと俺に向かって聞いてきた。

 まあ、毎回男子連れてきてたらそう思われても仕方ないか。


 他の人たちは、双子と一緒にトランプで大富豪をしている。眞田くんが苦手なことに気づいたからか、双子と奏が面白がって何回も勝負を挑んでいた。何だか、少しだけ可哀想だ。


「居ますよ。いつも学校では5人でワイワイやってますし」

「じゃあ、なんで家に連れて来ないんだ?」

「それは鈴木さんに聞いた方が……」

「それに、君はこのままで良いのか?」

「え、何がですか?」

「何がって……。え、もしかしてうちの梓ちゃんは使い捨てか?」


 何だか、前に鈴木さんのお母さんとした会話だな。

 あの時は、なんて答えたんだっけ。


 てか、早く答えないとヤバいかも。

 透さんの顔がどんどん険しくなってる。ここで拳銃でもぶっ放されたらたまったもんじゃない。


「……鈴木さんには言わないでもらえますか」

「努力はする。最大限な」

「……じゃあ、話しません」

「ちょ!? じゃあ、やっぱり梓ちゃんは使い捨て「声が大きい!!」」

「ちょっと、パパァ。青葉くんのこといじめないでよね」

「わかってるよ、梓ちゃん」


 コレ、どっちに転んでも俺が損するやつじゃない?


 可愛がられている証拠だと思うんだけど、こっちの身にもなって欲しい。なんなら、そのまま鈴木さんにアッパーでも食らって欲しいところ。


「ほら、五月くんも機嫌直して。これあげるから」

「……あ」


 ムスッとしてたのかな。

 透さんは、そんな俺に向かってポケットから出したお菓子を渡してきた。それは、鈴木さんと半分こしたイチゴのソフトキャンディ。

 この家の人は、ポケットの中にソフトキャンディを忍ばせるのが教訓か何かなのだろうか。


 ああ、ダメだ。あの時の失態が俺の中に駆け巡る。顔が熱い。


「お、その反応珍しい。なんだ、そんな好きなものだったのか」

「……えっと」

「……」

「……」

「……はあん。君、もしかして梓ちゃんに」

「ああ、違います違います! えっと、ち、違うんです!」

「嘘だ! どうせ、梓ちゃんとベロベロチュッチュしながら食べたんだろう!!」

「誤解ですぅぅう! そんな関係じゃないですし、なんでそういうこと思いつくんですかぁ!!」

「じゃあ、なんでそんな顔を赤くし……わかった! 梓ちゃんにアデェェ!!!」

「透!!!」


 そりゃあ、誰だってそんなところ想像したら恥ずかしくなるに決まってる。

 そう反論しようとしたら、さっきはキッチンから声をかけていた鈴木さんが、いつの間にか透さんの真後ろで拳を固めていた。それは、すぐに標的とおるさんの背中にクリーンヒットする。


 そして今気づいたんだけど、奏と眞田くんがトランプをやりながらも肩を震わせてるじゃんか。さては、聞いていたな。だったら助けてよ。


「あ、梓ちゃん。違うんだ、これは」

「何が違うのよ! 青葉くんのこと困らせないでよね!」

「パ、パパは別に困らせるつもりなくて」

「実際困ってんのよ! ほら、謝って!」

「え、あ、別に……困っては」

「そもそも、五月くんが梓ちゃんとのやらしいこと考えてるのが悪い!」

「か、考えてません! これっぽっちも!」

「あんゴラ? 梓ちゃんに魅力がないって言いたいのか?」

「いや、そういうわけじゃなくて」

「じゃあ、考えてるじゃないか! うちの娘をなんだと思ってるんだ!」


 こっちこそ、俺と鈴木さんの関係をなんだと思ってるんだ!?


 なんて答えたら正解なのかがわからない俺は、懸命に頭をフル回転させるけどその努力は虚しい。

 だって、脳内には、鈴木さんと間接キスして食べたあの味がはっきりと思い出されているから。それ以外のことを冷静に考える余裕はない。


 そして、そっちでトランプしてる2人!

 今は笑ってるだけだろうけど、後で覚えておけよ! 俺だって、瑞季ちゃんと要くんと一緒にトランプやりたいんだよ!


「透こそ、青葉くんのことをなんだと思ってるのよ! 遊びに来てくれなくなっちゃった時点で、あんたのこと追い出すからね!」

「五月くんは、僕の息子同然だ! 梓ちゃんこそ、僕を追い出したら五月くんが悲しむぞ! なあ!」

「……は、はは」


 その気持ちは、素直に嬉しい。

 拳銃を突きつけられていたところから、息子同然とまで言ってくれるようになったんだ。喜ばしいことだ。


 でも、だからと言って、ここで透さんに同調したら鈴木さんが怒りそうだし逆も然り。何が正解なのか、俺にはわからない。


「透、明日の朝ごはん抜き!」

「そんなあ……。梓ちゃんが丹精込めて握ったおにぎりが食べたいよぉ」

「気持ち悪いこと言わないでよ!」

「実の父親に向かって、気持ち悪いとはなんだ!」

「気持ち悪いことしてるんだから、当たり前でしょう!」


 今のうちに逃げておこう。

 きっと、それが正解だ。


 俺は、そのまま奏たちの方へと移動する。

 不思議と、今日ずっと感じていた息苦しさは無くなっていた。



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