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だから、今だけは



「りっちゃん」

「わっ!? ビックリした〜、ソラくんか。どうしたの?」


 下駄箱で待っていること30分。

 やっと、待ち人が現れた。


 その姿を視界に入れた僕は、カバンを床に置いてから立ち上がる。


「ん〜? 一緒に帰ろうかなって思って」

「えー。なんでなんで? 学校で話しかけてくるの、珍しいじゃん」

「……りっちゃん、おいで」


 誰と、どんな話をしたのか。

 僕にはわかっていた。だから、ここで待ってたんだ。


 僕が手を広げると、強がってただろうニコニコ顔はすぐに歪んでいく。


「なんで……。なんで、いっつもソラくんにはわかっちゃうの?」

「さあね。血が繋がってるからかも」

「……血の繋がりって、怖いね」

「そうだね」


 中々こちらに来ないりっちゃんは、腕で手繰り寄せると同時に声をあげて泣き出した。

 持っていたカバンと白いケーキの箱がカタンと落ちたけど、それを気にしていられないくらい身体が小刻みに震えている。


「本気だった。けど……けど、こうなるのが怖くて、私、付き合えたらラッキーだななんて」

「いいよ、わかってる。フラれるのは、怖いよね」

「怖いよぉ。ここが痛いよお……」

「痛いね。よく頑張ったよ」


 僕の可愛い妹は、頑張った。


 人に嫌われるのが人一倍嫌いで、いつも明るく振る舞う臆病な子。

 きっと、怖がらずアタックしていれば結果は変わったと思う。……いや。


「それ、ケーキ?」

「……うん。ガトーショコラ」

「りっちゃんの好物だ。一口もらっていい?」


 ケーキを食べ終わるまで、彼女の隣にいよう。


 だってこれは、《《好きな人のために作られた味》》だから。

 りっちゃんは気づくかな。僕は、一口で気づいたよ。


「ダメ。……でも、上にあったベリーはいいよ」

「はは。ありがと」


 ハッとしたようにケーキ箱を拾い上げ、まるで宝物のように手で撫で上げるりっちゃん。本当、素直で良い子なんだ。


 梓ちゃんと会う前の五月くんへ、ストレートに告白してたらオッケーもらえてたかも。

 タイミングって、残酷だな。……僕にとっても、ね。



***



「お疲れ、青葉」

「……ありがと」


 戻ってきた青葉は、傷心した顔で今にも泣きそうだった。

 何を話しても、今のこいつに響く言葉はない気がする。だから、「お疲れ」とだけ。


 告白って、する側だけが悩んで傷つくものだと思ってた。

 される側もこんなに辛いなんて、知らなかったよ。


「教室、戻るか?」

「うん。荷物置きっぱなしだから」

「ん。付き合うよ」

「ありがと。鈴木さんと奏が教室で待ってると思う」

「え、行かない方が良いか?」

「いや、今日はみんなで帰りたい。眞田くんが良ければ」


 人数が多い方が良いってことだよな。

 いいぜ、今日は付き合ってやる。


 いや、今日だけじゃない。これからも友達である限り、いくらでも付き合ってやるさ。

 あれだよ、乗りかかった船ってやつ。それに、俺はダチを大切にするタイプだ。


「みんなで帰ろう」

「……ありがとう」

「教室着くまでには泣きやめよ」

「…………ん」


 肩を震わせた青葉は、俺の言葉に下を向きながら小さく頷いてきた。


 真っ直ぐ伸びる廊下には、俺ら以外誰もいない。

 だから、今は好きなだけ泣いとけよ。

 


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