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「五月くん」


 昇降口は、2学年の生徒でいっぱいだった。喜んでる人、茶化してる人半々ってところかな。

 私はというと……。


「嘘! 梓、すごいじゃん!」

「さすが、梓ちゃんだね!」

「やっぱすごいなあ。それに、由利だって20位入ってんじゃん」

「嬉しい! ね、梓ちゃん?」

「5位、だ……」

「今回、青葉と頑張ってたもんな」

「……うん」


 そうなの。

 今までで、最高順位。テスト返却で、高得点が続いてたから期待はしてたんだけど。

 青葉くんも15位だったから、今までで最高順位ね。30位が最高って、前に言ってたから。


 でも、素直に喜べない。


「あ、理花もすごい!」

「ほんとだ、3位じゃん」

「……ね、すごい」

「うん、頑張ったよ〜!」

「!?」


 なんて話していると、人混みをかき分けて、後ろから理花がやってきた。

 今にでもスキップしそう。現国ダメって言ってたのは、謙遜だったのかな。


「理花、おめでとう〜」

「ありがとう! 今回は、どうしても10位以内に入りたくて一夜漬けしたんだ」

「え、理花が一夜漬け? しなくたって頭良いじゃん」

「へへーん。おかげで3位! 努力は裏切らないね!」

「あはは、理花って面白い」

「……」


 理花の方が、私より順位が上だったんだ。


 それだけなのに、なぜかモヤモヤする。素直に「おめでとう」も言えない。

 私、どうしちゃったんだろう。


「梓ちゃんもおめでとう!」

「あ、ありがとう。理花も……おめでとう」

「ありがとう。あのね……」


 すると、理花は私に向かって顔を近づけてきた。そして、


「10位以内に入ったら、お願い1つ聞いてくれるって五月くんと約束したんだ。もう少しで、付き合えるかも」


 と、嬉しそうに……本当に、嬉しそうに話してきた。

 その表情は、恋愛トークをする女子の顔。頬を染めて、でも、少しだけ不安そうな顔をしている。


 それだけで、理花が青葉くんのことを「気になってる」から「好きになった」のだと理解した。


「……そ、そうなんだ」


 ……「五月くん」。

 理花は、青葉くんのことそう呼んでるんだ。

 青葉くんも、それを受け入れたの? 嬉しそうにおしゃべりしてるってことは、受け入れたんだよね。


「梓、応援してて! また話聞いてね」

「うん……」

「えー、なになに!? 2人して内緒話?」

「そうー。10位以内の内緒話〜〜」

「なんだとうー!!」

「あはは」


 私は、スクリーン越しに、その光景を見ている錯覚に陥った。

 

 これは、夢だ。

 そう、心の奥が叫んでいる。


 電源を落とせば、すぐ消えてくれるはず。

 スイッチは、どこにあるんだろう。


「……」


 あーあ。

 せっかく頑張ったのに、理花の名前が上にあるんじゃ私の名前なんか見てくれないよね。


 なあんだ。……なあんだ。




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