実際は呆気ない日常が続くだけ
「……」
私は、教室に入る前に深呼吸をした。
もし、夢の通りだったら開けた瞬間から話が聞こえてくるはず。
正夢なんて信じたことないけど、怖いものは怖い!
「ちょっと、梓〜。どうしたの?」
「……マリ、おはよう」
すると、その後ろからマリがやってきた。
いつも遅刻ギリギリの彼女がいることに驚きつつも、いつも通りを装って教室のドアを開ける。
いつもの時間に家を出たんだけど……。どうやら、結構な時間ドアの前にいたらしい。
「おはよう〜。梓が遅いって珍しいね〜」
「そう?今日はメイクがのらなくて」
「わかる〜。私なんか、いつものらない」
「あとで、おすすめのファンデ教えてよ」
「いいよ〜。来月発売の良いやつあるんだ!」
そんな会話をしつつ、自席まで何とかたどり着いた。しかし、私の話で盛り上がる男子はいなかった。……やはり、夢は夢ね!
私は、それに安堵し着席する。
「じゃあ、また後で〜」
「はーい。今日は学食でしょ?」
「うん〜。梓のお弁当狙い!」
「あげないわよ」
「え〜!食べたい!」
と、会話しつつ、窓際の席に視線を向けるとそこには「ジミーくん」と呼ばれている青葉くんの姿が。
暑苦しいセーター、冬服っぽい制服、そして、あの鬱陶しそうな髪型。スーパーの時こそが夢だったのではないか?と錯覚させるほど、やはり別人と化している。
ずっと見ているのもおかしいと思った私は、そのままマリとの会話に戻ることにした。
「じゃあ、学食のパン頂戴」
「いいよ〜。今日は、絶対数量限定のスペシャル甘々パンをゲットするのだ〜」
「頑張ってね」
「ってことで、席つくね〜。昼はダッシュするから、席の確保お願い!」
「はいよ!」
スペシャルパンとは、月水金だけ売っている幻の商品。特に、金曜は明日休みなこともあり、余ったら大変なのだろう尋常じゃないほど生クリームを入れ込んだパンが限定20食で販売される。
みんな胸焼けするっていうけど、私は好きだった。
でも、そんなことより今はあの人。
あの人に、どうにかして口止めをしなくては。
「……」
私は、通学鞄と一緒に持ってきた紙袋の中身を確認し、1限目の準備に取り掛かった。
【登場人物】
梓:主人公
マリ:主人公の親友




