ルナの秘密
僕がルナに秘密を打ち明けられたのは5月のある日のことである。
中学2年の新学期、やってきた転校生のルナは綺麗な黒髪と蒼い眼をした少女だった。
僕は席が近いという理由で日本語は流暢に話せるものの読み書きはあまり得意ではないルナのお世話係のようになってしまった。しかし、ドイツ人と言う割には童顔で妖精のような雰囲気を持つルナと話す機会が多いことは、男子にも女子にも羨まれることの方が多かったし、僕自身、役得だと感じていた。
ルナは愛想が悪いわけではないけれどクールなところがあるから、それわ近寄りがたく思う人もいるみたいでルナに勉強を教えることの多い僕は他の生徒に羨ましいと言われることも多かった。…最もルナは漢字などは得意ではないものの元々勉強は出来て、理数系については僕が度々教えてもらうこともあったのだけれど。
「陽太、いつも宿題教えてくれてありがとう。陽太を信用して話したいことがある」
ルナがそう僕に打ち明けたのはあまり天気の良くない曇りの日のことで放課後、教室に残ってルナの宿題を見てあげてるときだった。
可愛らしい顔をしたルナの意思の強い目で見られると僕はふと何もかもを見透かされているような気持ちになった。例えば自分がこの少女に恋慕の情を抱いていることとか。
居心地の悪さを誤魔化すように僕は聞いた。
「話って?」
ルナは蒼い眼で僕を凝視しながら、僕の手に触れた。僕の心臓がドキン!と跳ねた直後、指先が衝撃を感じた。
「痛っ!何?静電気」
「痛い思いさせるつもりはなかった。私は雷を操れる」
大真面目な顔して言うルナの手にはパチパチと黄色の光が舞っていた。
「えっ…手品?」
「違う」
ルナの表情があまりにも真剣だったので僕はそれだけでもうルナの言うことを信じることにした。
ルナの説明によるとこの力に目覚めたのはルナが転校してくる少し前で今日のように天気の悪い雷でも鳴りそうな日、または雷が鳴っているような日はルナは体に電気を纏わせることができるらしい。
天気によって左右される彼女の能力は僕には到底理解できないものだった。
「晴れの日も力を使うことはできるの?」
僕の質問にルナは頷いた。
「出来る。ただ、あんまり晴れの日は力が強くないみたい」
「静電気程度の力なの?」
「うん。私が雷出したいと思えば出せる。でも気持ちが溢れるといつもより大きくバチってなることもある。そうならないように気持ち溢れないようにしてる」
「気持ちが溢れるってどういうこと?」
例えばルナも僕と同じような気持ちを抱いてくれてるとか…?そんな期待を持った僕の質問にルナは言った。
「いっぱい嬉しい!とか怒った!とか」
「あー…つまり強い感情によってその雷の力が出るってこと…」
脱力した僕にルナは不思議そうに首を傾げた。
「陽太がっかりしている。何故?」
「あー…いやそういう意味かと思って…気にしなくていいよ」
自分が好きな子が自分のことを思っていてくれるそんな期待を抱いてしまったことに僕は恥ずかしくなって俯いた。
ルナは不思議そうな顔をしながら続けた。
「気持ち溢れないようにするの大変。こんな変な力、あるってばれたら、私、ただでさえ日本では目立つ。もっと目立つかもしれない。だから、この力のこと話して陽太に隠してもらいたい」
つまり目立ちたくないルナの能力を隠す協力者になって貰いたいと言うことだろう。
「分かった。力になるよ」
その日はルナに能力について聞きたいこともあったのでルナと一緒に帰ることになった。
シトシト雨が降る中僕はビニール傘をルナは水色の傘をさして歩いた。
「どうして僕に話してくれたの?」
「クラスの女子とかに話すのも考えた。でも陽太のほうが話したことあるから、陽太に話すことにした。私いつも気持ち抑えてる。誰にも本当の自分、見せないのは辛い」
「そっか…。はしゃいだりすると電気出ちゃうんだもんね」
彼女のことをクールだと思っていたが、本来のルナはもっと感情豊かな子かもしれない。1年前から体質が変わってしまってそれを隠して感情を抑えて生活するなんて辛いだろうなと思った。