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prologue
その老人は、少し前までは旅をしていた。
その旅の目的は、世界の価値を見るため。
老衰で体が動かなくなった今、老人は背負ってきたバックパックを下ろし、
自宅の寝室のベッドの上で、穏やかに寝ていた。
老人は、目的を果たせたのだろうか。
わかることは、老人は満足そうで、やさしい顔をしていたことだけだ。
寝室に、ひとりの子供が入ってきた。
子供はベッドの上の老人のところまで来ると、老人の手を握った。
「また……旅の話を聞きに来たのか?」
老人がたずねると、子供は無邪気な笑顔でうなずいた。
「ねえ、おじいちゃんと一緒に旅をしていた“変異体”さんって、今はどうしているの?」
「……今も旅を続けているさ。この世界の全てをみるためにな」
舞台は、まだ“変異体”と呼ばれる化け物が恐怖の対象だったころの時代。
地球とそっくりに作られた星を、今日も彼らは旅をする。
これは、ふたりのバックパッカーを中心とした、
変異体と人間の生き方を描く、旅の物語の詰め合わせである。