8 レエンと裏ギルド
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「いなくなっただと‼」
40代ぐらいの頭の禿げた髭面の男は酒の入った瓶を三人の男に投げつけた。
むき出しの筋肉はまるでオーガのようだ。太い腕には裏ギルドを示す刺青がしてある。
赤いドラゴンの刺青。
豪華な寝室には似合わない男だ。
派手な音を立てて酒瓶が割れる。
「ふざけてるのか‼ 子供の後さえろくすっぽつけられないのか‼ この役立たずめ‼」
「で……でもお頭。本当なんです‼ 本当に袋小路に入って子供は消えたんです‼」
「オーナーと呼べ‼」
男の怒鳴り声に三人の男が縮こまる。
この男の名はドズゲル、裏ギルドのボスだ。
「あんた怒鳴り声が下まで聞こえたわよ」
ケバイ化粧の女がドアを開けた。
女は美人で左目に泣き黒子があった。
胸の開いた、赤いドレスが色っぽい。
「で、こいつらがドジを踏んで小娘を逃したのね。何て役立たずなの」
女は裏ギルドの男より辛辣だった。
「【飴】を作っていた薬師が死んだのよ。代わりに【飴】が作れる腕のいい薬師が必要だわ」
女は座っているドズゲルの肩に腕を回す。
「ヤエムグラの所のメイドを脅してせっかく聞き出したのに。薬師ギルドに入っていない爺が一人いて、孫が月に一度薬を売りに来ているのよ。孫娘の後をつけさせて爺のねぐらを押さえるつもりだったのに。大したドジを踏んでくれたわ。また一月後まで待たなくちゃならないじゃない‼」
「す……すいません姉御」
男達は青くなって後ずさる。
三人の足元に鞭が鳴る。
その女は【鞭使いのダイアナ】と呼ばれている。
前の薬師が死んだのはダイアナが鞭で叩きすぎたのだ。
この女はドズゲルの愛人で裏ギルドの№2でもある。
要らない手間はダイアナのせいでもあるが。
本人はしれっとその事を忘れている。
「兎に角二度目は無いわよ‼ それからサッサと薬師の死体を捨ててきな‼」
「へ……へい……」
男達はこれ以上この女の理不尽なヒステリーに付き合いたくなないとばかりに地下室に向かった。
【飴】を作る施設は地下にあり。死んだ薬師は地下牢で魔薬を作らされていた。
薬師は地方の村から攫われてきた。隙を見て逃げ出した所をダイアナに見つかり。
殺されたのだ。
「たく……役に立たない奴ばかりね」
ダイアナはとくとくと、二つのグラスに薬酒を注ぎ、一つをドズゲルに渡した。
「しかし、よく【飴】の事を知っていたな」
ドズゲルは薬酒をゆっくりと飲み干す。
「良い飲みっぷりね」
ほれぼれとダイアナはドズゲルを見る。
薬酒は別名火酒ともいい、とても強い酒で一気に飲めるものではない。
ダイアナは酒が強い男が好きなのだ。
「ああ。【飴】は元々痛み止めでね。それにナフタリン草とゴウダキの鱗を潰した物を混ぜると中毒性の高い麻薬になるのよ。村では痛み止めとして使っていたけど」
薬師だったババアが良く使っていたわ。
誰に言うことも無く、小さい声で呟いた。
貧しい村では医者も商人も来てくれない。
老いた薬師の妻だけが頼りだった。
しかし貧しい村は今はない。
飢饉で滅びたのだ。
ダイアナは奴隷商人に捕まったが逃げ出し、流れ流れて隣の国に流れ着いた。
そしてこの国の豊かさに驚き、憎しみを覚える。
一生懸命働いて僅かなパンさえも口に入れることなく死んだ両親や兄弟達。
馬鹿らしい。
真面目に生きても誰も助けてくれない。
王も貴族も魔導師も兵士も奪うだけ。
神様も知らん顔だ。
だったら奪う側に回っていいわよね。
全てを奪われたんだ、奪い返してもいいわよね。
物思いにふけっていると、不意にドズゲルが尋ねる。
「で……孫の方は可愛いのか?」
「そこそこ可愛いいらしいから奴隷として売れるかしらね?」
「可哀想な爺だな。孫を人質に取られ、御法度の麻薬を作らされた挙句。孫は売られるのか。がはははは」
「弱者はいつだって強者に搾取されるものよ」
ダイアナはちびりちびりと火酒を飲む。
「ちげえねえ」
二人はそのままベッドに転がり込んで楽しんだ。
二人は柱についている黒い虫には気が付かなかった。
虫は柱から離れるとドアの隙間から出ていった。
~~~*~~~*~~~*
「兄貴……」
「なんだ?」
「ここ本当に気味が悪いですね」
「元々教会の地下墓地だったらしいからな。教会が町の端に移転して地下墓地も移転したんだが……」
「つまり墓地の跡地だったんですか」
「そうだ。この壁の向こうには移転し損ねた骨が多数あるらしい」
「うひゃあぁぁぁぁ‼」
「おい。あんまり大きい声を出すな‼ 姉御に聞かれたら鞭を貰うことになるぜ」
「すっすいやせん」
男達は地下のドアに着くと鍵を取り出し開ける。
「ライト」
壁に取り付けられた魔道具がぽっと光る。
薬草の臭いと、腐り始めた男の死体の臭いが鼻につく。
男はまだ若く20代前半だろう。
「こいつも馬鹿だな。逃げ出さなければそこそこ美味い物が食えて女も抱けたのに」
「村に病気の母親がいるとか、ホントに馬鹿だぜ。逃げ出さなければ死ぬことも無かった」
「おい。サッサと死体をシーツに包め」
二人の会話を聞いてリーダーは少しイライラした。
ここは空気が悪い。
その上死体の臭いが染みつきそうで嫌だ。
二人の部下はシーツに死体を包むと持ち上げた。
もぞもぞとシーツが動く。
「ひっいぃ‼」
二人は悲鳴を上げ、シーツに包まれた死体を落とす。
「馬鹿野郎‼ 何やっているんだ‼」
「あ……兄貴今死体が動いた……」
「はあぁ~~~馬鹿言っているんじゃねえ‼」
男は二人の頬を叩く。
「ほ……本当なんだよ‼」
「兄貴信じてくれ‼」
リーダーの男はため息をついた。
「大方死後硬直が解けて柔らかくなったから動いたように見えただけだ。まあ、死体は結構動くからな。気にするな。アンデッドにはならない。死体に聖水はかけたから」
「流石兄貴。物知りなんですね」
「無駄口は叩くな。サッサと裏の墓地跡に運ぶぞ」
金持ちの墓は移転させたけど貧乏人の墓はそのままだ。
今は誰も管理していないので、草が生い茂っている。
二人の男は穴を掘りシーツに包まれた死体を放り込む。
そして掘った土を被せる。
「おい。何か言ったか?」
「いや兄貴何も言ってませんぜ」
二人の男は手を止める。
「いや……確かに何か聞こえた」
「誰か来たのか?」
「しっ‼」
男は耳をすませる。
二人の男もおどおどと辺りを見渡す。
確かに何処からか唸り声が聞こえる。
かなり近い。
すうっと三人の視線が下を向く。
半分埋まった穴の中から声がする。
ぼこりぼこりと土が動き。
泥にまみれたシーツが三人の足に絡みつく。
「うわあぁぁぁぁぁ~~~~‼」
シーツはまるで生き物のように三人の体を拘束する。
穴の中から死んだはずの男が這い出して来る。
「「「ぎゃぁぁぁぁ! でた~~~~~‼」」」
三人の男は泡を吹いて気絶した。
『あれ? 気絶しちまった? これからがいいとこだったのに』
死んだ男の頭にレエンは座っていた。
そう男の死体を操り動かしていたのはレエンだ。
『まあいいか。次に期待しよう』
レエンは三人の男をずりずりと引きずって行った。
闇ギルドが塒にしているのは古びた教会だが。
中は貴族の館かっというぐらい派手派手しい。
三人の男を玄関に放ると。
レエンは台所にいる男達の所に行く。
『台所で飲んだくれていた男達は……うんうん。眠り薬でおネンネだな』
台所でむさ苦しい男達は鼾をかいて眠っている。
食事に眠り薬を仕込んだのだ。
レエンはサクサクと男達を縛る。
20人程いても眠っているから楽勝だ。
『後は……』
レエンがそう言った時、上でドアの開く音がした。
しどけないしぐさで女が出てきた。
「全く、あのメイド何度ベルを鳴らしたら来るのよ」
部屋にある紐を引くと台所のベルが鳴り、メイドが用事を聞きにやって来るのだが。
何度紐を引いてもメイドは来ない。
それもそのはず、部下全員レエンに眠らされているのだから。
ふっ。
廊下の明かりが消えた。
ダイアナはぎょっとする。
びしゃり
雲が切れその隙間から月の光が廊下を照らす。
床は血まみれで。
あちらこちらに部下の食い殺された無残な死体が転がっている。
「ひっ‼」
ダイアナは口を押えて悲鳴を嚙み殺す。
「どうした? 酒はまだか?」
ドズゲルも部屋から出てきた。
「あ……あんた……あれ……」
ダイアナはドズゲルに縋りつき、震えながら指さす。
二人に背を向け何かを咀嚼する男がいた。
若い男は数日前にダイアナが殺した男に似ていた。
男は振り返り血にまみれた口でにいっと笑った。
「ひっ‼」
「うわっ‼」
二人は悲鳴を上げ、その場に倒れる。
『まあまあこんなもんか』
レエンは倒れた二人の頭の上を飛び回る。
二人はレエンの電撃をくらい気絶したのだ。
レエンはにししと笑った。
~~~~*~~~~*~~~~*
「ねえねえ聞いた?」
「うん聞いた。闇ギルドのボスが捕まったんだって」
洗濯女はごしごしとシーツを洗いながら興奮気味に言った。
「赤い竜って呼ばれる犯罪組織よね。よく警備兵が捕まえたわよね」
「えっ。違うわよ。捕まえたのは警備兵じゃないわ」
新聞を読んでいた女が答える。
「じゃ。誰なの?」
「それが分からないらしいのよ」
「分からない?」
「何でも物凄い音がして警備兵が教会跡地に駆け付けると赤い竜達が縛られていて、麻薬やら悪事の書類やら奴らに誘拐されて殺された薬師の死体やらがテーブルの上に並べられていたらしいのよ」
「へ~~~まるで正義の味方みたいな人がやったのかしら?」
「それとも精霊様の悪戯かしら?」
「まさか~~精霊様は聖なる島で眠られているのよ」
「そうね。精霊様のはずないわよね」
新聞を読んでいた女はポイと新聞を長椅子の上に放ると。
「休憩が終わったから私仕事に戻るわね」
「じゃあね、エラ新聞を読んでくれてありがとう。また面白い話をしてね」
「ええ。また面白い話があったら教えてあげるわ」
若い娘は手を振って館の方に去って行った。
「あの娘エラって言うの?」
「新しく来た子でメイド見習いで、よく洗濯物を取りに来ているわ」
「エラって良くある名前ね」
「そうね。私10人のエラを知っているわ」
二人の洗濯女は笑い、シーツを絞る。
~~~~*~~~~*~~~~*
「どうしたの? レエンなんだか眠そうね」
『昨夜ちょっと夜更かししたんだ』
「そう言えば何処かに出かけていたの?」
『野暮用って奴だぜ』
レエンは庭の薬草に水をやるアリステアを見て欠伸をした。
そしてアリステアの頭の上でぐ~ぐ~鼾をかきはじめた。
アリステアはよく頭の上から落ちないものだと笑った。
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2020/3/21 『小説家になろう』 どんC
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今日は某ゲームの発売日で私もつい娘が買ったゲームをプレイしてしまった(笑)
服屋も店もどうでもいいが博物館だけは建てたいと思っています(笑)




