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29 メイドのスキルと護衛騎士のスキル③

気が付けば連載一年たっていました。

その割にはホラーや短編に浮気しているから凄く遅い……

拙い作品ですが、お付き合いいただきありがとうございます。

「タイタニー号がクラーケンに襲われた?」


 ヘレナ島の港で船乗り達や商人達が騒いでいた。

 聖地巡礼の港だけあって中々ヘレナ港は大きい。

 タイタニー号より先回りした高速船【アスタルエゴ号】は馬鹿みたいに魔石を消費してヘレナ港に着いたのだが。

 ミエド達を待っていたのは良く無い知らせだった。

 港も船舶ギルドも混乱の極みでパニック状態だ。


「タイタニー号がクラーケンに襲われたらしい」


 アリステアの乗った船がクラーケンに襲われたと言う知らせだった。

 直ちにアデソンは仲間から離れて船舶ギルドに向かった。

 他の仲間も船に待機している者以外は情報収集に人ごみに消える。


「クラーケンってマジかよ」


「あれはグイズナー諸島を根城にしていたろ」


「どうして住み処から出てきた?」


「ヤバイなパニックが起きる」


「航路の変更か?」


「いや、その前に退治だろう」


「船はしばらく動かせないのか?」


「下手すれば数か月ここから動けないぞ」


「おいおい。このまま動けないのか? 巡礼者も足止めか?」


「航路の変更をすれば食料の調達は何とかなるか?」


「海流を使えないのなら魔石をガバガバ使うことになる。大赤字だぞ‼」


 各国の商船は海流に乗ってぐるりと回っている。

 海流が使えないのなら魔力エンジンを使う事も出来るが、いかせん金が掛かりすぎるのだ。


「このまま巡礼者がこの島に足止めされれば宿も食料も足りなくなる」


「テントを張るにしたって、この島の半分は山だ。場所も限られてくる」


「神殿の地下迷宮を使う許可を貰わないと」


「地下迷宮って……魔物は大丈夫なのか? 古くなって床が抜けやしないか?」


 この島の地下にはかつて地下迷宮があったが。

 魔王が現れて魔物が地上にあふれた時、地下三階から下を聖女が封印した。

 封印のお陰でこの島ではスタンピードは起きていない。


「おそらく、地下の一階・二階は大丈夫だろう。スライムぐらいしか出ないだろうな」


「冒険者をかき集めてスライム退治をしないと。いくら雑魚でも夜、寝ているところを襲われたらひとたまりもないぞ。神兵だけじゃ足りないだろう」


「そう言えば、タイタニー号には【暁の船】が乗っていたろ?」


「流石名うての冒険者だ。クラーケンに襲われて船をほぼ無傷で守るなんて凄いな」


「タイタニー号の吸盤の跡を見たか? 俺の身長ぐらいの大きさだった。クラーケンはどんだけデカかったんだよ」


「ああ……俺も見た。普通なら船は大破しているぞ。良く助かったな」


「クラーケン退治は【暁の船】も出るのか?」


「タイタニー号との契約がどうなっているかによるが、緊急召集なら出なくてはならないだろう」


「船舶ギルドか? それとも海軍か? ヘレナ島には海軍は無いんだが……」


 聖女の結界のお陰で魔物が雑魚しかいない為、この島には海軍は無いのだ。

 近くの国にクラーケン退治の協力を求める事になるだろう。


「船は無事なの? タイタニー号に知り合いが乗っているのよ」


 メイドの旅装束に身を包んだエラが、騒いでいた船乗りらしい男達に尋ねる。


「船は無事だよ」


「乗客も怪我人はいるが、大したことは無いらしい」


「そう、良かった」


 エラは胸を撫で下ろした。

 アリステア様が無事なら【猟犬】で見つけ出せるだろう。

 おまけに、クラーケン騒動でヘレナ島から出ることが難しくなっている。

 容易に逃げ出せないはずだ。

 この島は聖女の結界に守られている為、この島の出入り口はヘレナ港しかない。


「おい。一人だけクラーケンに拐われたのがいるが……」


 二人の会話を聞いていた別の船乗りが口を挟む。


「えっ?」


「ああ、そうだったな。運がない娘だ」


 娘?


 エラの顔色が悪くなる。


「あの……娘と言うのは……どんな方か分かりますか?」


「気の毒に若い薬売りだ」


 船乗りの言葉にエラは、ひっと息を吞む。


「ああ……詳しい話はあそこにいる細工師の親子に聞くと良い。タイタニー号に乗っていたらしいから。色々知っているだろう」


 若い船乗りは港の近くの酒場を指さした。

 その入り口近くで泣いている女の子をしきりに慰めている親子の姿があった。

 転がる様にエラはその親子の所に駆けていく。


「あの……すみません……」


 エラは母親に声をかける。


「なんだい? いま忙しいんだが。後にしてくれないかい?」


 母親は泣いている娘を抱きしめて、エラを睨んだ。

 その側にいる父親と女の子の兄も迷惑そうにエラを見る。


「私はエラと申します。少しお尋ねします。クラーケンに攫われた娘さんの事で……もしかして……私の知り合いかも知れないのですが……」


 その言葉を聞いて女の子は益々泣きじゃくり、母親は娘をギュッと抱きしめる。


「おっ……おねえちゃんが……ヒック……薬売りのおねえちゃんが言っていた……お友だち?……ヒック……」


 如何やらアリステア様はこの島で誰かと会う約束をしていたみたいだ。


 一体誰だろう?


 アリステアに友人はいない。

 館から出たことが無いのだ。


 いや違う。


 度々館から抜け出していたのだから、彼女には秘密の友達がいたのだろう。

 家庭教師だろうか?

 それとも解雇された乳母だろうか?

 あの小屋の裏庭には薬草が植えられていた。

 アリステア様に薬草の知識を授けた者が居る。

 乳母や家庭教師ではあれ程の知識を授けることはできない。

 エラはにっこりと笑う。


「そうなの、彼女とはこの島で会う約束をしていたの」


 スラスラと噓をつく。


「あの子にはあかぎれの薬を良く売って貰っていたの。ほら、名前も同じエラだったし。彼女とは気が合ったのよ」


「あのお歌を一緒に歌っていたの?」


 直ぐに『僕の愛しいエラ』だと分かった。

 エラは頷く。


「ええ。私が働いているお屋敷にも薬を売りに来てくれて。お友達になったの。私も丁度お仕えしているお嬢様がお嫁に行かれるので、お暇を頂いたので彼女と一緒に聖地巡礼しようと言うことになって、私は旦那様のご厚意で高速船に乗せて頂いて。ここの港で待ち合わせしていたのよ」


 諜報部員としても教育されているエラは巧みに少女に取り入る。

 どうやら少女もその両親もエラの噓を信じたようだ。


「おねえちゃんは……おねえちゃんは……あたしを助けてくれたの……ヒック……」


「どうやらあのお嬢さんは【交換】のスキルを使って娘を助けてくれたんだ」


 泣きじゃくる女の子の父親が答える。

 彼は【暁の船】から聞いた彼女の戦いを話した。

 それはとても信じられない話だった。

 彼女が知るアリステアはとても大人しく。

 家庭教師が来ない日はいつも本を読んだり刺繡をしたりと。

 貴族令嬢そのものだったのだから。

 それが【交換】のスキルを使いクラーケン相手に闘っていた?

 青い海竜が現れてクラーケンを攻撃した?

 まるで神話の中の英雄達の話だ。


「信じられない話だろう」


「ええ。だって私が知る彼女はとても大人しくて。そんな冒険者みたいな真似ができるなんて……まるで別人です」


「そうだね。どう見ても彼女は【強化】と【交換】のスキルを持っていた」


 酒場から男が一人やって来て、女の子の母親にミルクを渡しながらそう答えた。

 母親は女の子にミルクを飲ませる。

 女の子は直ぐにすうすうと寝息を立てて眠りにつく。

 どうやらミルクの中に眠り薬が入っていたようだ。

 男は親子に宿が取れたことを告げる。

 親子は男にお礼を言うと酒場の二階に上がって行った。

 エラはすぐにその男が只者では無いと気付く。

 男は【暁の船】のリーダーのトーサ・イアポだった。


「君は噓を吐いているね」


 さり気なくエラの耳元で囁く。

 周りの人からは口説いている様に見えたが。

 彼は言葉に【威圧】を込める。


「彼女は()()()()()()()()()()と言っていたんだ。友人と待ち合わせするとは言っていなかった」


 エラは【威圧】で動けなくなった。


 しまった‼


 油断していた‼


 他所の国の冒険者は魔石にスキルを付与して使う。

 この世界の人々はスキルは一つしか与えられない。

 だから付与師がスキルを付与した魔石やポーションを使う。

 付与師は数が少ない。

 それ故にスキルを付与した魔石はとても高額なのだ。

 トーサがエラの腕を掴んだ。


「お嬢さん少しお話ししましょうか」


「私、婚約者がいるのでお茶のお誘いはお断りさせていただくわ」


 エラは片方の眉を上げて答える。

 はた目にはトーサがエラを口説いている様にしか見えない。


「済まないが、私の婚約者の手を放してもらえないかな?」


 トーサの手をアデソンが掴む。

 殺気を飛ばして、二人は睨み合う。


 おっ‼

 喧嘩か? 喧嘩か?

 周りの男達は迷惑そうな者が半分、嬉しそうな者が半分、二人を見つめる。

 女を巡って争う事はよくある事だ。

 娯楽気分で眺める者が大半だ。



「トーサ、ギルマスが呼んでいるわ」


 トーサにマリアンヌが声をかける。

 エラとアデソンはするりとトーサの側を離れると、人混みの中に消えていった。


「あらら~~また振られちゃった~~」


 マリアンヌはからかい気味で笑う。


「ちっ。そんなんじゃねえよ」


 トーサは苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 トーサの袖を引っ張る者が居た。

 魔女っ子のステシノだ。


「あの男スキルを使ってギルドを探ってた……」


 ぼそりと呟く。


「多分【猟犬】のスキル」


「ふ~~ん【猟犬】ね」


「ありゃ~~どこかのお抱えの騎士だ。他にも数人探りを入れていた」


 いつの間にかソコロもトーサの側にいる。


「メイドに騎士様か~~。どこの国のお姫様なんだろうね~~あの薬師のおじょうちゃんは~~」


 トーサは面倒臭そうに頭を搔いた。






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   2021/3/5 『小説家になろう』 どんC

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特に誤字報告は本当にありがとうございます。ありがたいです。

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[一言] 更新有難うございます。
[良い点] 更新お待ちしていました。 連載一年になるんですね、いつも楽しませて頂きありがとうございます! 港の混乱の中でも、追手が有能すぎてドキドキしました。 諦めて帰って欲しいのになんか無理そうで…
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