22 旅立ち
雑用が多くて遅くなってすみません。
春や秋は何かと祭りや自治会の仕事が多くて中々書けません。
可笑しいな~~~コロナのせいで減っているはずなのに?
もしかしてコロナの収まった来年はもっと忙しいのだろうか?
「婚約は解消された。もうお前は要らない。あの小屋に戻るんだ」
いきなり父が私の部屋に来て、そう告げた。
「……はい。お父様」
父(叔父)は言うだけ言うと、私の部屋から出て行った。
私はゆっくりと椅子から立ち上がり部屋を見渡し、そっと家具を撫でた。
部屋の家具は白色で金の飾りがあり上品で可愛らしく、まるでお姫様の部屋みたいだった。
この部屋を与えられた時。
私は誇らしかった。
馬鹿な私は両親に愛されていたんだと。
何て愚かな勘違い。
こんなお姫様みたいな部屋を与えられて、お父様もお母様も私に期待してくれているんだと。
自分の馬鹿さ加減に笑ってしまう。
この部屋は私の本当の父が、私のためだけに設えてくれた部屋だ。
屋根裏に父の肖像画と共に実の父が使っていた机があり。
その引き出しに手帳が入っていた。
手帳は血で黒ずんでいて、ほとんど読めなかったが。
父が私の為に家具を揃えてくれたことや。
私が産まれて来ることを楽しみだと書かれた所は読めた。
私の父には愛人がいた。
没落した男爵令嬢だったそうだ。
その男爵令嬢と父との間に男の子がいる。
私の兄に当たるその人は、庶子で産まれると直ぐに神殿に預けられた。
この国では本妻が産んだ子供以外はみんな庶子扱いなのだ。
愛人は男の子を生んだから、自分の息子が伯爵家を継げると思っていたらしい。
息子を神殿に放り込まれて男爵令嬢は激怒して……
お父様を殺した。
彼女は直ぐに捕らえれ、何処かに連れていかれ。
この館の者たちは、彼女がどうなったのか知らない。
世間ではお父様は事故死とされ、叔父様はお母様と結婚してパイソン家を継いだ。
口さが無いメイド達は私と妹弟との差を見て。
ソフィアとデズモンドは叔父様との不義の子だと噂した。
多分……本当の事だろう。
ぱたりと私はドアを閉める。
メイド長がドアの前に立っていた。
無表情でメイド長がガチャリと鍵をかける。
「あなたも忙しいのでしょう。小屋まで私を送らなくていいわ」
私はメイド長にそう告げると、一人静かに小屋に戻る。
13歳から護衛騎士とメイドが付けられていたが。
彼らの姿は1年ほどで消えた。
彼らが居なくなった理由も私に知らされた事は無い。
婚約解消の理由も私には告げられなかった。
私には何も知らされず。
エイデン様との婚約は解消され、ソフィアと新たに婚約が結ばれたんだなと朧げに思った。
私はあの小屋の鍵を開けた。
小屋は埃っぽく、薄暗かった。
私はレエンのいた生活に戻る。
ただレエンはいない。
がらんとした小屋に、私一人が佇む。
レエンなど始めから居なかったように静かだ。
どんなにレエンに助けられていたのかと、思い知る。
15歳になったら貴族が通わなければならない学園にも、私は病弱を理由に通うことを許されない。
妹は学園に通っている。
朝早く起きて、朝食を摂り薬草の世話をする。
昼食を摂ると薬草を作る。
週に1・2度街に行き、薬草を売り、買い物をして、旅費を稼ぐ。
婚約期間の時のように、監視者(メイドと護衛騎士)は居ない。
私が作る【陽炎】は、他の人には椅子に座って刺繡をしている様に見えるだろう。
もう、家庭教師も私の所には訪れない。
私は病で寝込んでいる事になって居るんだろう。
それに勉強は、学園に入るまでの約束で。
普通の人から見たら、私はこの世界から隔離されている。
だから、前のように自由に動ける。
ただ時々メイドと護衛騎士が、遠くから小屋を窺っているのが分かる。
罪悪感からだろうか?
お金はかなり貯まった。
巡礼が終わったら、よその国で店が開けるほど。
そうして……1年が過ぎた。
レエンとの約束を果たさなければと思うのだ。
本当にレエンは私を助けてくれる。
居た時は、生きる術を教えてくれて。
居なくなっても、婚約解消された絶望もレエンとの約束で何とか立ち直れた。
エイデン様の事を思うと、時々胸が苦しくなるが……
でも……
巡礼札はどうしよう。
聖女の旅になぞられ巡礼は行われる。
聖地巡礼をするには身分証明書つまり巡礼札が必要になる。
冒険者と言えども巡礼札は必要だ。
【祝福の儀】を受けた神殿でしか巡礼札を作る事が許されない。
個人で受けた貴族は【祝福の儀】を行った神官が発行する。
いつものように薬草を売った帰り、『人形の館』による。
人形たちが暖かく出迎えてくれるようだ。
たまに頼まれた刺繡をする事がある。
「貴方はとても刺繡が得意ね」
アルマナさんは何時も刺繡を褒めてくれる。
この人の側は暖かい。
ゴミを見るような視線を向ける両親とは雲泥の差がある。
妹と弟が私に向ける視線は無関心だ。
今日は私が焼いた木苺のケーキをお土産に持っていた。
「まあ。木苺のケーキ。私大好きなのよ」
アルマナさんは、いそいそとお茶の支度をする。
椅子に座りアルマナさんが淹れてくれた紅茶を飲む。
大分暖かくなってきたが、朝晩は冷え込む。
春の巡礼の季節が来たのだ。
「そう言えば、貴方は今年幾つになるのかしら?」
ことりとハーブティーを置いて、アルマナはアリステアに尋ねる。
「今年で17歳になります」
「そう、巡礼を許される年ね」
アルマナはニッコリ笑う。
「おや? 今日は可愛いお客さんが居るんだね」
声がして振り返れば背の高い男が一人立っている。
いつの間に入って来たのだろう?
ドアベルは鳴らなかった。
裏口から入って来たのだろうか?
アルマナの兄で神官のロホ様だ。
今日は神官服ではなく平民の服を着ている。
平民の服と言えど、かなり立派な物だ。
多分彼は私の正体を知っている。
知っていて黙っていてくれる。
アルマナもロホも信用出来る人達だ。
アリステアは勘が良い。
瞬時に信用出来る人か、そうでないか分かるのだ。
私は慌てて立ち上がり頭を下げた。
「こんにちは。ロホ様」
「こんにちは。可愛いお嬢さん」
ロホ様は優しくでも悲し気な瞳で私を見つめる。
その瞳の意味を知ったのはほんの3ヶ月前だ。
彼ら兄妹にはもう一人兄妹がいた。
アリステアと同じ茶色の髪と瞳の娘だと言う。
顔立ちもアリステアによく似ていたらしい。
若くして亡くなったのだとか。
彼らがアリステアに親切にしてくれるのは、そう言う理由なのだ。
ロホは椅子に座るとアリステアにある物を差し出した。
「こ……これは……」
それは巡礼札だ。
「この巡礼札は、私の妹が使うはずだった物だ」
ロホは微笑み優しく巡礼札を撫でる。
アルマナは兄にお茶を淹れる。
「姉はね私達と一緒に巡礼に行くはずだったんだけど。急に事故でなくなったの」
アロマナとロホは悲しげにその古い巡礼札を見る。
老いているとはいえ、アルマナには気品があった。
ロホには威厳がある。
二人共、貴族の血を引いて居るのだろう。
「私のお姉様の名はエラと言って、若くして亡くなったのよ」
死んだ姉の真の名はエレノーラと言うが、今では誰もその名を呼ばない。
本当は殺されたんだけどと言う言葉を飲み込む。
巡礼札にはアルマナの姉が産まれた年と【祝福の儀】を受けた神殿と神官の名前と【お針子】の職が刻まれている。
そして私が産まれた年と【祝福の儀】を行ったロホ様の名前と【薬師】の職が刻まれている。
「ロホ兄さんに貴方用に作り直して貰ったの」
「神官の身内ならば神殿の名が記載されてなくても不思議じゃない。神殿の名が記載されていないことを訪ねられたらロホ(私)の名前を出しなさい」
高名な神官が自分の身内に【祝福の儀】を執り行うことは珍しい事では無かった。
巡礼札を息子や孫が引き継いで新しく書き加える事は珍しい事ではない。
祖父母や両親の名が刻まれた巡礼札は代々の信仰深さを表している。
数名の名が刻まれた巡礼札は家族の誇りでもあった。
「あの……こんな大切な物をいただけません」
アリステアは首を振った。
これは大切な形見だ。アリステアが貰っていい物ではない。
「いや。ぜひ君に使って欲しい」
ロホが巡礼札をグイッと差し出す。
「それならば、代金を払います」
アリステアはおずおずと手を伸ばす。
両手でそっと巡礼札を持ち上げる。
「そうだな。代金は無事に島に辿り着く事。君の友人に会うこと。そして旅の話を私達に手紙で知らせてくれること」
ニコニコとアリステアを見て笑う二人。
「あ……ありがとうございます。ありがとうございます」
アリステアは巡礼札を抱きしめて深々と二人に頭を下げた。
「あなたからの手紙をとても楽しみにしているわ」
アルマナは泣き出したアリステアの背中をそっと撫でる。
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2020/10/27 『小説家になろう』 どんC
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