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20 クラーケン④

もう少し書こうかと思ったけれど、切りが良いので少し短めです。

 アリステアは近くにあった樽に手をかける。


「【交換】」


 樽と女の子の体が【交換】される。

 マリアンヌは目の前で起きたことに目を見張る。

 さっきまで触手に掴まれていた少女がアリステアに抱っこされて、触手は樽を掴んでいるのだから。

 触手は樽を潰す。


 バシャり


 と水と樽の残骸が落ちてくる。

 アリステアは母親に女の子を渡し。


「今のうちに船室に入ってください‼」


 訳が分からずキョトンとしていた両親は慌てて子供を連れて船室に駆け込んだ。


「あ……ありがとうございます」


 父親は娘を抱えてアリステアに礼を言って妻と息子共々船室に消えていく。

 アリステアは近くにあった樽に次々と触る。

 捕まっていたアホ貴族達が、樽と交換されて次々と甲板に姿を現す。

 マリアンヌはアホ貴族達を船室のドアに蹴り飛ばした。

 アホ共はゴロゴロと船室の廊下に転がっていった。


 バキバキと樽が壊されて中の水と樽のかけらを甲板にぶちまける。


 危なかった‼


 もう少し遅ければアホ貴族達が樽の様にバラバラにされて、甲板にぶちまけられていただろう。


「すまん。遅くなった」


 アホ貴族達と入れ替わりに【暁の船】のメンバーが現れる。


「氷の刃となりて敵を切り裂け‼」


 小柄な魔女が氷の刃でクラーケンを切り裂く。


「食らいやがれ‼」


 マリアンヌの弟ソコロが爆裂の魔法陣が彫りこめられた魔石を投げつけた。

 小量の魔力を流して投げるだけで爆発する。

 小さいが中々破壊力がある。

 ステシノが作った物だ。

 ちびっ子だが魔道具を作るのは得意だ。


 ドゴオォォォォ‼


 煙を上げてクラーケンの触手が吹き飛び海に落ちた。


「よっしゃあああああぁあぁぁぁぁあ‼」


 ソコロはガッツポーズをする。


「うおりゃああああぁぁぁぁぁ‼」


 モンクのカイニスは甲板に張り付いている触手をバリバリと剝がす。

 信じられないくらいの怪力だ。

 さっきまで全く揺れなかった船が揺れる。

 クラーケンの黒い目が今は怒りで赤く染まり、雄たけびを上げる。


 〈〈 何で何で何で邪魔するの 〉〉


 〈〈 やっと会えたのに 〉〉


 〈〈 今度こそ美味しく食べてあげるのに 〉〉


 クラーケンはこんなに船を揺すっているのに。

 何でこいつらは船から落ちないんだろうと疑問に思った。

 そして魔眼に映ったのは魔力を纏い甲板に張り付かせて、船から落ちないようにしている【暁の船】のメンバーだった。

 伊達にA級を名乗っていない。

 メンバー全員魔力操作に長けていた。


 〈〈 あんた達邪魔‼ 邪魔‼ 邪魔‼ 邪魔‼ 邪魔‼ 邪魔‼ 〉〉


 〈〈 ああ……うっとおしい…… 〉〉


 〈〈 お前達なんて要らない‼ 〉〉


 クラーケンとアリステアの目が合った。

 アリステアはゾクリと肩が揺れる。

 暗く澱んだそのクラーケンの目の奥には狂気と食欲が渦巻いていた。


 〈〈 聖女だ‼ 聖女だ‼ 聖女だ‼ なんて美味しそうな魔力なの 〉〉


 〈〈 私に食べられに来てくれたのね 〉〉


 〈〈 待ってて、今美味しくタベテアゲルカラ 〉〉


 クラーケンの魔力が膨れ上がる。

 船ごと海底に引きずり込もうと再び触手が船に巻き付く。

 船が揺れる。


 ドオオォォォォォォ‼


「なに?」


【暁の船】のメンバーは目を見開いた。

 クラーケンの体が半分吹っ飛んだ‼

 ぶすぶすと半分焦げた体を捻ってクラーケンはそいつを見た。


 〈〈 あいつだ‼ 〉〉


 かなり離れた距離にそいつはいた。

 青い海竜だ。

 涼しげな瞳でクラーケンを睨んでいる。


 〈〈 あいつだ‼ あいつだ‼ あいつだ‼ あの時、食い損ねたあいつだ‼ 〉〉


 〈〈 また邪魔をするのか? いやあの時邪魔をしたのは聖女だった‼ 〉〉


 〈〈 あいつを食べようとしたら聖女が邪魔をした‼ 〉〉


 〈〈 私の邪魔をするなーーーーー‼ 〉〉


 〈〈 聖女の下僕が-----‼ 〉〉


 体を半分吹き飛ばされてもクラーケンは死ななかった。

 体中に魔力を巡らせて亡くした体と触手を再生させる。

 しかし失った物が多かったせいか、体は一回り小さくなってしまったが。

 それでもクラーケンの闘気は却って上がっていった。


 船室に入ろうとするアリステアの体を触手がからめとる。


「しまった‼」


 クラーケンが口を開ける。

 三重に生えた牙が、アリステアを噛み砕こうと蠢く。

 とっさにアリステアは鞄の中から、さっきフジツボを入れた袋を取り出して、クラーケンの口に投げ込む。

 蠢く口が袋を噛み砕き中に入っていたフジツボと薬がクラーケンの口の中に広がる。


 グゲゲグゥゥゥ‼


 たちまちクラーケンの口は乾燥し、クラーケンの魔力を食らってフジツボは復活する処か巨大化した。

 フジツボの厄介な所は水分と魔力があれば直ぐに復活するところだ。

 まるで灰になっても、血を垂らせば復活する吸血鬼の様に。

 しかも取り付くとなかなか離れない。

 海の中なら尚更離れない。

 クラーケンにとってもフジツボは最悪な相手だ。


「うげーーー! 最悪だ‼ 今晩、フジツボの悪夢を見そうだ‼」


 ソコロは呻く。


「なんか……クラーケンが可哀想になって来た」


 マリアンヌはクラーケンに同情する。


「ある意味フジツボ最強かも……」


 ステシノも口を押さえて吐き気を堪えながら、1メートルになったフジツボを眺めた。


「どんどんフジツボが増えていく」


 クラーケンの口からフジツボが溢れる。

 1メートルあったフジツボがさらに大きくなり、クラーケンの口を引き裂きながら巨大化する。


「俺の体の中にあんなもんが入っていたのか?」


【暁の船】の隊長トーサは青い顔をする。

 船がぐらぐら揺れているが彼の場合、船酔いではない。


 クラーケンの澱んだ瞳が怒りのあまり赤く燃え上がる。

 クラーケンは三重に生えた牙を動かして殻ごとバリバリとフジツボを咀嚼する。

 フジツボはエビの仲間で味は悪くない。


 〈〈 違う‼ 違う‼ 違う‼ 違う‼ 〉〉


 〈〈 こんな物を食べたい訳じゃない‼ 〉〉


 〈〈 私は聖女が食べたいんだ‼ 〉〉


 クラーケンの触手に振り回されてアリステアは【交換】のスキルが上手く発動しない。

 カイニスはアリステアが捕まっている触手を掴んだ。


「ありがとう。【交換】」


 カイニスが触手を掴んだことで触手の動きが一瞬止まる。

 その隙にアリステアは海に投げ出された樽と自分の体を交換した。

 クラーケンはアリステアを見失う。

 ギョロギョロと赤く燃える目を動かしてアリステアを探す。

 マリアンヌは矢をつがえてクラーケンを射る。

 その矢の鏃にはステシノが彫った魔法陣が刻まれていて。

 矢はクラーケンの目に刺さりパキパキと凍り付いた。


 ギシャアアアアァァアァァ‼


 クラーケンが怯んだ隙にカイニスは船に張り付いている触手を引きちぎる。

 クラーケンは体勢を整える為に一旦船から離れ海に沈む。


「あんた‼ 大丈夫かい?」


 ぷかぷか浮いているアリステアにマリアンヌが声を掛ける。


「はい。私泳げますから、大丈夫です」


「待ってな、今縄梯子を下ろすから」


 アリステアは船の所まで泳いでいった。

 ステシノとソコロもアリステアを見て声を掛ける。


「早く上がるんだ」


「まだあいついる。油断良くない」


 マリアンヌは縄梯子を下ろした。


「しかしあんたのスキル、大したもんだね」


「いえ……そんな事はありません」


 父は役に立たないと言ったけど、十分人の命を救った。

 アリステアは縄梯子に掴まり、上り始めた。

 薬を入れている鞄はぐっしょりと濡れて重い。

 服も濡れて体に纏わりついて動きづらい。

 触手に掴まれた時かなり締め付けられたから瓶も大半が割れてしまったんだろう。

 大損だわとアリステアはため息をついた。

 薬の予備は【アイテムボックス】に入っているが、鞄はボロボロだ。

 この鞄は結構高かったのに。

 まあ、命があっただけでも儲けものだと思わないと。


「さあ掴まって」


 マリアンヌが手を伸ばす。

 アリステアが笑ってその手を取ろうとした時。


 ざあぁぁぁぁぁ‼


 触手が現れた。

 そしてアリステアを絡めとると深い海へと沈んでいった。





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 2020/9/14 『小説家になろう』 どんC

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[一言] うわ!引き込まれた! 大丈夫なん? てか、フジツボ…夢に見そうです(-_-;)
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