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19 クラーケン③

夏のホラーや【筋肉羊はマッコウクジラと戦う夢を見るか】に浮気していて遅くなりました。

スミマセン。だが‼ 後悔はしていない‼

 空は何処までも青く、良い風が吹いていた。

 暗い船室から出るとアリステアはぐっと背伸びをする。


「おねぇちゃ~~~ん」


 甲板の上を元気に少年と少女が駆けてくる。

 少女はアリステアに飛びついた。

 アリステアは【強化】のスキルを使い少女を受け止める。


「お薬ね効いたんだ。父ちゃんもう起き上がれるんだ」


「凄い‼ 凄い‼ お姉ちゃんのお薬凄い‼」


 幼い少女はパタパタと手を動かす。

 少年はキラキラした尊敬のまなざしをアリステアに向ける。


「本当にあんたの薬は凄いね」


 二人の母親がニコニコしながらやって来た。

 アリステアははにかみながらぺこりと頭を下げる。

 薬屋に卸していただけだったから、患者から直接感謝される事はあまり無かった。

 この旅で薬を売って感謝されることも多く、アリステアにはこれまでにない経験となった。


「ありがとうございます。褒められて嬉しいです」


 アリステアは母親に頭を下げる。


「いやほんと、あんたの薬はすげえよ。これまで色々な薬師が作った薬を飲んだが、殆ど効かなかった」


 頭をボリボリ掻きながら中年の男が現れた。

 この二人の父親なのだろう。


「あんたの薬を飲んでピンピンだ」


 男は何かを差し出した。


「あの……これは……」


 男が差し出した物は女神の姿を彫りこんだブローチだ。


「俺は彫金師でね。神殿の近くに店を構えているんだ。ちっぽけな土産物屋で今回は材料を購入するためにこの船に乗り込んだんだが。いつもより船酔いが酷くて参ったよ。これはお礼だよ」


「綺麗。あんまり見たことないデザインですね」


「ああ。遠くまで足を運んだかいあって欲しい材料が手に入って試作品で悪いんだが貰ってくれないか?」


「本当に頂いていいんですか?」


 アリステアはおずおずとブローチを受け取る。

 女神の横顔が彫られたブローチは上品で可愛かった。


「ああ。あんたみたいな別嬪さんに貰われて俺も鼻が高いよ」


「ふふふ。別嬪さんなんてお世辞がお上手ですね」


「いやいや。あんたは別嬪さんだよ」


 アリステアは自分の顔を平凡だと思っていた。


「薬屋さ~~~ん。ちょっといいかしら?」


「あっ。呼ばれているから行きますね。ブローチありがとうございます。大切にしますね」


 アリステアはマントにブローチを付けた。

 4人に手を振るとお客の元に向かう。


「父ちゃん遊ぼう。遊ぼう」


「父ちゃん、肩車して~~~」


 二人の子供はさっそく父親に甘えだす。


「仲のいい親子ね~~」


 アリステアを呼んだ客は微笑まし気に親子を見ている。

 若い娘で若草色のワンピースを着ている。

 ブロンドでハシバミ色の瞳の持ち主だ。


「あたしの父親は幼い時事故で亡くなったから。ろくすぽ顔なんて覚えていないのよ」


「私は家族と縁が無くて……遊んでもらった記憶が無いんですよ」


 アリステアと客は悲しげに微笑む。


「あっ‼ そうそう大奥様が関節痛でね。何かいい薬がない?」


「ベランナの湿布薬があります」


 ベランナはごく一般的な湿布薬で関節痛に良く効く。

 厨房でも火傷の薬の次によく売れるのだ。

 メイドさんも拭き掃除が多いから膝を患う人が多い。

 一種の職業病だ。


「じゃそれ貰うわ」


 若いメイドは湿布薬の代金を払うと船室に帰って行った。

 特等室の老婦人付きメイドなのだろう。

 特等室の部屋を取ることはできた。

 しかし……この国から出るにあたって目立ちたくはなかった。

 バイパー国は男の出入りは緩いが、女の出入りは厳しく。

 特に貴族女子の出国は殆ど認められていない。

 巡礼手形が手に入ったのは奇跡に近かった。

 アリステアはアルマナの兄ロホに再び感謝の祈りを捧げた。



 ~~~~~*~~~~~*~~~~~


 ミツケタ……


 暗い暗い海の底でそいつは起き上がった。


 ミツケタ……


 ごぼごぼと泡を立ててそいつは移動する。


 数百年ぶりに見つけた【聖女】だ。


 アア……オナカガスイタ……


 前の【聖女】と同じ魔力だ。


 取り逃がした【聖女】に違いない。


 今度こそ捕まえる。


 マッテテネ……ワタシガオイシクタベテアゲルカラ……


 魔物は海面に向かって浮上する。



 ~~~~~*~~~~~*~~~~~



「皆さん船室に入ってください‼」


 冒険者【暁の船】が甲板に出ている客を船室に誘導する。

 日向ぼっこを楽しんでいた客達は不平不満を漏らす。

 ここの所曇り空が続いていた、やっと日の光が拝めたのに、また暗い船室に戻らねばならないなんて。


「どうしたの?」


 アリステアは走ってくるマリアンヌに尋ねた。


「魔物が近づいてきているの‼ 早く船室に入って‼」


 アリステアは驚いたが、直ぐに頷いて船室に入るドアに向かうが入れなかった。

 ドアの入り口で5人の若者が騒いでいた。

 彼らの顔は赤く酒に酔っているようだ。


「早く船室に入ってください‼」


 アリステアは男達を中に入れようとするが男達はゲラゲラ笑うだけだった。


「魔物など恐るるに足りぬ」


 ビールをぐびりと飲む。5人共高そうな服を着ている。

 剣も靴もピカピカで初めての船旅なのだろう。

 でも……彼らに仕える家来は何処に居るんだろう?

 普通身の回りの世話をする者が居るはずだが?

 3人は完全に呂律が回っていない。


「この私の剣で切り裂いてやる」


 若い天然パーマの男が剣を抜いて振りかざす。

 危ないったらない。

 周りの人間も眉をひそめる。


「それでこそギュラム侯爵子息~~~」


 4人の若者は彼を褒め称える。

 多分有名な貴族なのだろう。


「あの……すみません。剣を仕舞って下さい」


 アリステアは若者達に懇願するが。


「なんだ? 平民か? ならその眼に焼き付けておけ‼ このギュラム侯爵の嫡男ダフスが魔物を倒すところを‼」


 全く人の話を聞かない男の様だ。

 多分酔っていなくても人の話を聞かないんだろう。


「ちょっといい加減にドアの前からどいて‼ 皆が避難できないでしょう‼」


 マリアンヌは切れかけていた。

 早く客達を避難させなければならないのに。

 この貴族の酔っ払い共め‼

 マリアンヌは馬鹿貴族達を押し退けて、他の乗客たちを誘導する。


「さあ早く客室に戻って‼」


 時間が惜しい。

 甲板は直ぐに戦場になるだろう。

 突き飛ばされた貴族達はのろのろと起き上がる。


「この無礼者‼」


 呂律の回らない声でそう言ったが、他の者には聞こえなかった。

 その手には剣が握られていた。

 マリアンヌは客の誘導に夢中で気が付いていない。

 アリステアだけはその声を拾っていた。


「危ない‼」


 アリステアは鞄でアホ貴族達をぶん殴る。


「ぐぇええ~~~」


 アホの貴族は5人とも壁に叩きつけられた。


「あんたやるね~~」


 マリアンヌは親指を立てる。

 アリステアは照れる。

 初めて人を殴ってしまった。

 アリステアはもっぱら逃げ専だから、人を殴るのはレエンの役目だった。


「皆さん~~早く船室に入ってください‼」


 アリステアも誘導を手伝う。

 最後はあの彫金師の親子だ。

 馬鹿貴族は知らん。


 ぬるる~~


 親子が船室に入ろうとした時に巨大な触手が女の子の体に巻き付きその体を持ち上げる。


「きゃああぁぁぁぁぁ!」


「「エリヤ‼」」


「助けて~~~父ちゃん~~~母ちゃん~~~~‼」


 女の子は泣き叫ぶ。


「誰かエリヤを助けて~~~」


 エリヤの母親は半狂乱になって触手に掴みかかろうとするが、夫が妻の体を抱きしめて押しとどめる。


「馬鹿‼ 俺達じゃ足手まといだ‼」


「うぎゃあああぁぁぁぁぁぁ~~~」


「ひいぃぃぃ‼」


「はっ放せ~~~‼」


「そこの冒険者‼ 早く助けるんだ~~~」


「いだいいだいいだい~~~」


 間抜けな悲鳴を上げて5人の馬鹿貴族も触手に巻き付かれている。

 何をしているんだ‼ この阿保共‼

 マリアンヌは怒りに震える。

 恐怖のあまり酔いも醒め、青い顔をしてみっともなく泣き叫んでいる。

 女の子に気を取られているうちに、他の触手も生贄を求めて甲板に忍び寄っていたのだ。

 アリステアは驚愕する。

 全く気配処か船の揺れも無かったのだ。

 多分魔物は気配を消し船に近付き全く波を起こさずに船に巻き付いた。

 手馴れている。

 知能も高いのだろう。


「「「「「だずけでぐれ~~~~」」」」」


 情けない男共の悲鳴が辺りに木霊する。

 顔からも股からも色々垂れ流しながら、貴族子息が助けを求める。

 エリヤは青い顔をしてぐったりしている。

 気絶しているようだ。


「いけない‼」


 アリステアは近くに置いてある樽に手を触れた。


「交換‼」


 女の子と樽は【交換】された。










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 2020/9/3 『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。

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[一言] 交換て凄い技だな…
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