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18  クラーケン②

夏のホラーに浮気していて書くのが遅れました。すいません。

 思いの外船室は暗く。

 マリアンヌはテーブル上に置かれたランプに魔力を流す。

 ぽっと明かりが灯り船室を照らした。

 部屋は散らかっていて、如何にも男の部屋という感じだ。

 マリアンヌはテーブルの上に乗っている、シャツやズボンを椅子の上に移動させる。

 そしてアリステアに鞄をテーブルに置くように指示する。

 マリアンヌはベッドを覗き込みリーダーを起こす。


「リーダー? 眠っているの?」


 ベッドのシーツがむくりと動き男が起き上がる。

 ぷ~んと薬草の臭いと饐えた匂いが混じり合う。


 ああ……


【呪い】を貰ったな。

 アリステアの勘が告げる。

【呪い】には幾つもの種類がある。

 昆虫系の【呪い】なら卵や幼虫を植え付けられる。

 植物系なら花粉や樹液が後から効いてくる。

 魔獣系なら毒や爪からの破傷風や硬化などだ。

 死霊系なら精神攻撃だ。

 どれも後から効いてくるもので、気が付けば手遅れになって居ることがままある。

 回復魔法はあっても卵や幼虫ではかえって元気にさせてしまい、症状が重くなる。

『暁の船』のリーダーも【呪い】を貰っている。


「ああ……起きている。つうか……眠れないし……だるい……」


「傷が疼くんですか?」


 男はよろよろと立ち上がる。

 マリアンヌが駆け寄り椅子に座らせる。


「あんたは?」


 男はアリステアに気付く。

『暁の船』のリーダーはがっしりした体で精悍な顔つきをしている。

 年は30代半ばだろうか。

 しかし今は疲労も酷く目の下に隈も出来ている。


「こんにちは。私は薬師のエラです」


「あたいが頼んだんだ」


「マリアンヌが……すまんな。手間をかけさせる」


「いえ。それよりも左足ですか? 見ても良いですか?」


 アリステアは薄い手袋をはめ、テーブルの上に鞄を置き色々な道具を出す。


「ああ……」


 力なく『暁の船』のリーダーは頷き右足のズボンをめくる。

 アリステアは眉をひそめる。


「海の魔物討伐をしたんですか?」


「良く分かったね。この船に乗る前に三角アザラシの討伐依頼を受けたのさ。ミネア地方で魚を食い散らかし、網もずたずたにする奴でね。陸に上がった所を仕留めた。傷はその時に受けたんだけど。大した怪我じゃなかったし、直ぐに消毒草を塗ったんだ」


「四ヶ月前ではないですか?」


 アリステアはマリアンヌに洗面桶を持ってこさせる。

 桶を右足の下に置く。

 男のふくらはぎの包帯を外す。

 青い薬草を丁寧に拭き取り傷口を見る。少し赤くなっているぐらいで、傷口は完全に塞がっている。


「まずこの薬を飲んでください」


 アリステアは男に緑の丸薬を与えた。


「苦いな……」


「リーダー、我儘言わない」


 マリアンヌは年上のリーダーを窘める。


「傷口を少し切りますね」


 アリステアはナイフで男の塞がった傷口を切る。


「くっ……」


 アリステアは傷口に瓢箪に入れた液体をかけ、【身体強化】を使い彼の足首を動かさないように掴んだ。


「ぐっあぁぁぁぁ~~~‼」


 男は悲鳴を上げる。


「マリアンヌさん‼ 押さえてください‼」


 マリアンヌは慌てて椅子の後ろからリーダーに抱きつき、リーダーの足を見て息を吞む‼

 リーダーの傷口は赤くボコボコに腫れ上がりボロボロとフジツボが零れ落ちた。

 洗面桶にフジツボが一杯に溜まる。


「なにこれ‼ なにこれ‼ きしょいんですけど~~~‼」


 マリアンヌはリーダーを押さえつけながら悲鳴を上げる。

 アリステアは別の瓶の中身をフジツボに振りかける。


 ジュウ~~ジュウ~~~


 と音を立ててフジツボはサラサラと砂になっていく。

 アリステアがかけたのは【強力乾燥剤】だ。

 水分を含む物はたちどころに乾燥して粉になる。


「三角獣の角にまれにフジツボが付着している事があります」


 アリステアは革袋にフジツボの粉を入れる。

 陸に上がった時に始末せねばならない。


 アリステアは傷口からフジツボが全部出たことを確認すると傷口を縫い薬草を付け包帯を巻く。


「フジツボ……正確には紫フジツボが体内に入ると微熱・倦怠感・吐き気を催すようになります。やがて体内の魔力を全て吸収すると宿主の体を乗っ取り海に帰って行くんですよ」


「何それ~~~ホラーじゃん。怖い~~‼ マジ勘弁~~‼ リーダー良かったね~~~危うくフジツボ男になるとこジャンか~~~ありがとう~~~ありがとう~~~エラ本当に感謝するよ~~~」


 涙目でリーダーをギュッと抱きしめるマリアンヌ。

 呆然と包帯を見つめる「暁の船」のリーダー。

 しかし……彼は包帯ではなくアリステアが押さえていた足首の痣を見ていた。


「ほら、リーダー、ボケっとしていないで、お礼を言って~~」


「あ……ああ……本当にありがとう。名前も言っていなかったな。俺の名はトーサ・イアポと言う。『暁の船』のリーダーをしている。治療費はいくら掛かる? 高額なのか? 済まないが高額ならギルドのある町まで待ってもらえないか? 船に乗る前にギルド銀行に振り込んでしまって、余り手持ちが無いんだが……」


 アリステアは適正料金を告げる。


「えっ? 本当にそれで良いのかい?」


 トーサは机の引き出しから財布を出す。

 アリステアは頷きトーサから金を受け取った。


「後、念の為三日分の毒消しを出しておきますね」


 アリステアは鞄から薬を取り出し、机の上に置く。


「食後に一回三錠飲んでください」


 その時ドアをノックする者が居た。


「何だ、入れ」


 その声と同時にずかずかと数人の冒険者が入ってきた。


「リーダーお邪魔します。あれ? お客さんですか?」


 三人の中で一番若くチャラそうな男が尋ねる。


「いや。薬師のエラさんだ」


 トーサは仲間にアリステアを紹介すると。


「それじゃ。私はこれで失礼します」


 アリステアは鞄に色々仕舞い込むと船室から出ていった。


「あ~~良かったんですかい?」


 ソルジャーのソコロはアリステアが出ていった、ドアを見ていた。


「かわいい子ですね」


「はっ‼ 馬鹿言ってんじゃないよ‼ あの子は薬師だ。ちょっかい出すんじゃないよ」


 べしりとマリアンヌはソコロの頭を叩く。


「いってな~姉ちゃん。馬鹿になったらどうすんだよ」


 涙目で姉を睨む。


「安心おし。それ以上馬鹿になることはない」


「姉ちゃん酷い‼」


 マリアンヌとソコロは姉弟なのだ。

 ソコロは落ち着きが無いが、20はとうに超えている。


「薬師……私の回復魔法は駄目だった……」


 スラシノは魔女だが余り回復魔法は得意じゃない。

 がっくりと項垂れる。


「ごめん……リーダー……わたし役立たず……」


「いやいや。お前の攻撃魔法は凄い。人間得手不得手はある。今回は相性が悪かっただけだ」


「そうだぞ。ステシノは【呪い】の勉強がまだまだなだけだ。若いんだから、これから精進すればいい」


 モンクのカイニスがステシノの頭をポンポン撫でる。


「レディの頭を……触るな……」


 ステシノはプンプンしながらぺシぺシと杖でカイニスの手を叩く。

 小柄なステシノをカイニスは子ども扱いする癖がある。

 はたから見ていると親子がじゃれ合っている様にしか見えない。

 カイニスはごっつい体付きな上に老け顔なのだ。


「で……リーダーの病気って何だったんだ?」


 ソコロは姉のマリアンヌに尋ねた。


「紫フジツボだった」


「「「 はっ‼ フジツボ‼ 」」」


 三人は同時に叫ぶ。


「四ヶ月前に三角獣の角に紫フジツボが付いていたらしくそれが体内の魔力を吸って増えていたんだ」


「紫フジツボ……聞いたことある……」


「あのフジツボ男か~~」


「都市伝説とばかり思っていた」


 カイニスは腕を組んで唸る。


「あの娘、年の割には良い腕だったんだな。リーダーもラッキーでしたね」


 そう言いながら、マリアンヌはトーサに水を渡す。

 フジツボのお陰で水分をかなり持っていかれた様だ、うまそうにごくごくと飲んでいる。

 食事も後で持ってこようとマリアンヌは段取りを考える。

 掃除は後で良いか。取り敢えず散らかっている服を洗濯袋に入れた。


「フジツボがリーダーの傷口からザラザラ出てきたのを見た時はゾッとしたわ~~」


 マリアンヌは鳥肌が立った腕をさする。


「しかも料金安かったし。いくらでもボッタくれたのに」


「今度、お礼の食事にでも誘わないとな」


「誘うならあの子の負担にならないようにさり気なく誘ってくださいよ」


「じゃ船を降りる前の夜に任務完了パーティとでも言って誘うか」


「いいっすね❤ いいっすね❤」


「あんたはそのまま部屋にお持ち帰りするんじゃ無いわよ‼」


 マリアンヌは弟のほっぺたを抓る。


「何故分かった~~」


「あんたとは付き合い長いからね~~~素人さんに手えだすんじゃ無いよ‼」


「この船に乗っている玄人さんはあんまり好みの子が居ないんだよな~~」


 ソコロはブーたれる。

 ソコロはマリアンヌの弟だけあって美形だが。

 女にだらしない。

 仲間は魔獣に殺される前に女に刺されるのが先だと思っている。


「任務中……我慢しろ……下半身男……」


「酷い‼ 私はあんたをそんな子に育てた覚えは無いわよ‼」


 ソコロはお母さん口調でヨヨヨと泣き崩れる。


「お前に……育てられた……覚えは無い……」


 トーサはパンパンと手を叩く。


「ハイハイそこまで、お前たちここに来たのは何か報告があったんだろう」


「おっとそうだった。ステシノの使い魔のポポンが東の海の中に巨大な影を見たそうだ」


「東の海か……間違いないか……」


 ポポンはステシノが魔力で創り上げたピンクのオウムだ。

 ステシノはポポンの目を通して遠くの情報を見る事が出来る。

 トーサは机の上に海洋地図を広げた。

 みんなも真剣な表情で覗き込む。


「拙いな……海竜だったら良いんだが……」


 数日後、トーサの悪い予感は当たった。




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 2020/8/18 『小説家になろう』 どんC

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[一言] うげぇ〜!! フジツボ〜〜〜〜〜!!!!!! ホント、怖い。 リアルでも…
[一言] 傷口にフジツボって何かで見た気がする… ゾワゾワしたの覚えてる(-_-)
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