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15 メイドと護衛騎士

 チュンチュン

 小鳥が泣いている。

 むくりとアリステアは粗末なベッドから起き上がる。

 アリステアはいつの間にか泣き疲れて眠ってしまった。


「レエン……」


 そっと小さな光を呼ぶ。

 いつもなら『寝坊助だな』と笑いながら飛んでくる光はいない。

 本当に居なくなってしまったんだ。

 じわりとまた涙が溢れる。

 ずっと一緒にいてくれると思っていた。

 だが……別れは突然やって来る。

 乳母の様に。


 いけない、いけない。


 アリステアはごしごしと目をこする。

 乳母が居なくなった時、レエンが現れた。


 一人ぼっちは嫌だ‼


 レエンがアリステアの孤独な心を救ってくれた。

 アリステアは自分がどれほどレエンに頼っていたか思い知る。

 いつだって大切な人は失くしてから、どれだけ大切だったかを思い知る。

 また今日からお金を貯めて旅費を稼がなくてはならない。

 エイデン様も学園に帰られた。

 婚約者とは言え休みでもないのに学園を休み【祝福の儀】に参加してくださったのは珍しい事だ。


「また手紙を書くよ」


 とおっしゃってくれたが。

 手紙はアリステアに届けられていない事を知らないのだろう。

 レエンがいたからアリステアはエイデンの手紙を読む事が出来たのだ。


 大丈夫。大丈夫。


 一人でもちゃんとできる。

 その為にレエンは一杯スキルを授けてくれたのだから。

 これは死別ではないのだから。

 ヘレナ島でレエンは眠っているだけだから。

 私がヘレナ島に行って「レエンはお寝坊さんね」と起こしてあげないといけないわ。


 でも……


 レエンは何処で眠っているのかしら?


『俺の体はヘレナ島で眠っているんだ』


『何処で眠っているかって?』


『来れば分るよ』


 レエンはいつもそう言って笑っていた。


『俺に会えばアリステアはビックリするぜ』


『俺はそれはそれは物凄い美形(いい男)だからな』


 えへんと胸を張る。

 蛍の様な光が胸を張ると言うのは変な言い方だが。

 アリステアにはそう見えるのだ。


 アリステアはごそごそとベッドから出ると外に出た。

 井戸から水を汲み桶に水を移して、顔を洗う。

 レエンに貰った櫛を暫く見つめていたが。

 長い髪を櫛でといて三つ編みにする。

 小屋に戻り着替えると【ボックス】から質素な服を出す。

 町の古着屋で買った服を着る。

 万がいち親にその服はどうしたのかと聞かれたら。

 小屋のロフトにあった物だと言い訳をしょうとレエンといっしよに考えていた。

 今の所誰も何も尋ねない。

 親も兄妹も使用人も誰一人アリステアに関心がない。


 今日も下女は食事を持ってこないので。

 アリステアは何時ものように自分で朝食を作る。

 2日前に作って置いたスープと町のパン屋で買っておいた焼き立てパンとウインナーとサラダをテーブルに並べる。

 女神に感謝の祈りを捧げると朝食を食べる。

 本当に【ボックス】は便利だとスキルを授けてくれたレエンに感謝する。

 熱い物は熱いままに、冷たい物は冷たいままに保存される。

 アリステアの【ボックス】にはレエンがくれた薬を作る道具や【乾燥】させた薬草や作り置きした薬やお金や食べ物が貯め込まれている。

 何時でも逃げ出せるように大事な物や見られて困る物は【ボックス】に入っている。


 ___ 逃げ出す ___


 エイデン様を残して逃げ出す。

 ちくりと心が痛む。

 エイデン様は大したスキルを持たない私を慰めてくださった。

 優しい方だ。

 望めば私なんかよりもっと素晴らしい方を娶る事が出来るだろう。


 そう……


 例えば妹の様な両親にも弟にも使用人でも、皆に愛される娘。

 他の四大貴族や王族からでも花嫁を迎えることが出来るだろう。

 可愛らしく高貴な血を引く娘を……


 ……?


 あら? 


 だとしたら私は何故婚約者に選ばれたのかしら?

 暫く考えたが答えは出なかった。


 食事を終え皿を洗い終わった時。

 気配を感じる。

 屋敷の方からメイドが来た。

【祝福の儀】で案内してくれたメイドだ。

 エイデンとの婚約の時も東屋に案内してくれた。


「アリステア様、旦那様がお呼びでございます」


「お父様が? 何の用事かしら?」


 アリステアはメイドに連れられて館の小さな部屋で着替えをさせられると、書斎に向かう。

 トントンとメイドはドアを叩きアリステアを連れてきたことを告げる。


「入れ」


 ぶっきらぼうな声でパイソン侯爵は答える。

 メイドはドアを開けてアリステアを部屋の中に入れると頭を下げて出ていった。

 アリステアは頭を下げて父親を見る。


「お父様。何の御用でしょうか?」


 アリステアはそこで見知らぬ騎士とメイドがいることに初めて気が付いた。

 騎士は25歳前後だろうか? 赤毛で緑の瞳だ。

 わりとハンサムで、着瘦せするタイプだが、その体はしっかりと鍛え上げられている。

 メイドの方も騎士と同じ赤毛で緑の瞳だ。

 年は二十を超えるか超えないかぐらいだろう。

 すらりと背が高く女騎士と言ってもいいくらい、メイドも鍛え抜かれている。

 この二人は血縁関係があるのだろう。

 顔立ちが似ていた。


「この二人は今日からお前付きの護衛騎士とメイドだ。護衛騎士の名はアデソン・ミエド。メイドはエラ・ミエドだ」


 メイドは微笑むと。


「エラ・ミエドと申します。今日よりアリステア様にお仕えする事になりました。よろしくお願いいたします」


「アデソン・ミエドと言います。アリステア様をお守りする護衛騎士です。よろしくお願いいたします」


 二人は頭を下げた。

 年上の2人に頭を下げられてアリステアはどぎまぎした。


「えっ? 護衛騎士にメイドですか? 今までそんな者は……」


 付けられていなかったのにと言うアリステアの言葉は父親に阻まれる。


「バーグ侯爵がお前の為にわざわざ雇って下されたのだ。後でお礼の手紙を出しなさい」


 パイソン侯爵はベルを鳴らした。

 すると直ぐに先ほどのメイドが来た。


「アリステア様のお部屋に案内いたします」


 三人はパイソン侯爵に頭を下げて退室する。

 メイドは三人を二階の部屋に案内した。

 アリステアは知らなかったが、案内された部屋はアリステアが赤ん坊の時に使っていた部屋だ。

 壁は白くピンクのバラの花が描かれたボーダーが張ってあり。

 白とピンクで統一された家具が置かれている。

 子供らしい可愛らしい部屋だ。

 メイドと護衛騎士が来ると知らされてから慌てて掃除された事をアリステアは知らない。


「こちらがエラさんのお部屋になります。昔アリステア様の乳母が使っていた部屋です。お気に召されるとよろしいのですが」


 その部屋はアリステアの部屋の隣にあった。

 落ち着いた焦げ茶の家具で統一され、ベッドと机とクローゼットが置かれていた。

 屋根裏部屋のメイド達の部屋に比べれば破格の扱いだった。

 その隣がアデソンの部屋で、よく似た色調だったがこちらは微妙に男らしい家具が置かれていた。


「お二人のお荷物はこちらに置いております」


 侍従が二人の鞄を運び込んだ。侍従は鞄を四個運び込むとエラからチップを受け取り礼を言って出ていった。


「「アリステア様改めてこれからよろしくお願いします」」


 二人は同時に声を掛ける。


「あっ……はい。よろしく……ね……」


 アリステアはついうっかり「よろしくお願いいたします」と言いそうになった。

 貴族は使用人に敬語は使わない。

 平民に舐められないためだ。

 アリステアはこれまでろくに使用人と接したことが無い。

 たまに朝食を持ってくる下女も、家庭教師が来た時に呼びに来るメイドもアリステアには無駄口を言わないように両親から言い含められているのだ。

 乳母が去ってから初めてのアリステア専属の護衛騎士とメイドだった。


「私はバーグ侯爵にお礼の手紙を書いているわ。二人共彼女に屋敷を案内してもらって」


「はい。承りました。私達はえっと……」


「ハンナと申します」


「ハンナ殿に屋敷を案内してもらうことにします」


 護衛騎士とメイドはハンナににっこりと笑いかけた。

 護衛騎士のアデソンに笑いかけられてハンナの顔が少し赤い。

 二人はハンナの案内で館を歩く事になる。


 アリステアは机に向かってバーグ侯爵にお礼の手紙を書く。

 そしてエイデンにも手紙を書いてバーグ侯爵が護衛騎士とメイドを付けてくれたと報告する。

 そしてエイデンが学校から帰るころ、庭の木々が色鮮やかに染まっているだろう。

 庭を案内するのを楽しみにしていると付け加えた。

 アリステアが手紙を書き終わった頃二人は帰って来る。

 コンコンとノックをする音がした。

 どうぞとアリステアは答える。


「あら? 早かったのね」


 アリステアは振り向きドアの所に立つ二人を見た。


「はい。細かい所は明日伺うことになっています」


 エラはにこやかに答えた。


「ところでアリステア様もうお手紙はお書きになりましたの?」


「ええ。今書き上げた所よ」


「では早速お手紙を出してきましょう」


 エラから手紙を受け取り早々にアデソンは出ていった。

 アリステアは仕事が早いと思う。


「エラ……」


「はい。お嬢様なんでございましょう」


「あなたも下がっていいわ。荷物の荷ほどきもあるでしょう?」


「ありがとうございます、お嬢様。お言葉に甘えて下がられていただきます」


 エラは隣の部屋に消えた。

 アリステアはため息をつく。

 これからどうしよう。

 これから毎日護衛騎士とメイドに監視される事になるのだろう。

 薬を売りに行く時間や薬を作る時間を何処から捻りだそう。

 アリステアは頭を抱える事になった。




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  2020/6/26 『小説家になろう』 どんC

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感想・評価・ブックマーク・誤字報告ありがとうございます。

今朝庭を掃いていたら鉢に刺された。

これでめでたくスズメバチ・ミツバチ・あしながバチと一回づつ刺されたことになるな~~~~(笑)

後が無い(汗)

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― 新着の感想 ―
[一言] 刺された?! 大丈夫でしょうか… これからの季節が一番活発ですので… 本当にお気をつけください!
[一言] ミツバチとアシナガバチはノーカンです! スズメバチだけ気を付けて下さいね! 生活と言うか…待遇が一気に変わると戸惑いますよね(笑)
[気になる点] 15 メイドと護衛騎 →15 メイドと護衛騎士 タイトルは誤字報告できないみたいなので……
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