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13 祝福の儀

身内に不幸がございまして、まだごたついています。

連載も少し遅れます。ご了承ください。

『アリステア‼ またメイドが来るぜ』


 レエンは跪いて床の掃除をしているアリステアに声を掛けた。


 バーグ侯爵が来てから一月が経った。

 何度か街に出て手紙をエイデン(婚約者)に送った。

 レエンはあまりいい顔はしなかったが、家のメイドに頼んでも握りつぶされるかもしれないと。

 町の薬師ギルドに頼んだのだ。

 だが、待てど暮らせど婚約者からの手紙は来ない。

 いや、手紙は来ていた。

 レエンは夜中にコッソリ館に潜り込みエイデンの手紙を探した。

 そして書斎の机の中に隠している手紙を見つけた。

 手紙は四通ほどあった。

 一週間に一通送られてきたのだろう。


『ほらアイツからの手紙だぜ』


 レエンは迷ったが、結局アリステアに手紙を渡す。


「ありがとう。レエン。嬉しいきっとメイドが渡すのを忘れていたのね」


 喜ぶアリステアに本当の事が言えなくなった。

 本当はパイソン侯爵(あの男)がアリステアに送られた手紙を勝手に読んで机の引き出しに入れていたのだと。

 口が裂けても言えなかった。

 手紙は開封されていたがアリステアは喜んで読んだ。

 手紙は綺麗な文字で学園の生活が綴られていた。

 入学式の事や、クラスの友人の事や春祭りの事。

 アリステアは目をキラキラさせて外の世界の出来事に思い巡らせる。

 そして手紙には最後にアリステアの体を気遣う言葉で締めくくられていた。

 アリステアはほうっとため息をつく。


「レエン、手紙の返事を貰えるのって素敵な事ね」


 手紙を抱きしめアリステアは言う。

 レエンは泣きそうになった。

 本来なら貴族令嬢であるアリステアはお茶会の返事を書いたり、友人に訪問の手紙を書いたりするのが普通である。いや貴族令嬢でなくても祖父母や友人に手紙を出す事ことは普通な事だ。

 でもアリステアはお茶会に一度も出たことも、友人が出来たことも無い。

 この閉ざされた小屋がアリステアの世界だ。


「この手紙は元あった所に返さないと駄目よね」


 アリステアは愛おし気に手紙を撫でる。


『あ……うん……返した方が良いだろう。後で手紙を読んだことがばれたらしかられるかも知れないから』


「そうよね……」


『大丈夫。読みたくなったらまた持って来てやるぜ』


「うん。レエンありがとう」


 愛おしそうにアリステアはレエンに手紙を渡す。

 レエンは手紙を元の所に返した。

 昨夜の事である。


 次の日、アリステアが床を掃除しているとレエンがメイドが来たと告げる。

 アリステアは昨夜、手紙を盗み読みしたのがばれたのかと一瞬ひやりとした。

 やって来たのはこの間アリステアとエイデンを庭に案内した若いメイドだった。


「お嬢様。今日は【祝福の儀】でございます。直ちにお屋敷に戻られて支度をしてください。バーグ侯爵もいらっしゃいます」


 手紙を盗み読みしたことではないようだ。

 メイドはアリステアが床を磨いているのを気付かないふりをする。

 彼女はアリステアの母親からアリステアは変わり者だと聞かされていた。

 少々頭が可笑しいのだと。

 自分は両親から虐待されているごっこ遊びに酔いしれているのだと。

 だからアリステアを外に出せず、体が弱い事にしていると。

 だがメイドはアリステアと家族が食事を一緒に摂る所を見たことがない。

 外出も買い物もお茶会にも一緒に出かけた姿を見たことがない。

 虐待されるごっこ遊び?

 アリステアにはメイドが付いていない。

 妹や弟には5人のメイドが居るのに。

 ごっこ遊びではなく放置と言う虐待では?

 アリステアには昔乳母がいたが、奥様に抗議して首になったとか。

 お給料もいいこの館を首にはなりたくないので、メイドは黙る事にした。


「バーグ侯爵も来られているの? エイデン様もいらっしゃるの?」


 アリステアは首を傾げる。

【祝福の儀】を執り行うために神官様が来られるのはわかるが。

 バーグ侯爵もやって来るのはどういう事だろう?


「さようでございます。さあお屋敷に戻りましょう」


 アリステアはせかされ、メイドと一緒に館に向かう。


「お父様とお母様は応接室にいらっしゃるの?」


 アリステアはメイドに尋ねる。

 先を歩いていたメイドは。


「旦那様は応接室にいらっしゃいますが。奥様はお子様たちと隣の領地の伯爵家のお茶会に出かけられました」


 いつもの事ねとアリステアは小さくこぼす。

 その声を拾うのはレエンだけだ。

 アリステアは部屋に入るとメイド達の手により、何処に出しても恥ずかしくない侯爵令嬢の姿となる。

 アリステアは鏡の中の自分を見る。

 緑のドレスを着た平凡な顔が今日は綺麗に見えた。

 化粧って凄い‼ それともメイド達の腕が凄いのかしら?


 アリステアはメイドに案内されて応接室に入る。

 応接室には父とバーグ侯爵とエイデン様と神官様がいらっしゃった。

 神官様のお付きは応接室に小さな祭壇を作っていた。

 白いテーブルクロスをかけられた祭壇の上には花と果物が飾られていく。

 中央には女神像が飾られている。

 床には見事な刺繡が施された魔法陣が敷かれた。


 父は相変わらず私を見ると、苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 バーグ侯爵はどこかしら狂気を孕んだ笑顔を向け。

 エイデン様はニコニコと人当たりの良い笑顔を向けてアリステアを安心させる。


「久しぶりだね。アリステア元気だった? 今日はとっても綺麗だよ」


「ありがとうございます。エイデン様もバーグ侯爵もお変わりはありませんか?」


「私も家族も健祥だ」


 バーグ侯爵はそう答えた。

 暫く、バーグ侯爵達と当たり障りのない会話を楽しむ。

 それにしても背の高い神官だとアリステアは思った。

 こちらに背を向け何かを指示している。

 アリステアに背を向けていた神官が不意にこちらを振り向いた。

 神官様を見て、アリステアはぎくりとした。

 高位神官の衣を纏った男。


 その神官様はアルマナの兄のロホだった。

【人形の館】で三人でお茶会をしたことがあるが。

 この人は私の事を覚えているだろうか?

 ロホはアリステアの顔を見て少し驚くが、直ぐに高位神官の厳かな空気を纏う。


「どうかなされましたか? ロホ殿?」


 目ざといバーグ侯爵はロホ神官に尋ねる。


「いや。とても可愛らしい方なので。驚いただけです」


 ロホはアリステアににっこりと微笑む。


「今日アリステア様の【祝福の儀】を執り行うロホ様です」


 お付きの神官見習いがアリステアに告げる。


「アリステア・パイソンです。今日はよろしくお願いします」


 アリステアは淑女の礼をとる。


『やべ~』


 アリステアの頭の上にいるレエンは焦った。


 普通の神官なら、アリステアのスキルを誤魔化せるが。

 レエンは神官達を舐めているところがあった。

 本来の力を発揮することはできなくても。

 並の神官達なら楽勝で誤魔化せると。

 だがこの男。

 高位神官ロホだと‼

 この男は確かにうわべは神官だ。

 だが、レエンは見抜いていた。

 この男はブエナス侯爵家の血を引く魔導師だと‼

 それにこの男はレエンの姿を見る事は出来なくても、レエンの存在に気が付いている節がある。

 レエンは焦った。


「それでは【祝福の儀】を執り行います」


 ロホは床に聖水を撒く。

 聖水は応接室を浄化し、見事な刺繡を施された魔法陣は淡く光る。


「靴を脱いでこの魔法陣の中に入ってください」


 お付きの若い神官はアリステアの手を取り、魔法陣に案内する。


 アリステアは言われるままに靴を脱ぎ。

 魔法陣の中に入る。

 アリステアの額が輝き、ある紋章が浮かび上がる。





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 2020/5/27 『小説家になろう』 どんC

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感想・評価・ブックマーク・誤字報告ありがとうございます。

本当に誤字報告は感謝感謝です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新はいつまででも待ちますので私事を最優先して下さいませ。 何やらヤバそうな奴が出てきたなーと思いながらお待ちしております(笑)
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