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9  アリステア ➇

今回は短めです。

 薬草に水をやり、葉を摘む。

 ヒドドリの葉は心臓の薬になる。

 その横のパパスの根は眼病に効く。

 森に生えている草の種を庭に植たのは2年前だ。

 この近くに生えていない薬草はレエンが何処からか持って来てくれた。

 初めはしょぼかった庭も今では立派な薬草園だ。


「ねぇレエン。レエンは物凄く物知りだけど、どっからその知識を得たの?」


 薬草を育てるようになって、どこでその知識を得たのかと尋ねことがあった。


『昔の友人が教えてくれたんだぜ』


 何故かレエンが目をそらしたような気がした。


『もうずっと昔に死んじまったけどな』


 人間は儚い。

 そう呟いた声はとても悲し気だった。


「ごめんなさい」


『何故謝るんだ?』


「悪い事を聞いたみたいだから、レエンはその人が好きだったの?」


『好きって言うか……哀れに思っていた。自分が望まない状況で必死で頑張って……お人好しは死ぬまで直らなかったな。欲のない人間で、少し人の言葉に振り回される所があったな。もっとも彼女に拒否権は無かったが……』


「その人は幸せな人生を送らなかったの?」


『幸せだったのか、不幸だったのか。俺様が判断する事じゃないな。言ってみれば波乱万丈な人生で。退屈はしなかったと思うぜ』


「私はその人は幸せな人だと思うな。死んでもレエンに覚えてもらえて……」


 私が死んでも、私の家族は私のことを覚えていてくれないかも知れない。

 どちらかと言うと厄介払い出来たと喜びそうだわ。

 そうアリステアは思った。

 私は家族に嫌われている。

 特に母親には蛇蝎のごとく嫌われていて。

 声をかけられたことすら無い。

 そのせいで使用人にも疎まれている。

 たまに朝食を持ってくる下女以外ここには寄り付かない。

 家庭教師のマーチン先生が居る時だけ取り繕う家令やメイド達。

 いつも黒い服を着ているアリステア。

 館に向かう時だけ与えられた服だ。

 生地はいいが、何の飾りも無い。

 アリステアは子供らしいフリルの付いたワンピースも明るい色のドレスも持っていない。

 妹や弟達には与えられる贅沢な服や馬や玩具。


「あなたのお父様には感謝しているのよ」


 何時だったか、マーチン先生がそう言った事があった。


「夫が亡くなって家に返されて、肩身の狭い思いをしていた私になにくれとなく世話をしてくれたの。あなたの家庭教師になってくれと前金まで下さったのよ。あなたのお父様の事をとやかく言う人もいるけれど。あなたのお父様は優しい人よ」


 マーチン先生は優しく微笑んでくれた。


「あなたのお父様はあなたを愛していたのよ」


 それを聞いて涙が出そうなほどうれしかった。


 マーチン先生が話してくれた父親と今の父親との違いに違和感を覚えたが……


 きっと何か訳があるのだろうと、思う事にした。


『おっ‼ 薬が出来上がったな』


 レエンはアリステアが作った薬を覗き込んだ。

 乳鉢の中のどろどろとした緑の物体に精霊の粉を振りかける。


【精霊の粉】


 最初レエンが【精霊の粉】を振りかけるのを見て。


「レエン‼ せっかく作ったお薬にフケをかけるのはやめてよ‼」


 とつい言ってしまった。

 だって、どう見たって白いそれはフケにしか見えなかった。

 もしこれがキラキラとした粉であれば、アリステアもそんな事を言わなかっただろうが。


 やっぱり……フケにしか見えない。


『お前相変わらず失礼なことを考えているだろう』


 レエンはむっとして言う。


「あ……ごめんなさい。やっぱりフケにしか見えないわ」


 アリステアはくすくすと笑う。

 そして【鑑定】で薬の効力を見る。


【『入浴剤』ブリアナ草を使った入浴剤。美肌効果と疲れを取る効果がある。精霊の粉が入っている為効果は倍増である】

 アリステアは洗い布地に四角く縫った袋に『入浴剤』を入れる。

 いつもお茶会に呼んでくれるアルマナにプレゼントするためだ。


「喜んでくださるかしら?」


『あの婆さんに贈るんだろ? 婆さんも孫から贈られたみたいに大喜びだ。寒くなる夜は指の関節が痛むと言っていたからな』


「婆さんなんて呼ばないで。アルマナさんは立派なレディよ」


 レエンはハイハイと答えた。


「もう~~~。でもアルマナさんは本当にどこかしら品があって。私もあんな風に老いて生きたいわ」


 レエンは思った。

 あの婆さんは貴族だ、もしくは貴族の血を引いている。


『おいおい。10歳のアリステアが、自分がおばあちゃんになった時の事を考えているのか?』


 呆れたようにレエンはアリステアを見た。


「あら? 私だって夢はあるわよ。好きな人と結ばれて結婚して赤ちゃんを産んで大勢の孫に囲まれて、いろいろあったけど、幸せだったなと言って女神様の元に召されるの」


『それがアリステアの幸せかい?』


「そうよ。平凡な娘が夢見る当たり前の幸せよ」


『そうなんだ。いや……平凡な幸せ。きっとアリステアはその幸せを手に入れる事が出来るよ。精霊の俺様が保証してやる』


 そう前世では幸せとは言い難い死に方をしたのだから。

 今生こそは幸せになって、誰にも文句を言わせない。

 アリステアの幸せを邪魔する奴は許さない。

 誰であろうと……





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 2020/3/28 『小説家になろう』 どんC

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感想・評価・ブックマーク・誤字報告本当にありがとうございます。

仕事と私用で少し間が開くかもしれません。

気長にお待ちください。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] サブタイトルのナンバリング 10 アリステア⑧ ですね しかし、このナンバリングだと、二桁表記が難しいのでは? [一言] いつも楽しい物語をありがとうございます。 短編で大きな流れ…
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