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第九話 先輩の家と激辛メイド

今日はいつも以上に遅く投稿……どうにかこの流れから脱却したい。


 突然だが、杏里先輩の家は結構な金持ちである。

 そもそも彼女は、ヘルブラッド・ドラゴンという上位ドラゴンの血統だ。そのためか分からないが、元から所有している財産もかなり多い。

 財産をいっぱい持っている竜なんて、どこかで読んだファフニールという竜くらいだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。

 というか、そのことを先輩に話した時には「あんな悪食竜なんぞと一緒にするな」と軽く怒られてしまった。同じ竜にも、好き嫌いが多少あるみたいだ。


 まぁ、それはさておき。

 とにかく、先輩の家はかなり資産をお持ちである。単純な財宝だけではなく、資源なども豊富だ。

 故に、彼女の家もすさまじく大きい。とにかく目立つ。

 普通の住宅地の中に、超巨大な洋風の御屋敷がある風景はシュールの一言である。


 野球ドームと同等か、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 それ程までに大きな屋敷だ。ご近所さんも良く知っている。

 まるで中世のご領主様みたいだわこりゃ。


「相変わらず大きいなぁ……RPGじゃラスボスの城がこんな感じだけど……まぁ住んでるのはラスボスみたいな人だもんな」


 現実逃避もかねて、ふと一人呟く。しかし突っ込む人間もおらず、俺の言葉は闇の中に掻き消えていくのみ。


「ほい、着いたぜ。代金を支払いな兄ちゃん」

「あ、はい。ちょうどで払います」


 ドワーフのドライバーは俺が渡したお金を確かめると、綺麗な営業スマイルをして車のドアを開けた。

 ちなみにこのドア、運転手の許しが無ければ永遠に開くことは無い。特殊な魔術が施されていると聞いたが、俺が知ろうとしたらあまりの情報量に脳が焼き切れそうになった。

 純人間が扱えないような代物を、ただのタクシーに使われているとは。いつか知らぬ間に超弩級の地雷を踏みそうで怖い。


「あ、少し待っててください。運転手さん」

「あん?どうした坊主」

「この人家に帰してから、次は自分を運んでいただきたくて」

「あぁ、そういうことか。なら待っててやるぜ、とっととお嬢ちゃんを置いてきな」


 ドライバーはニヤリと笑い、窓を開けてたばこを吸い始めた。アチラも新しい客を探す手間が省けたんだ、問題は無いだろう。

 俺はすかさず車から降りると、後ろ座席で眠り続けていた先輩を起こして外に連れ出す。


「ほら先輩、家に着きましたよ。早く起きてくださいって!」

「んんー嫌だぁ……まだお前と飲み足りんん……」


 あーダメだ、まだ寝ぼけてるぞこの人。仕方ない、門までまた背負うかな……。

 俺は先輩の肩を担ぎ、ゆっくりと門前にあるベルまで歩いて行った。


 そしてベルをカランと鳴らすと、近くにあるマイクから女性の声が聞こえてきた。


『はい、こちらはヘルブラッドの屋敷になります』

「すいませんカノンさん。杏里先輩を連れてきました……」

『……チッ』


 舌打ちされた、辛い。

 ただ家主の娘さんを送りに来ただけなのに、なんでこんな態度を取られなくてはならないのか。


 盛大に舌打ちをかましてくれた女性。カノンという名前のワイバーンとの獣人だ。

 この屋敷に雇われているメイドさんなんだが……なぜか結構なレベルで嫌われている。

 初めて会ったのはもうかなり前になるのだが、一向に態度が変わる様子が無い。


『今そちらに向かいますので、そこでアホ面下げて待っていなさい』

「えぇ……」

『えぇ、ではありません。お嬢様に傷一つでもあったら、その場で丸焦げにして差し上げますから、そこでお待ちくださりやがれ』


 果てしなく乱暴な言い回しを喰らった後、マイクはぶつりと強引に途切れてしまった。

 はぁ……本当に疲れるなぁ。

 お嬢様を連れてきたってのに、どうしてこうも厳しい態度を取られなくてはならないのか。


「はぁ、せめて普通に話くらいさせて貰えれば――」

「ふん、口をきいてもらえるだけでもありがたいと思いなさい。この半端者が、お嬢様と同じ地を踏むだけでもおこがましい……」


 うぉ、いつの間にここまで来たんだこの人!?

 飛んででも来たのかってくらい速いぞ……あぁ飛べたわこの人も。


 少しだけ開かれた門の間から、金髪を短くまとめたメイド服姿の獣人が出て来る。

 その背後には、黒茶色の立派な翼が見えた。怖い。

 両手を手袋で隠しているけど、きっとその中には異常に発達したカギ爪があるのだろう。少しでも彼女の逆鱗に触れたら、ひとたまりもない。


「わ、わざわざここまで来て下さってありがとうございます。カノンさん」

「……貴方が神聖なご主人様の土地に入ることが嫌なだけです。さ、早くお嬢様をこちらに」


 カノンさんはこちらのお礼を一切聞かず、担がれている杏里先輩を受け取るとすかさず門の中へ入って行く。

 そのまま流れるような動きで門を閉ざされ、ガシャンとカギをかけられた。そこまでされると泣いてしまうんだが?


「貴方の涙など毛ほどの価値もありませんので、出すだけ無駄かと思われますが?」


 なんだってこの屋敷の人は、みんな揃って人の心を読み取れるんだ……。

 一度だけ杏里先輩の御父君にもお会いしたことがあったが、あの人(竜)もコッチが口を開く前に返事をしてきたんだったな。後だしジャンケンとかそういうレベルじゃない。

 他人の心が簡単に読めるんなら、いっそ会話なんて必要ないんじゃなかろうか?


「あれ……」


 そんなこと考えると、ふと目の前から人の気配が消えていることに気付く。いつの間にか、カノンさんは屋敷へ戻ってしまったようだ。


「……」


 門の前で、立ち尽くしているマヌケな純人間が一人。

 つらい、ただただつらい。


「なんでこんな扱いされなきゃならんのだ、チキショウめ……」


 せめてもの悪態をつきながら、俺はタクシーの方へ戻っていく。

 本当なら文句の一つでも言いたい。だが相手は竜種の獣人なんだ、下手に逆らうと倍以上で帰ってくる。

 しかもその相手が、かつて本気で殺気をぶつけられたことがある相手ならなおのことだ。


「はぁ……帰るか」


 歯を思いっきり食いしばりながら、俺はタクシーの中へ入る。

 ドライバーさんは俺の様子に少し違和感を覚えたようだったが、特に気にする様子もなく顔を前の方へ向きなおしていた。職業柄なのか、お客の事情には深入りしないらしい。

 そんなちょっとした気遣いでさえ、今の俺にはいたく響いた。


「ほんで、どこまで送っていくんだい?」

「……とりあえず、駅の方から公園に進む感じでお願いします」

「あいよ」


 ドワーフ特有の渋い声を聞きながら、タクシーは進んで行く。

 曲がる道をその都度言いながら、住宅街を右へ左へ。

 数十分そんな事を続け、何処にでもあるようなこじんまりとした一軒家に、ようやく俺は帰宅した。



ご感想、ご指摘がございましたら、よろしくお願いします。

書いていただけたら、泣いて喜びます。

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