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第三十一話 この面談いるのか?


 用意が完了し、さっそくプレイしてから20分が経過した……。


「ひぃふぅみぃ……ここだ!」

「タダヒトはこのマスに止まったからぁ、『時間遡行に巻き込まれてスタートに戻る』よ!あとプレイヤーがあまりの喪失感に現実から逃避するから、2回休みだわ!」

「えぇ……」


 なんだこのすごろく、クソゲーではないか?

 俺は二人と遊びながら、そんな感想を心の中で呟いた。


 二人はなぜか速攻でゴールしてしまい、今は俺だけがサイコロを振っている。

 非常につらい。


「な、なぁ二人とも、もう一回最初からやらないか?見てるだけじゃつまらないでしょ?」

「ううん、見てて楽しいよ」

「タダヒトの前へ進もうとする必死さと、ゴールに決して辿り着けない事への悲しみがひしひしと伝わってきて、とっても愉悦を感じるわ!」


 え、なんて?

 なんか超越した存在が吐くようなセリフを言ってないか?


「まぁ、2人が良いなら続けるけど……他に振るプレイヤーはいないから、2回休みは無視して良いかな?」

「うんうん、もっと苦しんでよタダヒト!」

「もっとタダヒトの絶望が見たいわ!」


 天使のような顔でド外道な事を仰る。

 まぁ実害はないから問題は無いけど、吸血鬼に言われてるって思うと体が震えた。


 そうは思ってもゲームを中断することはできず、仕方なく俺はサイコロを振った。


「出たのは、4か。えーと4は……『自分のストーカーに恋人を殺され、貴方は監禁されて檻の中で一生を終える。転生するのでスタートから』……」


 うーん、これはクソゲー。

 ていうか、他のマスもこんなのばっかりだし。

 よくこの子達ゴールで来たな、さては何かしらの力を使ったな。

 

「さ、もう一回がんばろタダヒト!」

「私たちが応援しているわ!きっと貴方ならゴールに行けるから!」


 さっきの黒い発言を聞いた後じゃ、2人の応援を素直に受け取れない。

 どうしよう、これじゃどっちにしても面談する元気が無くなってしまうぞ……。




「お邪魔するわね忠人さん。あら、良いわねぇ二人とも。遊んでもらっていたの?」




「ママっ!」

「ママも来たのね!」


 なんとかしてゲームを終えれないものか考えていると、部屋のドアがゆっくりと開かれ、エレナさんが部屋に入ってきた。

 先程の超絶美しい姿ではなく、落ち着いたベージュ色の服と足まで覆うスカートを身に付けている。

 良かった、あの姿をもう一度見たら理性が焼き切れていたかもしれない。


「エレナさん、もうご用意は終わったようですね」

「えぇ、時間をかけちゃってごめんなさいね」

「い、いえいえ問題ありませんとも!」


 そう言って、俺は満面の笑みでエレナさんを迎え入れる。

 この人が来たということは、つまり面談が始まるという事だ。


「先生、ごめんね。お母さんったら隙あらば魅了の香水とか使おうとするんだから……」

「あら、良いじゃない。女って生き物は、何歳でも意中の殿方を欲しがるものよ」

「まぁたそんなこと言ってぇッ!」


 完全に手玉に取られてるな、この子。

 ていうか、この親御さん今とんでもないこと言いやがったな。

 話が変な方向に行ってしまう前に、本題に入らないと。


「あ、あのエレナさん。ひとまずは面談の方をさせていただいても?」

「えぇそうね。忘れそうになっちゃってたわ。ほら、マリィもいい子だから下がってて」

「このッ……!?」


 あぁ、これはエレナさんが悪い。

 散々からかわれた挙句軽くあしらわれてしまったアントワネッタは、怒りの矛先を失いプルプルと震えてしまっている。

 あんまり刺激するべきではないかな。


「では、すぐに部屋の用意をするわ。シトーリャ」

「はい、ご当主様」


 名前を呼ばれたメイドさんは、両手の人差し指を前に出して何やらブツブツと呪文を呟き始めた。

 ていうか、あの人シトーリャさんっていうのか。

 何回聞いても名前を教えてくれないから、もうずっとメイドさんって呼んでたぞ。

 彼女は俺と目を合わせると、ニコリと笑って両手を胸辺りで合わせた。


「忠人さん、貴方は目をつぶっていた方が良いと思うわ、純人間にはちょっとショッキングだと思うから」

「え?」

「先生、言われたとおりにしておいて。最悪目が潰れて心が壊れちゃうから」

「えぇ?」


 よく分からないが、とにかく俺の身では余りある何かが起きることは分かった。

 そうとわかった俺の行動は速い。俺は即座に目を閉じると、ついでに耳を塞いで顔を思いっきり顰めた。

 顔を顰める意味は無いと思うが、まぁそこは気分だ。


「……」


 直後、ヒュウと風が頬を撫でた。

 次いで浮遊感。落下したり上昇したり様々な感覚が襲ってくる。

 一体俺の身に何が起こっているのか。


 数秒経った後、地に足が着く感覚が戻ってきたと思うと、右腕をちょいちょいとつつかれた。


「……」


 おそらく、エレナさんが行った魔法が終了したのだろう。

 俺はおそるおそる目を開け、周囲を確認する。


 相変わらず蝋燭の明かりしかない薄暗い部屋。

 そこには、見た事無い輝きを放つ鉱物で作られたであろう机と、見るからにふっかふかで気持ちよさそうなソファが三つ。机を挟んで一つと二つで置かれていた。恐らく、もう一方に座れということだろう。


 エレナさんとアントワネッタは二つ並んでいる方のソファにそれぞれ座り、後ろの方にはメイドさん……シトーリャさんが立っている。

 辺りを見ると、先程までいたリョー君たちがいない。さっきの部屋に置いてきたのか、別の部屋に転移させたのだろう。

 そしていつの間にか、俺の鞄に入っている筈の書類がエレナさんの手元にあり、アントワネッタと一緒に成績表を見ていた。


 ……あれ、俺をつついたのって誰?


「きゅるきゅる」


 あぁ、君だったのか貴婦人さん。ありがとね。

 感謝も込めて扉から出ている腕を優しく撫でると、指先がわちゃわちゃと動き出した。

 きっと喜んでいるのだろう。喜んでるよね?


 まぁ、何にせよありがとう。

 さ、いい子だから扉の奥に帰ってね。


「あら先生、ようやく意識が戻ったのね。とりあえず最低限見たい書類は見終えたから、今からゆぅっくりとお話しましょう」

「うぅ……数学の成績が落ちてた。私、そんなにテストの成績悪かったの?」


 エレナさんは心底楽しそうにニコニコと、アントワネッタは少々残念そうな顔で俺の方を見てきた。


 とりあえず、話そうと思っていた内容の半分は潰されてしまったのだがどうしたものだろう。

 まぁこのまま突っ立っていても仕方ない。

 俺は軽く覚悟を決め、用意して下さったソファに座り二人と対峙した。


 ちなみに、座った瞬間俺の近くに紅茶入りのカップが突如出現したのだが、俺は真顔のまま特に何も考えなかった。

 考えたら負け。つまりはそういうことだ。


ご感想、ご指摘がございましたら、よろしくお願いします。

書いていただけたら、泣いて喜びます。

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