落語 題はバカ貝です。
バカ貝とは千葉県木更津市の青柳で水揚げされた事から
寿司ネタの青柳と呼ばれています。バカ貝と青柳のどちらの
呼び名が正しいかは分かりません。
短い落語なので数分間笑ってください。
演目 バカ貝
毎度バカバカしいお笑いを一席お付き合い願います。
よく世の中では“バカ”と言う言葉を耳にしますが、あいつはバカだな~とか、よくあんなバカが東大に入れたな?とか、大体は人の悪口に使われる言葉でございます。
逆に、あいつはバカみたいに強いとか、この料理バカうまなどと、長所を強調する意味にも使われたりするので、バカの意味は奥深くて一概にはバカに出来ないものがあるようですな。
よく高級なすし屋には水槽が置いてあって、中には元気な魚や貝がたくさん泳いでおります。 鯛に平目 アワビにサザエと、実に美味そうな魚や貝類に目移りしてしまいますが・・・ 客がどれにしようかじぃっと水槽の中をみていますってぇーと、丸々と肥えたとらふぐがやってきてこちらをじぃっと睨み返しております。 「なんだよ! ふぐじゃあないか? アタシはふぐに睨まれる覚えはありませんよ! え? なになに? 俺を喰ったらふぐ毒に当たってあの世行きになるってぃのかい? そんなこたあ分かってるよ その為にふぐ専門の調理師が捌いてくれるんだ。 こうやって網ですくってまな板の上にのせるだろ そしたら首筋に大きな出刃包丁をあてて一気に切り落とす でも全部切り落としちゃぁいけねぇよ 喉もとの皮一枚で止めてそのまま頭を引っ張れば毒のある内蔵も一緒にずるずる~と取れるって寸法よ あっ!? なんかいけない事を言ったかい? おまえさん涙目になってるじゃないか? なに? 水の中だからいつも涙目だって? ん、そうかそうか ならいいんだが、でも安心しな! アタシはふぐ刺しを喰えるほどお金持ちじゃないからね」 それからその客は他の魚を物色していますてぇと、鯵と目が合い 鯖とも目が合ってどうも注文しづらい。 そこで目をつけたのが貝でして、貝なら目がないから目を合わせようがありません。 「大将、バカ貝握ってくれ」客は水槽を覗きながら注文しておりますと、「バカとは誰のことだ?」なにやら水槽の中から声が聞こえてまいります。客はきょろきょろして声の主を探したけれど見つかりません。気のせいかと思って注文したバカ貝の握りが来るのを待っていたところ「おい! 今注文したバカ貝を早く取り消せ。もたもたしていると店の小僧がオイラをすくいに来るじゃないか」 流石に客もこの超常現象は自分の想像の声とは違う事を感じて無視する事もできず、水槽の中のバカ貝をじっと見つめていたら「そうだよ!俺だ、俺が言ったんだ」 「お前さん、貝だろ? 貝がしゃべれるのカイ?」 「駄洒落言ってんじゃねえよ! 早く注文を取り消せよ。ほらもう小僧が網を持ってこっちに来るじゃないか」 「バカ貝のくせして随分上から目線だね?」 「いやいや、これはすまなかった 訳は後から説明するから取り合えず今のご注文を取り消しては頂けないでしょうか?」 「最初からそう言えばいいんだよ でも何か訳ありのようですからとりあえず取り消しましょう。お~い 大将、バカ貝は取り消しでお願い!」 「ありがとョ 助かったぜ」 「でもお前さんは俺が喰わなくても、何れ誰かに喰われてしまうだろ?」 「いやそれがなかなかでしてね。いつもこうやって延命作戦をやっているんだが、もうこの手でかれこれ1年は生きているかな~」 「ほう、バカ貝の割には頭がいいんだね?」 「またバカ貝と言ったな!? オイラのどこがバカだと言うんだ!」 「ほら、貝殻の隙間からだらしなくベロ~ンと出したべろを見れば誰でもバカに見えるだろう?」 「これは足だ! 体から足を出して何が悪い。お前だって出しているじゃないか? しかも短いのが2本も!」 「短くて悪うござんしたね! でもアタシのはお前さんのようにべろ~んとはなっていないし、歩く事も走る事も出来るし、飛んだり蹴ったりすることも出来るぜ! お前さんにそんな器用なことはできないだろう?」 「へへ・・・ 旦那、どうやら誤解をされているようですが、アッシの足は敵が来たら穴を掘って隠れる事も出来るし、泳いでにげる事も出来るんですぜ! それだけではありませんよ この足を使って餌も探せれば婚活だってできますよ! 旦那のその短い足よりはずぅ~っと高機能なんでさ」 「ふ~ん、そうかい そんなに高機能な足なら是非食べてみたいねぇ その他の部分は残してあげるよ」 「この足はあそこで泳いでいるとらふぐ野郎に一度食われそうになったんですから、もうカンベンしてくださいな それより今だにアッシの貝殻が薄くてデリケートなのをいいことにいつまでも狙ってくるあのとらふぐから先に喰ってもらう訳にはいきませんかネェ?」 「あいつとはさっき面談して喰わない事にしたばかりだからダメだね」 「では旦那 あちらの鯛なんかはどうでしょう。 今朝とれたての新鮮なやつですよ あいつにもさっき狙われたばかりでさぁ・・・」 「そりゃあ水槽の中を泳いでいるのだから新鮮に決まってるだろう それに自分の天敵ばかりを勧めてない? だいいち鯛を一匹さばいてもらったら幾らすると思うんだ それに今日は目のついた魚は喰わないと決めたんだよ 貝には目がついてないから貝にしておくれ」 「流石は旦那だ! 貝には目が無いから貝が喰いたいなんて“美味い”事言いますね~ アッシら凡人に真似できる事ではありませんよ 座布団一枚差し上げるので今日のところはこのままお引取り願えませんか?」 「なんですし屋に来て何も食わずに帰らなきゃならないんだよ! 俺はねェ、お前さんのような安くて美味い貝を喰いたいんだよ」 「そうですかぁ、困りましたねぇ~ それじゃこうしましょ。隣にあるアッシに似ているやつでどうですか?」 「ハマグリじゃないか。ダメダメ、これは焼き物かお吸い物位しかならないだろ! 俺は貝の握りが喰いたいの!!」 「よし! ここは大奮発してあのアワビでいきましょう」 「お前さんが大奮発してどうすんだよ! アワビなんて高くて喰えないよ」 「折角アッシが奢ってあげようとしたのに・・・冗談ですけど ではサザエはどうです?」 「サザエもダメ!」 「ホタテは?」 「ホタテは嫌い!」 「赤貝?」 「嫌だ!」 「青柳?」 「青柳? むふふ( ´艸`) 本当に青柳でいいのね? よし、それで手を打った!」
お後がよろしいようで・・・