1 負け犬の掃き溜め1
おはこんばんちわ。
まあ、読んでってください。
カーテンが閉められ、真っ暗な室内で唯一の光源は、一人の少年の眼前にあるPCからのものだった。
髪を肩まで伸ばし、肩幅の明らかに合っていないダボダボのTシャツ、七分丈のズボン、ただでさえ白い肌は光に照らされて病的な危うさを感じさせる。
切れ長の目は画面のエネミーを凝視し、彼の癖なのだろうか、焦りからきているのか右足で床をトントンと叩いている。
デスクに積まれているカップラーメンの残骸は彼の引きこもりがいかほどのものであるかを物語っていた。
そして今、最後の標的を撃ち落とし少年の勝利が決定した。
「っしゃオラ見てみろ雑魚ども!!!てめえらがいくらあがこうが俺の前には等しくゴミ屑なんだよタコが!!!」
少年は勢いよく立ち上がり両手の拳をあげ口汚く叫んだ。もちろん周りには誰もいない。
勝利を称えるもの、妬みから罵るものとチャットは混在している。
落ち着いたのか、少年は椅子に座り自分のゲーム内グループのチャットを開いた。
ーやはりかー
ーこれで99連ですかーさすがギルマス、スキがないー
ー相手めっちゃオコだったじゃんマジウケるwwwwwwー
・・・
そう、これでいい。これでいいんだ。
この中ならだれも僕の邪魔はできない。邪魔などさせない。
僕は世界最強ギルドのマスターなのだから。
あんなクソみたいな現実とは違うのだから。
過去など思い出してはいけない。深みにはまって死にたくなる。
そんなことを思いながら画面に意識を向けるとまだグループチャットは盛り上がっていた。
そこで誰かが言い放った。
ー私、一回でいいからギルマスに会いたいなあー
は?
ーそれ!どんなプレイしてんのか見てみたい!ー
おいやめろ
ー気になるーー
何を言ってるんだお前らは。
ーおい。その話は禁止のはずだろー
ウチのギルドの決まり、「オフ会、私生活の話題は固く禁ず」。
ーでも。プレイから見るに絶対ギルマスって頭良さそうじゃないですかー
理由になってない!
ー1回だけ!ほんとに1回だけやりましょうよーオフ会!ー
これはまずい流れになってきた。どうにか鎮めねば。
ーダメだ。だいたい1回やったらもうルールの意味なくなるだろー
ーえーやりたいなあーー
ーオフ会!オフ会!オフ会!ー
抵抗むなしく盛り上がりは加速しまくっている。鎮火は難しそうだ。
ていうかイン率たかくね?いまお昼だよ?平日の。
いや、あきらめない。僕は最後まで抗う!
ーいや、あれだ、俺アメリカ住みなんだよー
これは苦しい!なんかみんな急に黙っちゃったし。
バレてるなーミスっちゃったなー
ー・・・。ー
ー・・・。ー
ー・・・。ー
画面の向こうからみんなの圧力を感じる。
ー分かった。やるよ。やりますー
ーやったー!!!ー
かくして彼、輝間 涼太{てるま りょうた}はおよそ半年ぶりに外出を試みるのであった。
読んでくれてありがとうございます。