あの夏の日~夜色と硝子色~
中一の時に初めて書いた短編小説もどきです。
お気に入りの小説が読みたいとのリクを受け、
初めてあげてみることにしました。
僕の瞳は、右と左で色が違う。
右の目は紺色で、左の目は、色がない。
周りの人の反応は様々で、綺麗だねと言ってくれる人もいれば
気味が悪いと避ける人もいる。
僕は小学二年の頃まで、この目のことが嫌いだった。
幼いながらに、周りの人の視線が痛かったからだ。
でも、こんな僕の目を、夜色と硝子色と
表現してくれた少女がいた。
森の中でしか会えない、不思議な女の子だった。
夜色と硝子色。
この言葉のおかげで自分のこのオッドアイを好きになった。
僕が小学二年の頃の夏休みの話だ。
学校が休みの日は、僕はよく家の裏の山に遊びに行った。
セミがジジジッとびっくりして飛んでいく。
夏の森の中は緑色がきれいで、少しだけ涼しい。
小鳥が木の陰で「疲れたね」って言いながら休んでいたり、
ヘビが「ちょっとごめんよ」って言いながら前を通ったり、
猫の兄弟が鬼ごっこしてたり。
森の中は色んな声で溢れていて楽しかった。
だから、僕は森の中で遊ぶのが大好きだった。
あの日もまたいつものように森で遊んでいると、
「ねぇ、ノアくん。遊ぼうよ」
名前を呼ばれて振り返ると、当時の僕と同じ歳くらいの
髪を二つに結った女の子が立っていた。
「どうしてぼくの名前を知ってるの?」
「わたしは何でも知ってるんだよ。ノアくんの誕生日も、
小さい妹がいることも、森とお話できることも。」
「えー!何で知ってるの?」
「それはナイショ。」
「そっかー……。ねえ、君の名前はなんて言うの?」
「わたし?わたしの名前は、アイラだよ。」
「アイラちゃんって言うんだね!よろしく!」
「ノアくん。わたしとここで会ったことは、
誰にもいわないで。」
「どうして?」
「ノアくんが喋っちゃうと、
わたし、ここにいられなくなっちゃうの」
「そうなの?みんなに紹介したかったんだけどなぁ…
でも、せっかく友達になれたのに、すぐお別れは嫌だから、
みんなにはナイショにするね!」
「ありがとう!」
今になってみれば明らかに怪しいし、おかしいわけだけど、
当時の僕は全く気にもとめず、二人で森の中を駆け巡った。
アイラちゃんと会ってから、僕は毎日森に遊びに行った。
鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、木登りをしたり。
色んなことをして遊んだ。
「もういいかーい」
「まぁだだよー」
「いーち、にーい、さーん、よーん…………もういいかーい」
「もういいよー!」
アイラちゃんはかくれんぼが強かった。
僕が鬼になるといつも見つけられない。
森に聞いても、「それじゃあズルになっちゃうよ。」
と言われて、教えてはくれない。
「アイラちゃんわかんないよー!どこー?」
「…………ばあっ!!」
「わぁっ!!」
「びっくりした?」
「アイラちゃんこわいよー」
「ごめーん」
「「………あははははwww」」
こんな調子で、大笑いしながら夏の長い昼間を過ごしていた。
でもある時、僕には一つ気になったことがあった。
「ねぇ、アイラちゃんは、ぼくの目、こわくないの?」
「こわくないよ。だって、ノアくんの目は
夜色と硝子色だもん。ふたつ色があってきれいだと思う。」
夜色と硝子色。
そう言われるととても綺麗な色に思えた。
「そっか、夜色と硝子色かぁ。
そうやって言うと、きれいかも。」
「ノアくんは嫌いなの?」
「あんまり好きじゃない。みんなに見られるから。」
「きれいだからだよ、きっと。」
「そうなのかなぁ……」
「きっとそうだよー」
本当にそうなのかはわからなかったけれど、
でも、色がないと言うよりは、硝子色って言うと
とても綺麗な色な気がして、僕は好きだった。
その後、僕とアイラちゃんは
何回か鬼ごっこをしてから家に帰った。
晴れの日も雨の日も、僕たちはいつものように森で会い、
鬼ごっこをして斜面を駆け抜けたり、
木登りをして景色を眺めたり、
雨に降られて、大きな木の下で雨宿りをしたり。
色んなことがあって、一日一日が本当に楽しかった。
楽しい時間ほど早く過ぎていってしまうというのは本当で、
あっという間に夏休み最後の日になってしまった。
「ねぇ、ノアくん。」
「なぁに?」
「わたしね、もうすぐ遠くに行かなきゃいけないんだ。」
「え?なんで?」
「夏休みが終わっちゃうから。
終わったら遠くに行かなきゃいけないの」
「そう、なんだ………。でも、きっとまた会えるよね?」
「………ううん。会えない。もう、会えないと思う。」
「どうして?!遠くに行っても、
もしかしたら会えるかもしれないよ!」
「ううん。ごめんね。だから、今日はいっぱい遊ぼうよ。
今まで遊んだ分くらい、いっぱい!」
「………うん。そうだね!いっぱい遊ぼう!!」
この日は疲れて動けなくなるくらいまで遊んだ。
今までのように、鬼ごっこ、かくれんぼ、木登り。
二人なのに、だるまさんがころんだ。
今までの分を超えるくらいに、たくさん笑って過ごした。
そして、あっという間に蜩が夕暮れを
告げる時間になってしまった。
「終わっちゃったね、夏休み。」
「うん。」
「でも、楽しかったよ、ぼく。アイラちゃんと遊べて。」
「そっか。わたしも、ノアくんと遊べて楽しかった。」
「きっと会えるよ。また、遊ぼう。」
「…………うん。そうだね。」
「ゼッタイ、また遊ぼうね、アイラちゃん!」
「うん。また。」
僕はそう言って家まで走って帰った。
翌日。
森に行っても、アイラちゃんはもう居なかった。
それどころか、聞こえていた森の声も聞こえなくなっていた。
「ねぇ、森さん。おしゃべりしようよ。」
……………………
返事はない。
アイラちゃんとの待ち合わせ場所には
昨日までは無かったはずの、綺麗な赤い花が咲いていた。
僕はその花を一つ折って、家に持って帰った。
「あらどうしたのその花。凌霄花じゃない。」
「凌霄花っていうの?このお花」
「そうよ。どこから取ってきたの?」
「裏の森だよ。裏の森の、アイラちゃんと
待ち合わせしてたところに………あっ。」
「………アイラちゃん?」
ついうっかり口を滑らせてしまった僕に、母が訊ねてきた。
「その女の子、どんな子だった?」
「髪の毛二つに結んでて、ピンクのTシャツ着てた」
「…………そっか。アイラに会ったのね。」
「アイラちゃんのこと知ってるの?」
「知ってるわよ。アイラも、ママの娘だもの。」
「じゃあなんでここにいないの?」
「アイラはね、ノアが一歳の時に森の奥の湖で
溺れて亡くなったの。だからノアにも、
森には行かないでって言ってたのよ。」
「え、アイラちゃんって………」
「ノアのお姉ちゃんよ。
アイラも、大きくなったノアと遊びたかったのね。」
「じゃあ、遠くに行くから会えないっていうのは、
天国に帰るから?」
「そうかもしれない。ノアと遊びたくて、
降りて来ちゃったのかも。」
「アイラちゃんね、ぼくが森とおしゃべりできること
知ってたの。 それでね、ぼくの誕生日とかも知っててね……」
この後、夏休みにアイラちゃんとした事をひたすらに
喋っていたような気がする。
今にしてみれば少しゾッとする出来事だけれど、
でも、姉の言葉で僕は嫌いだった自分のこの目を
好きになることができたわけで。
あのひと夏の出来事は、きっと一生忘れることは出来ない。
それくらいに楽しい夏だった。
「ありがとう。お姉ちゃん。」
夏の夜空に小さく呟いた。
夜色と硝子色の瞳で見る世界は、
今日も少しだけ輝いて見える。
―――――――「私も楽しかったよ。ありがとう、ノア。」
お付き合い頂きまして有難うございます。
おかしな点、多々あると思います。
中一の私は一体何を考えて書いたのやら……。
私にもわかりませんでした^^;