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29歳から始める学園ダンジョン生活

作者: 遠野九重

思いついたので書かずにいられなかったんです……

 クビ同然の海外出張を耐え忍び、なんとか日本に戻ってきたのが数日前のこと。

 荷解きやら何やらを終えて一息ついた矢先、姪っ子から電話がかかってくる。

 曰く、高校を早退するので迎えに来てほしい、とのこと。

 父親 (俺の兄貴でもある) も母親 (俺の従妹でもある) も連絡がつかず、姪はすっかり困り果てていた。


「わかった。昼頃には着くからおとなしく寝てろよ」

『ごめんね。コウジおじさん、帰ってきたばっかりなのに』

「おじさん言うな」


 俺はまだ29歳だ。

 あと1ヶ月で三十路の仲間入りだが、まだ「おにいさん」で通じると信じたい。

 私服から背広に着替える。

 いい年したオトナが昼間っからTシャツにジーンズってのも格好がつかないしな。

 自宅のマンションを出て、車に乗り込む。トヨタのSAI。

 助手席には見慣れない黒革の鞄が置きっぱなしになっていた。

 昨日、馴染みの古物商から「凱旋帰国の祝い」として渡されたものだ。

 鞄の中には円筒形の物体が入っている。

 いわゆる小刀というもので、鞘と握りは高級そうな白木でできている。

 古物商曰く「お守り」らしいが、銃刀法的に大丈夫だろうか。


 そんなことを考えながら運転するうち、俺は姪の高校に辿り着いていた。

 学校法人祢野(ねの)堅栖(かたす)学園。

 中高一貫の私立校であり、俺の母校でもある。


 卒業から10年以上が経った代わらないその姿に、ふと懐かしさを覚える。

 来客用の駐車場に車を停め、久しぶりに校門をくぐる。


「……あれ」


 堅栖学園は私立だけあってセキュリティにも力を入れている。

 日中は校門横の詰め所に警備員が常駐している……はずだが、なぜか姿は見られなかった。


「見回りにでも行ってるのか?」


 五分ほど待ってみるが、いっこうに人が来る様子はない。

 ふと、電話口での姪を思い出す。

 熱があるらしく、その声はかなり辛そうだった。

 ……よし。

 ここでジッとしていても埒が明かない。

 来客名簿に名前と携帯電話の番号を書き記し、校舎へと入っていく。


「今日って、平日だよな」


 奇妙な雰囲気だった。

 まるで休日の学校のようにガランとしている。

 今は12時ちょっと前で、時間割が大きく変わっていないなら4時間目の真っ最中だ。

 それなのに運動場に生徒の姿はなく、体育館からも掛け声ひとつ聞こえてこない。

 堅栖学園高等部は1学年ごとに12クラスあり、総生徒数は1000を越えるマンモス校だ。

 どこのクラスも体育をやっていない時間帯など存在するのだろうか?

 

 奇妙な違和感を覚えつつ来客用のスリッパに履き替える。

 そのタイミングで、スマートフォンが「ピリリリロン♪」と聞き慣れない音を立てた。

 背広のポケットから取り出してみれば、


『I×f (ver.sub-GM)

 S T A R T』


 画面にはそんな文字列がデカデカと表示されている。

 なんだこりゃ。

 新手のウイルスか?

 俺が首をかしげた矢先、

 

「……うわっ!?」


 地震が起こった。

 とても立っていられないほどの振動。

 バランスを崩してすっ転んだところに、グラリと靴箱が倒れ込んでくる。

 やばい。

 俺は思わず目を閉じた。


 全身をぺちゃんこにされてしまう……かと思いきや、いつまでたってもその瞬間はやってこない。

 やがて揺れが収まる。

 おそるおそる目を開けると、


「なんだ、こりゃ……」


 周囲の風景は一変していた。

 白い壁とリノリウムの床がまっすぐに伸びている。

 長い長い廊下。

 左右には窓もドアもない。

 振り返れば、そこもやはり、のっぺりとした無機質な壁。

 不気味な空間だ。


「……夢、じゃなさそうだな」


 ほっぺたをつねってみる。

 痛かった。

 とりあえずスマートフォンを取り出してみるが、電波は圏外。

 画面は相変わらず『I×f』なる文字列のまま。

 

 学校でIでfとか聞くと、俺の年代的にはSFCのゲームを思い出す。

 怠惰界はマジ辛かったし、宝箱の取りすぎでチェフェイはほんと地獄だった。

 分からない人は「学校 if 魔神皇」で検索をどうぞ。


「今の高校生って、どんなRPGやってるんだ?」


 テイルズ、FF、ドラクエあたりが鉄板か。

 あるいは家庭用ゲームなんかスルーしてソシャゲなのかもしれない。

 現実逃避ぎみにそんなことを考えてみるが、残念ながら状況に変化なし。

 

「……とりあえず進んでみるか」


 何が起こるかは、まあ、出たとこ勝負だ。

 南米のアマゾン支社に赴任させられ、原住民にスマートフォンを売りつける簡単なお仕事をこなした俺に怖いものはない。

 簡単じゃねーよチクショウ。

 あいつら未だに石器時代の暮らしをしてて、ターザンみたいな三次元機動で襲い掛かってくるからな。

 同じアマゾンでもインターネットとはえらい違いだ。

 

 ――ピリリリロン♪


 再びスマートフォンが鳴った。

 見れば画面は別のものに切り替わっている。


『“29歳アマゾン帰り VS 18歳オーク(♂) ~胸に降り注ぐのは血か汁か~” が開始されます。

 投票締め切りまで300秒です。

 現状のオッズ 

  アマゾン帰り 20.5倍

  オーク     1.5倍』

 

 は?

 あまりに意味不明の内容を目にし、一瞬、思考が停止する。

 “29歳アマゾン帰り”の下には俺の顔写真が貼られていた。

 “18歳オーク(♂)”の写真はというと、まるまると肥えた身体に豚頭が乗っている。

 ファンタジー系の創作物に出てくるオークそのものの姿だ。

 これ、仮装か?

 にしてはリアルすぎるというかなんというか。

 おっと。

 指が滑って、オークの写真をタップしてしまう。

 すると今度は別の画面に変わった。




[名前] とかつん

[種族]  オーク

[年齢]  18歳

[性別]    男

[ステータス]

  攻撃力 24

  防御力 15

  素早さ  7

  魔力   6

  精神力 10

  運    3


 ※ この数値は予想師4名による評価であり、絶対的なものではありません。


[コメント]

 A:とかつんの勝ちでしょコレ。

 B:オーク種は「己が強いオスであること」を示すため、他種族のオスを辱める習性があります。

   そのために番狂わせが起こる可能性も否定できません。

 C:29歳が小刀をうまく使えばワンチャンあるで! ボロ儲けや!

 D:「攻撃力×5+防御力×4+素早さ×2+魔力×3+精神力+運/2」ではオークが絶対的に有利。

   今回の試合も僕の計算式の正しさを示すことになるでしょう。





 ステータスに、予想師。


「まるで競馬新聞だな……」


 思わずそんな言葉が漏れる。

 さっきからわけのわからないことだらけだ。

 

 ただ。

 非現実的な思考をアリとするなら、無理に説明をつけることができる。

 

 ――俺は異世界に転移させられて、ローマの剣闘士みたいに猛獣(モンスター)と試合をさせられる。


 ゲーム脳きわまりない推測だ。

 本来なら馬鹿馬鹿しいと切り捨てるべきだろうが、そう間違っていないように感じられた。

 なぜかといえば、遠くから唸り声が聞こえてくる。

 ブシュルルルル、と。

 廊下の先。

 曲がり角からヌウッと巨体が姿を表した。

 

 脂ぎった肥満体に、豚そっくりの顔。

 写真そのままの、オーク。


「写メしてtwitterにあげたら10000RT行くかな」

 

 冷や汗が背筋を滑り落ちた。

 オークは眼光鋭くこちらを睨みつけている。

 殺気を感じる。

 アマゾンの先住民たちに出会った時と同じ空気だ。

 

 こういう時、下手に逃げようとすれば背後からやられる。

 身構えて視線をカチ合わせる。

 それからジリジリと後退を試みた、が、


ブモォ(兄ィちゃん)ォォォ(ええカラダ)ォォォォ(しとるのォ)()


 オークは巨体に似合わぬ素早さで突進を仕掛けてくる。

 対応しきれない。

 真正面から弾き飛ばされる。

 

「うわっ!?」


 ろくに受け身もとれず、したたかに尻を打ち付けた。

 俺が痛みにもんどりうつ中、


ビヒ(さあ)ィィィィィィ(ショウタイムやで)()


 歓喜の雄叫びをあげながらオークが腕を振りかぶる。

 殴られる!

 俺はとっさに顔をガードしたが、起こったのは予想外の展開。

 オークはこちらの下半身に手を伸ばしたかと思うと、こちらのズボンを革のベルトごとき裂いたのだ。


 頭をよぎるのは、さっき目にした一文。

 

 ――オーク種は「己が強いオスであること」を示すため、他種族のオスを辱める習性があります。

 ――他種族のオスを辱める習性があります。


 おいちょっと待て。

 オークってのはこう、女騎士とかそういうのに乱暴するキャラだろ。

 非生産的なことはいますぐやめろ、いやほんとマジで。


「くっ……」


 このままじゃホントにヤバい。

 こんな意味不明の存在に掘削 (婉曲表現) された挙句に死ぬとか勘弁してほしい。

 けれど膂力が違い過ぎて……待てよ。

 頭をよぎったのは、別の一文。


 ――29歳が小刀をうまく使えばワンチャンあるで!


 見れば背広のポケットから白木の鞘が覗いていた。

 車に置いてきたはずなのにどうしてここにあるのだろう。

 まあいい。

 チャンスがあるなら、たとえ藁でも掴んでやる。

 せっかくアマゾンから生きて帰ったんだ。

 死んで、たまるか。

 

 オークはこのとき、自分の腰に巻いた布をほどいていた。

 そのなかに仕舞われているモノを出すよりも早く、俺は、小刀を鞘から抜いている。

 

「らあああああああああああっ!」


 無我夢中だった。

 飛びつくようにして、その太腿に刃を突き立てる。

 そのまま二度三度と突き刺そうとして、


「あれ……?」


 不思議なことが起こった。

 首を切ったわけでも、心臓を貫いたわけでもない。

 足に傷を負わせただけだというのに、


グゥゥゥ(なん……)モォォォォ(だと)ォォォ(……)!」


 苦悶の叫びをあげた。

 刺した場所からは青い血が流れ、そこを中心として、竜を象ったような紋章が浮かぶ。

 そして、


ヴバ(おれは貴様に)ァァァァ(敗れたのではない)ァァ(その小刀の)ァァァァァ(おかげということを)ァッ(忘れるな)()


 消えていく。

 その巨躯がだんだんと銀色の粒子に変わり、雨散霧消する。


「……やった」


 死体は残っていない。

 現実感の欠けた死にざまのせいだろうか、「殺した」という認識はあまりない。

 ゲームで敵を倒した時のような達成感。

 それとともに、


 ――ピリリリロロン♪


 またもスマートフォンが震える。


『レベルアップしました! ステータス管理アプリを開いて、能力値ボーナスの分配とスキルの取得を行ってください!』


Q.オチは? ヤマは?

A.そこまで書いてると連載中の「現代も案外ファンタジーだったので(ry」の更新に支障がでるので、ひとまずここで切ります。とりあえず頭の中にあるものを出してスッキリしたかったんです、許して。


Q.ヒロインは?

A.たぶんここからピンチを救ってハーレムめいたことになるのではないかと思います。


Q.I×fって……

A.ヒノカグツチを取るまでガーディアンを付けないプレイはきつかったです(ぬるプレイヤー感)

  なんかそのうち、それっぽい英単語を当てます。


Q.アマゾン?

A.amazonプライムでやってるアマゾンズおもしろかったです(小並感)


Q.ローファンタジーなの?

A.正直、カテゴリ分けに迷ってるのでご意見くだされば幸い。でも連載しなかったらごめん。

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[一言] 面白かったです。続き、希望します!
[良い点] 今日読みました。面白かったです。いつか続きが読めるといいなって思います
[良い点] なんだこりゃw [気になる点] 卒業から10年以上が【[経った代わらない]→[経っても変わらない]】その姿に、 [一言] 兄貴、従妹と結婚したのか……爆ぜろ
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