出来るようになるまで
翌日、私は剣を握った。先生に頼んで昨日の続きをやらせてもらうことになったのだ。
お風呂を上がったらリオンが教えてくれた方法を試そうと思ったからだ。
先生の魔術で作った雹は足にあたったり手にあたったり額にもぶつかり。先生はきまったところに放つことなく不規則にうつ。
この選んで切ってゆく訓練は、対象の物を見極める洞察力を鍛えるのと、時間差があるときの対処も兼ねた訓練だ。剣を振るう速度も格段に上がる。
これの応用は、相手の攻撃を受け流し、引いて待つことやあえて斬らずに避けることにあたる。
——リベリア、お前は目に頼りすぎなんだよ。
目だけではなく、耳や体も使え。音と風圧を感じろということだろう。
先生は簡単にいうが、結構難しいことでもある。
——目ぇ閉じて感じてみろ
リオンに言われたように目を閉じると、脇に風切り音が通った。視力に頼らず、空気を切る音、物が動いた時の風圧、そして投げるときに放たれる闘気。
「いくぞ」
先生の指が動く気配。風が乱れる。後ろで何かが砕ける音。何回か続けるとわかったような気がして私は目を開いた。突然明るくなった光に目を慣らしながら剣を構える。
———物体を見るのではなく、物体の通る軌道を予測する。
先生がもう一度雹を生み出して発射する。感覚が鋭くなったのが自分でもわかる。緩やかな点が徐々に近づいてくる。通った軌道が線の様に目で追える。
———わかる。
剣を全体で振るのではなく、切っ先で振る。
キンッ、と鳴った。
「あっ・・・・・・」
中心から綺麗に二つに分かれた雹が地面に転がった。切断された面は透き通っていてとても美しい。
「リベリア嬢」
はっ、と先生の方をみる。フロムは口角を上げて一言。
「よくやった」
***
一旦出来るようになると、リベリアの上達は恐ろしく早い。
雨の粒を斬る。
三枚同時に葉の中心を貫く。
飛んできた岩を薙ぐ。
斬る、突く、薙ぐ、の三つは剣の動きや風の抵抗力なども全然違う。
だが、気配でタイミングを計り、風圧で速度を計算し、音で軌道を読む。それが出来るようになったリベリアは、相手がどういう動きでくるかわかるようになった。自分の剣の動きを把握し、どういう結果を導くか手に取るようにわかる。
先生曰く、一種の極地に至っているらしい。
「リベリア嬢は力で決着をつけるより、剣の冴えで勝利を導く技巧派じゃな。そうそうなれるものではない。誇っていいぞ」
相手の力を受け流し、突き穿つ。それが彼女のスタイルになった。そこに魔術をつけ足せば、リベリアに比肩できるものはそうそういないとフロムは考えていた。絶対に言わなかったが。
「剣の方は上出来だし、魔術の方も完璧じゃ。巣立っても良い年頃‼ だから、リベリア嬢のよく使う魔術を簡略化させていこうと思うんじゃ」
「魔術の簡略化ですか? 魔法陣がその最たるものではないのですか?」
「あれは、魔術では自動的にでる。そこらへんは後程詳しく説明するが。儂の言っている術式の簡略化は疑似神経である術式神経に刻み込んで発動させること。その術式神経に刻み込んだ魔術を登録した動作をすれば、そこに魔素が流れて一瞬で構築されるという仕組みじゃ」
術式回路は魔素を取り込むための機関でもあり、魔術を使うための機関でもある。そこに術式の簡略化のための刻み込んだ刻印を術式刻印という。
魔術が発動するまでの肯定があり、その工程のシングルアクションで起こすことがフロムの言っている簡略化に当たる。魔術にあたる呪文詠唱は安定して魔術を扱うためのものであったりする。だが、術式神経は人によって違い、それによって同じ魔術を行使させても呪文は人によって違う場合がある。
これは余談だが。
魔術は属性はないものの系統というものがあり、その系統の中で自分以外に使えない魔術を人は称して【自己暗示魔術】という。
「リベリア嬢、手を」
先生に自分の手を差し出すと、先生は私の手を包み込むと魔素を通した。
握られている部分から電流のようなものが走り、肩でたまる。それは何秒かくすぶっていたが、先生が手を放すと痛みは消えた。
「リベリア嬢、お気に入りの魔術が有ったら、それをイメージしながら、さっきほど痛くなった場所を触ってください。そこに登録されます。スロットは一つ。用心してくだされ。
その後に、魔素を通しながら、自分なりの動作をしますと、それで動作も完了。決めたら、循環させている魔素を一回全部切ってくだされよ」
「わかったわ‼ 先生ありがとう!」
これで先生の授業は終わる。だが、最後の難関である、両親の旅路への用意と近々行われる社交場の用意もしなければいけなかった。




