先生と呼ぶ人
「初めまして、リベリア嬢。儂の名は、フロム。性は無くただのフロムと呼んでくだされ」
私の師匠となる人はフロムと呼ばれる人だった。彼は王宮の王族に魔法などを教える育成のプロでもあった。そして、父の伝手で来た彼は噂通りとても勤勉な賢人だった。
髪は白髪だが目尻に刻まれた皺は彼の歩んできた道の証だろうし、その中にある眼は子供のようにキラキラと輝いている。だが、彼が見に付けているのは簡素な服だった。白いシャツに、紅いネクタイ。黒色のズボンの下の靴下はよれている。だた、靴は綺麗に磨かれ、何らかの特別なものなのだろうと思わせた。
「初めまして、フロム殿。私の名はリベリア。リベリア・クラウソリス。このたびはこのようなお話に賛同頂きありがたく」
「よいよい、堅苦しいのは無しじゃ。只の老いぼれが教えを説き、若人が教えを乞う。それで良いのじゃ」
「・・・・・・ありがとう。では、フロム先生、と」
可憐な花を思わせる頬笑みにフロムはうんうんと頷く。
「にしても、何故に、リベリア嬢はこのような行動に?」
彼女の自室は普通の帰属にしては広い。そこに椅子を持ち込み、勉強することになった。
「私、力を付けたいのよ。で、家を出るわ」
「ふむ。力をつけたい、とな」
フロムは僅かに思案したように眉を寄せる。
「ちょいと老いぼれの小言を聞いてくだされ。リベリア嬢、貴方は力を求めようとしてらっしゃる。だがな、その漠然とした内容じゃどういう風に力をつけるか分からん。更にじゃ、無我夢中で力を求めたその先には破滅しか待っとらん」
この人は本当に思慮深い人だ。生徒を生徒と見るのではなく、生徒のリベリアとしてみているんだ。
リベリアは感銘を打たれたかのようにフロムの顔を仰いだ。
「それと、力をつけた者は尊敬と畏怖にさらされるのじゃ。貴方の隣に立てる者は圧倒的に少なくなるじゃろう。貴方はいつか人を守ることが出来るようになる。そして、守りたいものが出来ることじゃろう。だがな、守られた者のことを考えるのは大事なことじゃ」
皺が深く刻まれた指が私の膝に置かれた手を包む。
「頑張ってくだされ」
フロム先生は私の先を見ている。それで、助言を与えてくれてるんだ。
良い先生だな、と思う。
「ありがとう、フロム先生」
「いやいや、話をきっちり聞いておる。見込みがありそうじゃ」
先生はぼろぼろの皮鞄から、ペンと羊皮紙をまとめたものを取りだす。
インクを引き出しの中から出して渡すとフロム先生は嬉しそうに笑う。
「さてと。何からやっていこうかの」
そういって、先生との勉強が始まりを告げた。
***
フロム先生の最初の授業は作法と歴史の授業だった。
「ふむ、そこは違うぞ。指先を僅かに。そうそう」
カップを持つ指の角度から。
「違う、そこは華やかに回る! そうじゃ! おりょ、ステップが間違っておる!」
社交場のダンスのマナーに。
「そこは、しずしずと、そう! 上手いではないか!」
挨拶の練習まで。
―――――先生、私は強くなりたいんです!
とこの間言ってみたら、『先にマナーじゃ‼』と怒られました。
私は自分の部屋でへとへとに疲れ切っていた。フロム先生の授業は苛烈極まりなく、次の日に確認テストと二週間のこの期間で素晴らしいほど鍛えられた。
淡い色合いの壁、大の大人よりなお高い本棚三つ(圧迫感ヤバい)、勉強机、そしてその後ろにあるのは大きな窓。どこかのお偉いさんの事務室に大きなベッドをつけ足せば私の部屋の想像はつくだろう。
比較的本が好きで集めていたため、結果としては古代語から現代語の読み書き、喋ることは出来る。先生は最初そこから教えようとしていたら、意外と出来てしまったといいますか。それで、出来ていなかったマナーの方に手を打ち始めた。
戦い方はその後だという。
「ふむ、マナーの方はひとまず恥ずかしくないぐらいまで叩きこんだ」
あんなに切り詰められれば覚える以外ないでしょうよ。
「ふむ、じゃあ、次は歴史かの」
はい? 戦い方は?
「ちょ、ちょっとまって。先生はマナーの次に戦い方って・・・・・・」
「ほほっ、そんなこと言った記憶は老いぼれの頭にはないぞー? それに、歴史はマナーの一環‼」
こんちくしょうっ、と心意気を込めて不満そうにそっぽを向く。
すると、フロム先生は愉快そうに笑った。
「さてさて、これをやったら本格的に始めてやるわい、戦い方をな」
***
私たちが住む神聖エムニア王国。
獣人や亜種などが住む『ベルベリア大森林』。王族や貴族などが集まる最も盛んな街『王都カンダムニア』。東には『山の黄金』。それ以外の都などで構成された大陸で2番目に大きい国だ。
隣の蛮族が収めるスオーディ国があり、そこは結構荒れているのだが。
この神聖エムニア王国は争いもなく平和な国だ。
ほかの大陸は魔族などに取られてしまってないらしい。
神聖エムニア王国は最初小さな小国から始まったそうだ。嵐が来れば瓦解しそうな彼らは妖精に力を求めた。
彼らの誠意に応えた彼らは自分たちの住処を作ること――『ベルベリア大森林』を希望し、それによって彼らは妖精の加護を得た。更に、この国は『山の黄金』と呼ばれるミスリルの発掘出来る山脈があった。妖精は鉄を嫌う。それによって、この国の武器は鉄が消えミスリルが埋め尽くすようになった。妖精は自分たちに損を与えず得を上げる者に加護を与える。それによって、彼らの山脈はミスリルが尽きることも無くなった。
これによって彼らの国は徐々に強くなってゆく。大きな国になっていくにつれ、腐敗していく国が多い。しかし、この国の王は健全だった。
溺れてゆく者を直し、または治して、国を支え続けている。その功績によって私たちの国は平和に繁栄を築いていた。




