了承
「私は、その職を悪しきものだと思っています」
「そう」
笑みを絶やさない母から、僅かに硬い声音が吐き出される。
「そう、ね。確かに嫌いになることでしょう」
「アンネッ」
お父様が止めようとするが、彼女は考えがあるというように話を続ける。
「確かに私たちが行っていることは公にしてはいけないことです。
それをここで公表した貴方はどういう選択をするの?」
「私は、悪しきものだとは思いますが、必要なことだとは思います。
今の私は、判断が出来ません」
一区切り置いて、息を吸って、その決意を明かす。
「その判断するために、旅に出してもらいたいのです」
家からも出たいし。それに、世界は広い。ちょっと大きなお国の公爵令嬢に留まってるのも勿体ないし。
旅するんだったら、実力もつけないといけないから特訓しよう。
お父様の瞳は鋭利な程に鋭く、私の思惑を探っていた。それに比べて母親は突然公表された旅(家出)におろおろとしている。
だが、お母さまは瞳を閉じると眉根を寄せた。数秒してちょっとがっかりしたような顔をしたから、多分十中八九『未来視』を使って私の未来を見たんだろう。困ったときは母親をみれば大体解決する。
「わかった。良いだろう」
お父様の声は、どこか消沈していて。少し意外だった。
だが、私の旅路を承諾した思惑が計り知れない。
親の悪い家業を知ってしまった娘を、ある意味で追放したかったのだろうか。
世間体は大丈夫なんだか。
「重ね重ね申し訳ないのですが、勉強させていただきたいんです。
これから生きていく為の」
それには父親も驚いた顔をした。まさか齢十三の娘がそんなことをいうと思っていなかったのだろう。
もしかしたら、一日で泣きべそかいて帰ってくると思ったのだろうか。
「本気なのか?」
「ええ、まぁ。魔法ではなく魔術で、剣の修行もお願いしたく」
「わかった。良いだろう。下がれ」
これで上々。母親と父親の表情は〝変わらない”。
一礼して、私は食卓を後にした。
うきうきと戻ってきた私に、部屋で紅茶を美味しそうに飲んでいたリオンはびっくりしたような顔をした。
「おいおい、何があった。
浅い仲だが、お前がそんな顔してるのみたことねぇぞ」
「私、近いうちに旅に出るわ」
喜々として告げた私を見て、リオンはけろっとした顔で「なんだそんなことか」と呟いた。
もう少しましな反応を期待していた私はあからさまに落胆する。
「もうちっと反応してほしかった」
「俺に求めんな。ついていくからな、俺は」
「別にリオンなら何とかなるわよ。ずっと影の中にいてくれれば良いんだもん」
嬉しそうにはしゃぐ私をみて、リオンは呆れたように溜息をついた。
「俺はお前がどんな道を行こうが知ったこっちゃないがな」




