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Scatter silver  作者: 結ヶ咲 蛍
聖剣と友達
14/18

初めての旅路

 隣国エントブルク。

 流通の栄える王国で、大陸としては四番目に大きい。

 その王都は活気の良さから『眠らない都』という名前を持つ。


 毎日毎日が踊り騒ぎ、鮮やかな空と煉瓦造りの街並みが印象的だ。

 屋台が立ち並び、人々でにぎわっていた。

 猫耳や犬耳などの、人間ヒューマンではない種族、亜人ラモアティエもいる。


「お、おぉぉぉ‼ 凄い‼」

「だなー」


 私とリオンはそんなエンブルクに来ていた。リオンは、もう姿を隠さなくてもいいので実体化している。

 ここに来た理由としては、冒険者ギルドで登録してもらうためだ。冒険者になると貰える会員証は、ギルドが大陸共通な為、あちこちでも使える。

 それに、冒険者登録しておくといちいち言わなくても冒険者とか名乗っておけば、便利だろうということだ。


 移動手段が徒歩だったため、馬車に最後は助けてもらったが、ここにつくまで十日間ぐらいかかった。


「大事なのは、今日泊まるとこだな。遅くなって無くなったりでもしたら、ここにきて野宿になるぞ」

「いやー、しんどかったよ。野宿」

「令嬢にしては、慣れすぎてた気がするけどな」


 一応この服は浮かないドレスだが、少し一般人には派手かもしれないということで、マントを羽織っている。だが、元々ドレスに外套がついていたため、少々厚ぼったい。一応顔は羽織って隠していた。


「服、欲しい。楽なやつ」

「じゃあ、冒険者ギルド寄ってからだな」


 冒険者ギルドの位置を聞こうと屋台のおじさんに声をかけた。


「冒険者ギルドぉ? 二人がかい?」

「ええ、一応」

「はっはっ。変なこと言うねぇ」


 むっ、とした私は、銅貨を必要分突き付ける。


「教えてくれたら、そこにあるリンゴ、買ってあげようと思ったのに‼」

「おおっと、そりゃあいけねっ。あそこのずっと向こう側に木の看板にでかでかと『黒猫亭』とかいてある場所がある。あそこの下が冒険者ギルドだ」


 リンゴを一つばかり掴むと、銅貨をおじさんに渡す。


「ありがとっ。冒険者になって見返して、また買いに来るよ‼」

「はっはっ。こりゃあ、休んでられなぇな‼」


 おじさんに手を振り、言われた方向に歩き出す。

 リンゴを一口齧ると、酸味が口の中に広がった。


「これ、ムースにしたら美味しいんじゃないかしら」

「パイの方がよくね?」


 ひょいっ、とリンゴを奪い、リオンも口にする。

 

「私、煮た果物苦手なのよ」

「普通にうまいのにな。損な舌だ」


 べー、と舌を出すと、イーラは苦笑した。

 そのまま歩いていると黒い猫の看板に白い文字で『黒猫亭』と書かれている。


「あれかな?」

「多分」


 周りの建物と比べると、外見は少しばかり大きい。だが、見た目はそんなに変わらない。

 だが、大きく開いた入り口からぞろぞろと武器を持った人たちや、杖を持った人たちが出てくるから彼らが冒険者で良いのだろう。

 

 中に入ると、周りでクエストの貼られた掲示板を見てくる人が睨んできた。

 だが、そんな視線を華麗に無視し、カウンターまで歩み寄る。

 カウンターにいた受付嬢は視線をあげると、「ご依頼ですか?」と声をかけてきた。


「いいえ、冒険者志望です」


 ギルド内が一瞬で静まり返った。覇気に満ち溢れた視線が二人に刺さる。


「あの、舐められて貰っては困るのですが」

「どうしてですか?」


 まぁ、十中八九見た目と、歳だな。

 後ろでリオンが口に手を当てて震えている。全部丸投げされた私はどうしたものか。

 

 にこりと、受付嬢が微笑んだ。つられて私も微笑む。


「何歳なんですか?」

「どちらも十三です」


 リオンは見た目も私とそう変わらないため、十三ということにしてある。

 

 ぶっ、と誰かが笑った。それにつられて笑いの連鎖が黒猫亭に響く。


「おいおい、良い御身分さまよ。ここは、薄ぎたねぇ、身分が低いやつが利用するんだ。

てめぇらの居場所なんか、ねぇんだよ」


 げらげらと笑う冒険者に囲まれる。


「ちょ、クロエさん‼」

「いーじゃねぇの、いーじゃねぇの。どうせ、退室願うんだからさ」


 後ろで受付嬢が声を荒げた。多分、ご貴族様と問題を起こしてはいけないから止めたのだろう。


「わかりました」


 自然と私の声がよく通った。ギルドに静けさが戻る。


「貴方を倒せば、加盟できますね?」


 クロエさんは上を見上げて、一人馬鹿笑いをした後、足を踏み鳴らした。

 他の人が黙っているから、ちょっと堪忍袋をつついたらしい。


「じゃあ、やってみろよ」

「クロエさん‼」


 受付嬢が声を張り上げたが、止まることはしない。

 私とクロエとかいう冒険者の周りから人が離れてゆく。


「おうりゃ‼」


 気合の入った掛け声と共に、拳が速い速度で迫る。場所は腹。声が女性の物だったから、顔はやめようという気付かいだろうか。

(まぁ、どうせ食らわないけど)

 馬鹿みたいにフロム先生と修行をしたわけじゃない。結構な速度で飛ぶ雹や、雨だって切ってきたのだ。このぐらい見きれなくてどうする。


 とん、と横に軽く蹴り拳をかわす。自信があったのか、僅かにクロエが目を見開いた。

 これで決めるつもりだったのか、体重をかける前傾姿勢。このまま標的がいなくなったので、姿勢が崩れている。そこに、私は『身体強化』を加えて、そいつの顎に向けて拳を繰り出す。


 ごっっっ、という音と共に入り口の横の壁までクロエが飛んだ。一瞬で避けて人垣が分かれ、そのままの衝撃を保ったまま、壁に巨体が激突。

 ぐらっ、と建物が揺れた。


 はずみでフードが取れてしまったが、気にせず後ろを向くと。

 唖然とした顔で私とのびた冒険者を交互にみる。ギルドも全員シーンとしていた。


「あの」

「あひゃい‼」


 変な悲鳴で返事した受付嬢に、疑問を抱きながら。


「加盟で良いですか?」


 と聞いた。

 すると、真顔でこくりと頷き、申請書をゆっくりとした手つきで二枚出した。

 そして、遅れてざわめきはじめる。


「おい、あの嬢ちゃん、Cランクのクロエを」

「意外とやばいんじゃないか?」

「つーか、あいつどうにかしてやれよ」


 とざわめき始める。

(ちょっと、やりすぎた?)

 と思いつつも記入項目を埋めていく。


「あの、先程は何を?」

「あっ、普通にぶん殴っただけですよ」


 笑いながらそういって、二枚分の申請書を出す。ははっ、と乾いた笑みを浮かべた受付嬢に渡すと、それを何か水晶版のようなものに挟んで上に一枚のカードを置くと、円を描くようになぞる。すると、水晶版が輝き、記入した内容が浮かび上がって、カードに吸い込まれてゆく。それを二枚作ると受付嬢は私たちに手渡した。


「これが、ギルドの加盟証になります。これは大陸共通になりますので、無くさないように。クエスト申請の時と達成の時にご提示をお願いします。再発行は一回までです」


 ギルドカードを貰った私たちは騒然とした冒険者ギルドを後にした。

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